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6話 とある竜人、王城到着!

 ラグナスは、ぷんすかぷんすかと怒ってつづいた。今ふたりを案内しているのが、第二王子の近衛兵である。前を見れば、無言で、無表情で歩いている。

 

 事の経緯は、第二王子が去り際にひとりの近衛兵へと指示を出し、案内するように言ったからである。

「あの肥満体型のドラゴンを、王城まで案内してやれ――」と。


 あれ? 実はいい人なの?

 あの金髪にいさま。と思いたくなるが、それが第二王子の仕事だったようだ。要するに、事前に国王から下されていた任務。ラグナスたちを王城まで案内させるように、って。


 おかげで、スィルがいるから事足りてるであろう王城までの道案内を、第二王子の近衛兵がやっている次第である。それにラグナスは、ぷんすかしながら付いてってるわけだ。

 

 もっとも、第二王子は今日から再び魔大陸へと赴いて、魔族を狩りに行かねばならないようなので、出立するついでにラグナスたちを見つけれて都合もよかったことだろう。

 これが、全部で六人いる王子様の仕事であり、任務であり、国を代表する者たちの宿命なのである。


 ラグナスたちは、歩きながらこんなことを言っていた。

 

「せっかく服を買って見だしをそれなりに整えたのにね」

「……ちっ」

「まぁお腹の辺りがはち切れそうだけど」

「ぅるせぇ」


 そう言って、ラグナスはアイスクリームを口に放り込んでいるが。

 ちなみにこのアイスクリーム、『ゼルカ神聖王国』の名物である。《白神》を崇めるこの国では、白いものが尊ばれるからだ。

 辺りを見渡せば、白いレンガの建物、白い衣、白い花、白い食べ物。と、信仰の様子が顕著にうかがえる。このアイスも、例に漏れず真っ白だった。

 

 また、他国にも名物なるものは存在するが、それは他国に赴いたときで十分だろう。


 

 そ・れ・よ・り・も、だ。

 現在、もうとっくにラグナスたちは、王城の前の大噴水まで来ていた。「仕立て屋ラッド」を出たときが、すでに王都の上層、王城まで近かったので。


「――では中へお入りください」


 王城の手前の階段をのぼり切り、とうとう眼前には大きな大きなそれまた大きな王城が聳え立っていた。見上げれば、青色の屋根をしていて、他の街並みと違うのが異様な雰囲気を醸し出している。それでいて立派なのだ。


(……やはり千年前の面影がなくなってるのは言うまでもねぇが、どうにも一瞬、嫌な予感が鼻をよぎったぜ。なんかいんのか?……)


 ラグナスはそんなことを考えながら、歩みを進めていた。五人いた番人が、入り口の両端にはけて頭を下げている。おそらくスィルの影響だろう。


 王城に入ると、まず最初に真っ赤なカーペットが見えた。上には黄金のシャンデリアがあって、玄関がとにかく広い。結婚式の会場みたいで、大きな広間になっていた。


 そして、ふたてに分かれた階段が、結局は同じ通路に集結するああいうタイプの白い階段があって、その上にもレッドカーペットが敷かれている。これはお城あるあるだよね。

 ちゃんと手入れも行き届いてて、きらびやかにピカピカしているように見えた。


 階段を上がりきると、突き当りには大きな壁画があった。


「おそういや、《白神》のこの壁画、千年前とあんま変わってねぇな」

「そうだね。それだけ信仰心が強い証だよ」


 その壁画は、《白神》――《ゼルカ=ネ=アヴル》が描かれたものだった。

 この世界には、存命しているものからすでに死去しているものを含めて、全部で四の神が存在する。が、それらはすべて、色の略称で呼ばれている。

《白神》は生きている。


 また、壁画に描かれている《ゼルカ=ネ=アヴル》だが、これが動物の「鹿」の姿であったり強大な「悪魔」の姿であったり、はたまたふつうの人間の姿であったりと、さまざまな姿で描かれているのは《ゼルカ=ネ=アヴル》が四大神の中でも「変化の神」であり、万物に囚われないドラゴンと似た「自由の象徴」であるためである。

《白神》は、なんにでも染まることのできる「白」が由来になっている。

 

 ゆえあって、ドラゴンと似ている《白神》を崇めているこの国では、ラグナスをよく思わないのも頷ける。(※ドラゴンを崇めている国もある)

 余談だが、ラグナスたちは、《白神》は、見たことないのであった。


 すると、壁画を見ていたラグナスたちに、どこからか可愛らしいお声が飛んできた。


「やっふぃ~スィル、帰って来てたんでゃあ!」

「やっほ~ルエナ、ただいま」


 ルエナとよばれている者は、背が低く、猫耳をした獣人だった。つまり人族である。

 白いマントを羽織って、八重歯をちらつかせながら走ってきていた。


「このひとが、スィルの言ってた新人さんかにぁ?」

「そうそう」

「ああそうだが」


 ラグナスが怖い眼光で見下ろしている。


「ん~、おなかおっきいね。妊娠してるのかぁ?」


 そう言って、ぴょんぴょん跳ねて、ラグナスの懐に侵入した。

 やはり背が低く、ちょうどラグナスのお腹の位置くらいにルエナの頭がある。


「おい、なにしてんだ」

「ん”~、きこえるかなって」


 ルエナは、真剣な表情でラグナスのお腹に猫耳を当てている。

 なにしてんねん!

