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7話 とある竜人、と1on1!

「クソ! クソ!」


(なんで僕は、にぃさまのように強く、剣技を上達できないんだ!)


「やぁ!」


 ――カラン、コロン。

 木剣を投げ捨てたリュエル。あらまぁ、物にあたっちゃだめでしょうよ。


 しかしリュエルは、本気で悩んでいた。

 自分はもう十一歳になるにも関わらず、魔法の才能もなく、剣すらまともに振れないという事実に。そのため勉学に関しては人一倍がんばってきたつもりだった。が、あと五年で成人ゆえ、焦りが勝ってしまうのも無理はない。

 勉強ができても、勉強もできる兄たちには勝てなかった。


 この世界では十五歳で成人だ。十五歳になると、兄たちのように魔大陸にいって魔族を狩らなければならない。そうしなきゃいけなくなる。

 あと五年で、強大な魔族たちを相手にできるのか?

 死なずに生存できるのか?

 心配だった。焦っていたんだ。


「もー我慢ならん!」


(せっかく集中できてたのに、あのデブのせいで……っぐぬぬ)


 地団太を踏んでいたリュエル。

 パチパチと二回手をたたいて、執事を呼んだ。


「じいや、あのバカデブをここへ呼んで来い!」

「かしこまりました」


 執事はえっほえっほと消えていった。

 このように、リュエルは使用人の扱いがよくなかった。有名だった。

 リュエルにはメイドや護衛、もっと多くの執事がいてもおかしくない身分であるが、今じゃ年配の執事しかいない。リュエルが赤ちゃんの頃を知っている執事のみなんだ。

 

 他は全員辞めていった。

 気性が荒く、人を物のように扱うリュエルに、味方なんていなかった。兄たちは信頼されて、近衛兵もいるが、自分はいつだってどうせひとりになる。

 だから最初から諦める。心を許したりしない。

 

 今いる執事が定年で辞めてしまったら、リュエルにはなにもなくなってしまう。だから強くなって、自分が受け入れられなくとも、無理やりにだって認めさせてみせる。そんな思いでがんばるしかない、悲しい状況だった。


 腕を組んで、片足をジタジタさせ、はやく来ないかなと待っているリュエル。

 次第にその足踏みは強度を増して、最後にひとつ、大きく踏み込んだ。


「ああ! もうおっそい! じいやはなにを――」

「よぉ、さっきぶりだな。どうしたチンチクリン」


 リュエルは勢いよく振り返った。


「遅いぞ! あとそのチンチクリンってよぶのやめろ!」

「あ? やだ、チンチクリン」

「なっ……まぁいい。お前、今から僕と勝負しろ!」


 沈黙。

 ふたりの目と目が合い。

 

 ラグナスは腹をかかえて笑った。

 ラブソースウィートが流れることはなかった。


「ブっ、ぶハハ! お前みたいなガキが、この俺様と?」

「そ、そうだ……なにがおかしい!」


(あ? だが目つきは本気みてぇだな)


「……ちっなんでもねぇ。いいぜやってやるよ!」

「そ、そうか? 案外素直なんだな……」

「勘違いすんじゃねえ、どっちが立場が上か教えてやるだけだ」

「な、そういうことか!(でも、戦えるならよかった)」



 向かい合わせ。

 リュエルが剣を握り、ラグナスは木の実を片手につっ立っている。


「――では、始め」


 執事が手のひらを垂直に上げると、開戦の合図となった。


「さぁどっからでもこい」


 むしゃむしゃしながら言うラグナス。

 その目は、退屈そうだ。


「ふっ……」


 リュエルが体をフラフラとふらつかせ、途端に踏み込んだ!


(……っはえぇな)


 踏み込んでからの初速が速い。

 もうすでに、ラグナスの眼前まで迫っていた。


「どおりゃああ!」


 ――バッ

 ひょこ。


 横にすっ。

 ラグナスは、尻を後ろに突き出して、エビみたいに真横によけた。

 むちゃくちゃウザくかわしやがった。


「ほらそんなもんか」

「この! この! この! だあっ!」

 

 ひょい、ひょい、ひょい、ひょい。

 舐めプしまくるラグナス。


「お前、嘘だろ……」

「喋るな! ――だああ!」


 ひょこ。


(初速は速かったが当て感がねえな。所詮、剣を握ったばかりのガキ同様、ガッカリだぜ)


 そして再び向かってくるリュエル。

 これも簡単にかわして、ラグナスが手刀を入れようとした。


(出直してこいガキ)


 が、ビュッ

 よけられた。


(……っ! かわした、このガキ。間一髪でしゃがんで)

 

 ラグナスの目が見開く。


 そして――


「おらっ!」


 カァン

 

 キンキンキンキン金(※エコー)


 

 リュエルは、ラグナスの股間に蹴りを入れた。


  

 そして沈黙。

 リュエルはどうだ、と言わんばかりの表情を。

 ラグナスは、ピクピクしながら内股になっている。


「バカめクソデブ! 攻撃がすべて木剣だと思うなよ!」


(このガキィ……(ಠ益ಠ))


「ふっ、おもしれぇ、……全部わざと下手ぶってやがったな」

「……?」


 首を傾げるリュエル。

 ラグナスは、リュエルがこの瞬間自分を一矢報いるために意図して下手を演じていると考えていた。

 が、当然リュエルはそんなことしていない。


(まだ演技をつづけるか……ならばその下手くそな芝居、今に終わらしてやるよ)


 瞬間。

 ゆっくりとラグナスが顔を上げ、リュエルを見下ろした。

 

 そしてラグナスが、消えた。

 

 バッ


 背後。

 リュエルの後ろに、大きな影が現れる。


「なっ! アイツ、どこいった!?」


 リュエルが振り返る。

 が、時すでに遅しである――


 ラグナスは、リュエルの顔面に脚を振った。

 執事のしわしわな目元が見開かれた。


 ――ドンッッ


 胸の奥に響く、重い衝撃波。

 リュエルの顔に入ったかと思われたラグナスの蹴りだったが。

 紙一重で執事が間に入った。


 ズルズルズルズル……


 あまりの威力に、執事は腕を交差したまま横に飛ばされる。

 が、ギリギリで地に足をついて、その威力を殺しているようだった。

 腕からは、摩擦で生じた煙が立ち上っている。


「なに止めてんだジジイ」

「ぼっちゃんは反応できていませんでした、買いかぶりすぎです」

「あ?」


 やはりラグナスの勘違いだったようだ。

 リュエルは、真っ先に執事の元へ駆けつけた。


「……大丈夫か、じいや」

「はい、大丈夫です。(流石竜人の蹴り、太っていて動作が鈍くなっているとはいえこの威力……。私が止めなければ、ぼっちゃんの首は飛んでいたでしょう)」


 執事の目元は影に覆われ、考え事にふけっていた。


「おいデブ! じいやに謝れ!」

「あ? 勝手にそのジジイが入ってきたのがわりぃんだろ。てかお前、やっぱよええのかよ……」

「はい、ぼっちゃん。私は問題ありませんので、心配しなくて結構でございます。(それよりもあなたが無事でよかった。それが私にとって、なによりなんですから)」

「……ぐぬぬ」


 するとそこに。


「「なにがあったんですか!!」」

「「大きな物音が!!」」


 数人の近衛兵らが赴いて、その場は収まったようだ。

 執事の腕は、全治六か月の大怪我だった。


 そして、《不動の災厄》を動かせたのは紛れもない、たった十一歳のリュエルであった。

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