成長 ②
開いて下さりありがとうございます!
短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。
「僕達の他にあともう1人役員がいるんだ」
「全員で4名しか居ないのですか?確か去年は8名いた気がするのですが」
「今年は4名で生徒分の仕事は済ませられるというのが教師陣の考えらしい。まぁ本心は、王族に公爵家、伯爵家、男爵家にしろ名門騎士一家……今年は適任者が少なく、この4名に絞られたが、生徒会が権力を持ちすぎるのを避けたんだろうね」
ハハハ……と、乾いた笑顔をしたテオドールはおもむろに生徒会室の扉を開けた。
「遅いぞ」
するとそこには褐色肌の方が壁にそうように立っていた。貴族には珍しい動きやすさ重視の後頭部を刈り上げた短い髪と、腰に下げた剣……名門騎士一家は物心着いた頃からの愛刀を肌身離さず持っているという噂は本当らしい。
「ごめんごめん。そんな事よりも……さっき話してた会計のリリーフィア・ドルファン嬢。あ、こいつはセオドア・ルーズ。名門騎士一家のルーズ男爵家のね」
「お初にお目にかかります。リリーフィア・ドルファンです」
リリーフィアがそうお辞儀をすると、セオドアは鋭い視線をリリーフィアへ向け胸に手を当てた騎士特有の礼をすると
「こちらこそ、ルーズ男爵家が嫡男、セオドアと申します」
顔を上げた彼の視線は直ぐにアメリアに向かった。
初めは怖いと思った彼の視線は、カインのように睨みつけているのではなく元々つり目で人を寄せつけない雰囲気なのだと理解する。
しかし、彼がアメリアに向ける視線は周りに向けるそれとは少し違う気がした。もっと暖かく、心から何かを伝えようとしてくる……不思議だけど愛に溢れた眼差しだ。
「アメリア様!やはり学園内でも自分が護衛を……」
「何度も言っているけれど、学園内で護衛は要らないわ!」
「しかし……貴女に何かあったと思うと」
「セオドアは心配性なのよ。私は学園内なら危険性は無いと思うの」
手のつけられそうに無かった狂犬がアメリアの前では子犬となり、淑女と名高いアメリアまでもが年相応の女の子のように見える。
「ほら、痴話喧嘩は良してくれ。これから話があるんだから」
「痴話喧嘩ではありませんわ!」
ため息混じりに吐いたテオドールの言葉に、リリーフィアはより一層困惑した。
「痴話喧嘩……?」
「あれ、知らなかったっけ?この2人、婚約者なんだよ。それもバカが付くほどのカップルだ」
「こんやくしゃ……婚約者、ですか!?」
リリーフィアは驚嘆した。彼女が思い当たる婚約者というのはこういう仲睦まじげなものでなく、男性側が優位であり、女性はそれに従順に支える者だと思い込んでいたからだ。
しかし、そう言われてみれば納得する。
セオドアのあの眼差しはアメリアを愛しているものであるとするなら、何とお似合いで相思相愛の2人なのだろうか。
名門騎士一家の嫡男と、淑女と名高い彼女は名門公爵家の息女……本当にピッタリの2人だ。
「とってもお似合いですね」
「お前、良い奴だな」
「良い奴だなんて……私はただ思っていた事を言葉にしただけです」
「明日にでも菓子を差し入れしよう」
「あ、ありがとうございます」
緩んでしまった雰囲気を変える為、テオドールは大きく1回手を叩いた。ピリッとした雰囲気は戻り、進級式の段取りやそのあとの話し合いは滞りなく進められた。
そして進級式本番。
生徒会役員の名前は呼ばれ、壇上へと上がった。
テオドールやアメリア、セオドアの名前が呼ばれた途端、今まで飽きてきていた生徒の視線が瞬く間に上がるのがよく分かった。
生徒会は生徒の代表であり、生徒会に入っていた者達は少なからず賞賛を浴びるような何かを成し遂げている。
(私はこのライトを浴びている事に気が引けて仕方が無いのに、ウィリアム様やアメリア様、ルーズ様はそんな風に全く感じない……)
羨ましいと思ってしまうのは、間違っているのだろうか。
◇◇
進級式後、生徒会役員は生徒会室へ集まった。事前に話していた通り、アメリアとセオドアは両家での食事会へ行く為そうそうに生徒会室を後にした。
テオドールと2人きりになったのは初めての事だ。何を話せばいいのか、考えすぎて頭がショートしたリリーフィアにテオドールは優しく微笑むと
「冴えない顔をしているけど、緊張したかい?」
そう問いかけた。
この人には何となく全てを見透かされているような気がする。リリーフィアにはそれを騙す方法を生憎持ち合わせてはいない。
リリーフィアは胸の内を全て話す事にした。
「緊張はもちろんしました。それ以上に壇上にいたウィリアム様達に圧倒されたと言いますか……自信たっぷりで羨ましいと思ったというか……」
「羨ましい?」
「はい。この学園の……世界の中心みたいに輝いていて。私はその周りにいる虫のように感じて」
話していると、何が言いたいのか分からなくなってしまった。
羨ましいと思った。そしてこの人達が世界の真ん中のように感じたのは紛れの無い事実だ。
しかし今、本当に感じて、本当に言いたい事はもっと先にある何かの様に感じがしてならない。
「羨ましいと思った……か。じゃあ、なればいい」
「……え?」
眉間に皺を寄せるリリーフィアの対面で、テオドールは爽やかな笑顔でスパッと言い切った。
「羨ましいというのはそうなりたいからだろう?虫や花になりたいと言われたら神に頼むしかないが、ドルファン嬢のなりたい事は努力次第でなんとでもなる」
簡単だろう?と、笑うテオドールは紅茶を淹れるとリリーフィアへ渡した。
「……なりたいとか、なりたくない以前の問題で、私なんかに出来るのでしょうか」
自信なさげに呟いたリリーフィア。
そんなリリーフィア以上に自信ありげな笑みを浮かべたテオドールは
「なりたいなら、なれ。それを達成出来る能力が君にはあるんだ」
そう言って、芯のある真っ直ぐな視線を向けた。
(ついさっきまでスポットライトを浴びて、羨ましいと……憧れていた人にここまで言ってもらって。私は幸せ者だ)
「私はスポットライトを浴びるに相応しい淑女になります。だから、待っていてください」
「あぁ、もちろん」
リリーフィアは瞳に光を宿すと、自分の中で確かに感じた変化を噛み締めた。
10話程度で完結予定です。
次話は
陥れる為の話し合いのお話です。
お時間がありましたら
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