深紅に染まった巨大蟹
地が揺れる。大音量を奏でながら大地が裂け始める。
そこから現れたのは俺の三倍はあろう深紅に染まったカニだった。
「ボスが居るとは思ってたけど、コレはちょっとデカすぎるかもな!?」
なにかウィンドウが出ていたがギガントクラブと言うらしい。わかりやすくて感動するよ。茹でられていないか?とか気になる事はあるが、すぐさまバックステップで距離を取る。しかしなにせデカい。敏捷の足りない俺ではすぐに追いつかれてしまうだろう。さてどうするか、逃げ切れるわけもない。となれば
「徹底抗戦一択か!」
だなんてキメている間にカニは右腕を振り下ろしている。せめてそれくらいの猶予はくれよ、まぁ良いが。振り下ろしはそれほどの速度はない。全力で走りその攻撃を避け、振り下ろされた腕へと全力の一撃を食らわせる。
「硬った!?」
俺の渾身の一撃は真紅に輝く装甲に阻まれた。そりゃそうかカニだもんな。このまま殴れば倒せはしそうだが如何せん時間がかかる。まぁこういうボスは大抵どこかしらに...。
「ビンゴ」
振り下ろされ続ける腕を避けながら、背中へと回り込み大きく入った傷を探し当てる。さてどうやってあそこに攻撃を入れるかだが。カニ足を登る訳にもいけないしなぁ。
「っとと危な」
振り下ろされた腕...あそうだ、良いこと思いついた。実行するのは実に簡単、ここいらで立ち止まってと。そして確実に殺すと言わんばかりに振り下ろされる腕をすんでのところで避けるっ!そのまま飛び乗る!
「完璧ぃ!」
飛び乗ったはいいもののゴツゴツとした腕は勢いよく引き上げられる訳で、風圧と強烈なGが俺の身体を切り裂かんとする。実際ジリジリとHPを削っている、VRじゃなきゃ死んでたな。
「きっついなぁコレ!まぁ良いやもう終わるしな!スキルバーティカルバウンド!」
スキルによる跳躍と腕の振り上げによる慣性により、先程までよりも凄まじい速度で空中へと放り投げられる。
「へぶぶぶぶぶぶ」
情けない声がつい漏れ出ているような気がするが気にしてはいけない、誰にも聞かれてないし。
くだらないことを言っている内に上昇は勢いを止め、重力は俺を地へと引き寄せる。
落下地点はあの傷の真上。チャンスは一度だけ、精神を研ぎ澄ませる。背中へ肉塊としてへばりつかぬよう激突するすんでのタイミングでスキルを起動する。
「スキル一瞬剣撃」
超高高度から地面に引き寄せられた超高速の一撃はカニの背中をまるで豆腐のように切り裂く。傷口から天に召すように光の粒子になり、蟹の身体は消滅していった。
完璧だ。作戦がバッチリと決まった時は何とも清々しいものだ。レベルが上がったようだし、何か素材も手に入った。地上に帰ってゆっくり、ゆっくり...。
「あっ」
完全に着地の事を失念していた。もはや手遅れか、二段ジャンプ、最悪自身を吹き飛ばす何かはないかとスキルを探れどニュービーはそんな高尚な物を持ち合わせてなどはいない。もはやこれまで、完全に諦めうろ覚えの念仏を唱えながら俺の身体は地面へと面白いほどにめり込む。
ボロボロと崩れ行く体で次こそは安全に勝利してみせる、と誓い自分の終わりを見届けた。