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プロローグ


設定は、のちのち繰り返し登場するので覚えなくて大丈夫です。


がんばって投稿するので、応援してください。

「――ここでいいよ。ご苦労さま」

 

 とある森の街道に、王都の紋章を掲げた馬車が静かに止まった。扉が開き、長耳の女が雪を踏みしめて降り立つ。

「……ぅぅ寒い」

 白い息をひとつ吐き、エルフの女は道なき森奥へと消えていった。

 


 

 かつてこの世界は、史上最悪と恐れられた魔王によって支配されていた。魔王は、一体いれば国を滅ぼすことで有名な幹部たちを従え、神代の魔法すらも自在に操り、人々を容赦なく嬲り殺しにした。


 が、一生涯つづくと言われたその暴威も、ある日忽然、いとも簡単に終わりを告げることとなる。


 その魔王もまた魔人であったが、一見、メンバーに一人ドラゴンがいるだけのフツーの冒険者パーティにあっさり倒されてしまったのである。

 のちに伝説の勇者パーティと称されたパーティメンバーは、以下のようだった。

 

 ・短剣一本で魔王を切り伏せた勇者。

 ・無詠唱魔法で魔王軍の幹部を焼き尽くしたエルフ。

 ・単身生身で千を超える魔族の軍団を殲滅したオーガ。

 ・そして、そのすべての戦いで、暇すぎて寝ていた竜人。


 彼らは結成して半年もしないうちに、魔王を討ち取ってみせた。

 彼らは強すぎたのである。


 が、魔王は消滅しても、また別の魔王が現れる。それがこの世界の理であった。

 新たな魔王が誕生する条件は、魔族(魔人・魔物・魔獣)の中で、《邪王の証》を持った個体が成長することだが、だいたい二十年もすれば魔王児がまた新たな魔王へと成り変わるので大変であった。

 人族(人間に味方する種族の総称)にとって。


 よく考えてみてほしい。いかように大変だったかを。

 まず《証持ち》は同世代に一体のみしかいなく、それを判別できるのは同種である魔族だけなのだ。

 人族はぱっと見で《証持ち》かを判断するすべを持っていなかった。

 

 よって人族がとった行動は、あまりにも無謀だった。

 どの個体が《証持ち》かを判断し得れなかった人族は、とりあえず片っ端から魔族を狩ることで、新たな魔王の誕生を未然に防いでいたのである。


 が、防げた。

 史上最悪と恐れられた魔王を倒してから千年間。あの駄作で、一度も魔王の再誕を許さなかった人族たちを、誰か褒めてやってほしい。


 要因は主に二つあるとされる。

 

 1.魔族は共喰いをする習性があるため -

 シンプルに自滅してくれた。

 が、長い歴史を振り返っても、ほとんどの魔王が「魔人」だったのは魔族の中でもっとも賢いからであるのは言うまでもないが、《証持ち》の個体を別の個体が喰らうことで、《邪王の証》は移るという仕様があったので厄介だった。

 ゆえに、賢い魔人は証を奪い、生存することができたために、魔王となる確率が高かったのもこの世界の理である。


 では、なぜそれでもなお千年間、新たな魔王の再誕を人族は許さなかったのか。


 2.彼らが存命していたため -

 千年間、正確には寿命で勇者が死に、オーガも死んだあと、彼らが頑張ったのだ。

 

 あ、彼らってのは、竜人のことじゃないよ?

 全然。

 ほんと。

 

 だって、伝説の勇者パーティがひとり、《不動の災厄(戦闘中ほとんど寝ていて動かないため)》の異名を持つ竜人は、パーティが解散して以降、ずっと森の奥部で眠っているらしいから。

 クマみたいに。

 冬眠だよ冬眠!

 

 そう、であるがため、彼らってのは「王国の抱える戦力」のことである。(※戦力視されていない竜人は含まない)

 王国には円盤の騎士なる者や聖騎士などがいて、そやつらが頑張ったのだ。のちに加わったエルフも頑張った。


「――ここ、右だよね」

 

 

 ゆえあって、伝説の勇者パーティが魔王を葬り去ってから千年後。

 街並み? 変わり果てた。地形? 変わったさ。

 千年も経てば、むかしの面影など微塵もなくなる。時間というのは、彼らの成し得た偉業さえも忘れさせた。

 当然、かつてのメンバーの顔ぶれも、減っていたんだ。

 

 生き残ったのは、人族の中でも長寿種のエルフと、あとは単に寿命が長すぎた種族・ドラゴンの竜人。

 このふたりだけが残った。


「……やっぱ、左だったみたい」 


 

 各国は手を取り合って戦力を送り合い、広大な魔大陸を分担し、魔族を狩り尽くした。


「ふっ……あったね、ようやく」


 

 そして今、

 不敵な笑みを浮かべたエルフが、雪を踏みしめる音とともに森の奥部へと辿り着いた。その目線の先にあるのは、木々に埋もれ、雪に埋もれ、外壁が半壊したボロボロの廃屋。

 

 どう見ても人が住んでいるようには見えない。というか、住んでたら逆に怖い。という感想がごく当たり前のように出てきそうなオンボロのぽつんと一軒家を見据えて、エルフは白い息をひとつ吐いた。

 さらに傾斜のきつくなった獣道をのそのそと上がりきって、眼前にそのオンボロい外壁を置く。

 

「おーい、誰かいますか」


 「ここのはずなんだけどな……」


「これ開くのかな」

 

 「あ、開いてた……って、なんで開いてるの」


 と、淡々と独り言を繰り広げ侵入するエルフ。

 玄関の戸を開けると、中は荒地であった。天井はカビだらけ、家具は倒れ、壁には謎の爪痕がある。

 人のいる気配などない、今にも床が抜けそうな最悪の景色。


「……二階かな」


 エルフは階段の上を一望した。

 光など一切なく、普通なら足を踏み入れるのも躊躇うほどの不気味さだ。

 が、彼女は、そんなのお構いなしにズカズカと進んで行く。


 ギシギシと軋む階段。

 その音に混じって、部屋のどこからか唸り声が聞こえた。


「いるね、これは」


 エルフは口元にうっすらと笑みを浮かべながら、廊下の突き当たりへと進む。

 そして、「俺様の部屋」と書かれた木の札がぶら下がった扉を、ノックもせずに当然のようにこじ開けた。

 


 これは、魔王討伐の千年後、落ちぶれてヒキニートになっていた竜人の余生を綴った物語である。

ひと言


本気出します。

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