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Silent rage  潜伏   作者: しゅんたろう
7/20

VII. ”患者”? ”仲間”? Our patient? or friend? That is the question.


〇柊俊介・感染経路に関する分析メモ(非公式)


南雲看護師、PPE完全遵守。だが感染。

発症までの時間:22分。潜伏期短すぎ。

呼吸器症状なし。嗅覚過敏、幻覚、躁状態。

粘膜接触の経路以外に、フェロモン様物質? 中枢神経に直接作用?


俊介は、病院のカンファレンス室で呟いた。


「これは“空気感染”じゃない。吸入性神経毒か、それに近いウイルス性因子……通常の感染防御では防げない類のものだ」


〇VR空間:満の意見


俊介はVRブースに入り、弟・満のアバターと接続する。重度ALSで寝たきりの満は、白衣姿のアバターで静かに立っていた。


「兄さん、感染の経路だけど......あれはもうPPEとか噛まれたとかの問題じゃない」


「じゃあ、どうやって感染してる? 空気?飛沫?接触も当然あるんじゃないか?」


「問題はそこじゃない。さっきもいったけど、多分嗅球経由なんだ。鼻粘膜を介して脳に直行してる。ウイルス粒子じゃなくて“中枢親和性タンパク”が先行して作用してる可能性が高いんじゃないかなあ。ウイルスは後から入ってきて、前頭前野をやる。だから理性が、抑制のたがが外れてしまう。急激に重症のPickみたいになるんだ」


俊介は唇を噛んだ。


「予防できないのか……?」


「理屈ではできる。嗅覚遮断、抗神経侵入剤、人工フィルター.....とか?でも現場で間に合うかは別の話だ」


トリアージカンファレンス(病棟内 非公式議論)


感染看護師・南雲をめぐって、深夜の会議が開かれる。


葛城主任看護師「今ならまだ軽症。隔離で済むかも」


内科 若井医師「でも、すでに言動が異常です。発症者と同じ経過を辿ってます」


精神科 石橋医師「本人の同意が取れるうちに判断すべき。病識のある今だからこそ、処遇を決められる」


祐は拳を握り締めていた。


「みんな、言いたいことはわかる。けど、私たちは“患者”としてあの子を診るのか、それとも“仲間”として守るのか……」


沈黙。


俊介の声が割って入る。


「……両方、やるしかない。医療者としての倫理と、現実との折り合いをつけるんだ」


香坂祐の独白モノローグ


私が看護師になったのは、人を癒やす側に立ちたかったから。

でも俊介と出会ってから、私は“戦う側”にもならなきゃいけないと知った。

あの人はいつも現場にいた。患者に殴られても、夜中にナースコールを鳴らされ続けても、絶対に逃げなかった。

私がどれだけ防護しても、どれだけ書類を揃えても、あの人の現場には届かない。

でも、だからこそ、私は後ろから彼を守りたかった。

恋人としてじゃない。

同じ現場を背負う“同志”として。


南雲の手を縛る自分の指が震えているのを、祐は見ないふりをした。


「しっかりしなさい……看護師長なんでしょ……」


その声は、誰に向けたものでもなく、自分に向けた最後の砦だった。


香坂祐、37歳。看護師長として初めて、仲間を“患者”として隔離する決断を下した瞬間だった。

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