 しょたいめんだよしょたいめん! ルエナさん!


「……ルエナ、ラグナスは獰猛な男のコだよ」

「……ににゃ!? そうなの!? てっきり髪が長いからそういう人なのかにぁと」


(いやどんな人だよ)←スィル 

(こいつ気づいてなかったのかよ)←ラグナス


「いや声でわかるだろ」

「だからそういう人もいるのかなって思ったんでゃよ!(※やけに早口)」

「ああそうか」

「じゃあ男の人なら襲わないでっぇ……」


 それをラグナスに上目遣いで言い終えて、すっとスィルの元へ帰って行った。獣人は動きが俊敏なのである。あとおっちょこちょい。

 対するラグナスは、木の実に夢中だった。


「で、どうしたのルエナ」

「あ、そうそう。最近、魔族の動きがおかしいのはスィルもよくわかってると思うけどぉ、そのせいで想像以上に他国で怪我人が出ちゃってにぇ……」

「うんうん」

「それで、スィルと僕とで『スケダチ☆』に行って欲しいとのことにゃんだってよ!」

「わかった。準備してくるね」

「おい、まてまて、どういうことだよ」


 木の実を食べながら言うラグナス。


「ラグナスごめん。仕事である以上、応援は行かないといけないんだ。だから少しの間ひとりで頑張ってて」


 そう飄々と無表情で言いながらどこかに行ってしまったスィル。想像以上に事態が深刻化しているらしい。

 スィルも立場上、緊急なことがあればすぐ向かわないといけないのだ。きっと夜頃にはもう出発しているだろう。


「おい……まじかよ」

(ちっまぁいいわ。好き放題やれるしよ)


 ラグナスは取り残された。

 ルエナは、ふたりきりになったことを確認すると笑みを浮かべた。

 

「まゃ僕たち強いからしょうがないよにぇ……ニシ」


 ルエナはそうボソッと言って、ラグナスの方を向いた。


(あ? こいつは行かなくていいのか……)


「――ちゅっ」



 途端に、意味不明な投げキッスをしたルエナ。

 そしてスィルの後を追って去って行った。



 

 (눈_눈)?(※ラグナスはこんな顔してました)


「んじゃ、がんばってにぁ~竜人さん」


 そう言いながら手を振って遠ざかっていくルエナ。そういうやつである。あるいは、なにか狙いがあるのだろうか。


(なっあいつ、俺様のこと竜人って知ってて……)


 最後までわけのわからないやつであった。



 その後、残ったのはラグナスと近衛兵だったが、城内の案内は続いたようだ。が、暫く経っても城内すべては回り切れていなかった。それだけに王城は広いと言えるだろう。


 そして現在ラグナスたちは、建物と建物をつなぐ長い渡り廊下を歩いていた。広い中庭の上にかけられた、外にむき出しになっている廊下のことである。ちなみに、ここだけ雰囲気が変わって石づくりになっているのは、雨風にうたれても平気なようにである。


 また、これ以降の案内は明日以降に持ち越されるだろう。もう日も傾いていて、この廊下からは夕日が見える。左を向けば、等間隔に穴が開いているので夕日が照らすのだ。

 反対側の城の屋根に被っているので半分しか見えないが、それでもかなりまぶしいようだった。


 すると、ラグナスたちが廊下の半分まできたとき、中庭にひとつの影が見えた。

 小さい影だ。


「あ? 誰だあのガキ」


 よく見ると、白髪で、な~んか見たことある感じである。

 あっれ~?

 もしかして、

 第六王子さまじゃない?


 中庭で第六王子のリュエルが剣の素振りをしていた。

 それも、へなちょこな素振りを。


「ぶフ!」


 ラグナスはその様子を見て吹き出した。木剣が重そうで、まともに剣が振れていないのだ。


(……なんだあいつ、あんだけ口が達者だったくせに、全然へなちょこじゃねえか!)


 だが、その目つきは真剣に。汗を垂らしながらも剣を握っている。

 集中して、強くなろうとしてるのが伝わる。

 が、そんなのお構いなしなのがラグナスである。


「おーいこらガキ! お前全然素振りできてねえじゃねえか~!」


 リュエルの耳がピクつき、すぐさまこちらに視線を向けた。

 その顔は真っ赤で、まさか見られてるとは思ってもなかった表情である。


「……っ。う、うるさいぞ! またお前かこの!」

「なんだ~? きっこえねぇな~」


 ラグナスは前屈みになって、でっぷり太った腹を強調しながら耳に手を当てた。

 きっこえっましぇ~ん、のポーズだ。


「嘘つけ! 絶対きこえてるだろ!」

「へっ、まぁせいぜい頑張れよっ」


 乙、と上から見下すラグナス。そして、あからさまに木の実を齧りきって、見せつけてやった。流石にこれされたら誰でもキレるだろう。ラグナスは人の気持ちがわからないくせに、煽り性能が結構高いようだ。


「今すぐに降りてこいこのデブ!」

「じゃあな~~」


 ラグナスは手を上でひらひらさせて、再び歩みを進めた。リュエルのことなんて見向きもせず、木の実に夢中だ。

 近衛兵は苦笑しながら、仲裁には入らなかったようだ。


 リュエルさんかわいそうに。

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