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真夏の冒険

 コンビニのトレーディングカードが売り切れていて残念な気持ちになるのと同時に、そんなに人気だったんだと驚く気持ち。世代的にど真ん中のアニメだけあって、懐かしさもあり何気ない気持ちで一袋購入してみたら一発目で主人公がお出ましになったので気を良くして『翌日に』と思っていたのだが、皆考えることは同じらしい。狙っているカードが主人公が『変身』した姿のバージョンであるので、もしかしたら『レア』ものなのかも知れない。



 別のコンビニに行けば手に入るもの、という甘い考えは移動半径を広げて数軒立ち寄った結果見事に打ち砕かれた。



<え?なんでこんなに無いの?>



需要の度合いを考えればある意味で『驚愕』ではあり、徒労に終わるとその分の『がっかり感』が半端ない。四軒目では思わず作業中の店員を呼び止めて、



「新商品のカード、在庫ってありませんかね?」


と訊ねてしまった。バックヤードに確認に行ったらしい店員さんに「売り切れになってます。入荷の予定がちょっと分からないので申し訳ありません」と手間をかけさせてしまった事も何となく申し訳なく感じる。



たかがカードだろ!



 頭の中でそんな言葉が聞こえてきそうにはなるが、改まって考えてみるとそういう類の商品の転売が社会問題化している時代には少しだけ意味合いが異なる認識かもしれない。ネット上の検索結果からはクオリティーの高い品物との評判もあるし、俄然手に入れておきたい気持ちが強まる。あくまで『正攻法』に拘り、徒歩で行けるギリギリの距離にあるコンビニまで真夏の太陽の容赦ない『攻撃』を受けながら移動した際には正直気持ちが折れかけた。



「日傘でも買おうかな…」



自販機の缶ジュースで体力を回復させていた時にそんな事も考えた。汗だくで何とか辿り着いた末、菓子売場に物品を二パック見つけた時には報われた思いだった。『開封の儀』は自宅で執り行う予定だったが、我慢できず一パックは店の外で確かめてしまう。


「あぁ…これかぁ…」



 ネットミームでもよく見かける主人公の『ライバル』がお出ましになった。これはこれで悪くないけれど、狙っているものではないので肩を落としかける。パック裏にプリントされているカードのバリエーションの確率からすると冷静に考えればそんなものである。最初の一枚が幸運だっただけで、そんなに上手くゆく訳がない。



とはいえ…である。本当の意味で汗が滴るような酷暑の中を命を幾らか危険に晒した上で『この結果』だけでは満足はできぬのである。もう一パックに掛かる『期待』がデカすぎる。それをその場で開封してしまう程の勇気は持ち合わせていなかった。



「お願いします。お願いします」



小声で祈りながら自宅まで必死に歩き(危うくタクシーを呼ぼうかと思ったが)、玄関をくぐるや否や冷房をガンガンに効かせ、グラスに冷蔵庫の麦茶を注いで一気に飲み干した。



ぷはー



とやったその勢いで今度はリビングのソファーに腰掛け、ハサミを使って丁寧にパッケージの上部を切り取る。



「お願いします!」



 最後の願掛けの後に現れたのが作中で無二の人気を誇る『ヒロイン』のレアだったと判明したときの自分の表情はどんなだったろう。明らかに目的の品ではない…それでも当時、コミックとテレビアニメを見ていた自分が、恥ずかしがりつつも心のどこかで恋焦がれたその姿ではなかったか?



「ほんとうに出来がいいなぁ…」



どこかノスタルジックな気分に浸るようにソファーにもたれながらカードを見つめていたら、コミックのお気に入りのシーンがふと蘇ってきた。



『アタシは諦めないあなたが好きなんだよ!』



 何かとても大事なことを伝えようとして主人公に必死に呼びかけているヒロイン。思えばそのセリフが人生の要所要所で聞こえてきてはいなかったか。




そして徐ろにソファーから立ち上がった。



「そうだよな…諦めちゃいけねえよな!」



物語の『主人公』のようなセリフを吐いて、またカードの売り場探しの『冒険』が始まろうとしていた。





(1ヶ月後、無事手に入れましたとさ)

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― 新着の感想 ―
すごくいい話!のはずなのに。あれ?という。 両方が共存しているところが面白いてすね! 知らず知らずはまり、心身ともに使って揺さぶられてますね〜。 でもノスタルジーもあって。 人生もブチ楽しみも、前向き…
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