成長 ①
開いて下さりありがとうございます!
短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。
教室まで向かうと、教室の前でカインは待ち構えるように、壁へ寄りかかっていた。
(なんでカイン様が……)
リリーフィアはカインの顔を見た途端、顔を青ざめさせ、足を止めた。身体を縮めると視線は自ずと下へ下がり、口は勝手に謝罪の言葉を口にする。
カインを出し抜いて自分が生徒会に入る事に納得が言ってなかったのだろうか……そもそも自分のような出来損ないが生徒会に入るなんて不相応だったのだ。
そんな言葉は頭を埋めつくし、胃はキリキリと痛んだ。
(今すぐに謝ればカイン様も納得してくださるはず……そしてまだ生徒会の件も断れるかも……)
「背筋を伸ばしてください、リリーフィア様」
青ざめさせるリリーフィアの背を軽く叩いたアメリアは、真っ直ぐな視線をカインへと向けていた。
「貴方を推薦したウィリアム様と私を信用なさってください」
「推薦……」
(本当に不思議だ。あの瞳を見ると、背筋が伸びてくる)
リリーフィアは震える手を抑え、首を1度縦に振った。そしてアメリアの見よう見まねで背筋を伸ばすと、視線を上げる。
「その意気です。顔を上げれば自ずと気分も上がりますわ」
すると、アメリアの存在に気が付いたカインはその隣にいたリリーフィアに目が向くと、おもむろに歩き出した。
伸ばされた手に微かに肩を揺らしたリリーフィアだったが、
「凄いじゃないか、リリーフィア!生徒会にスカウトされたんだって?俺の婚約者として誇りだよ」
予想していたのとは正反対な賞賛の言葉と、嬉しそうな笑顔を向けられた。
何が起こっているのか、リリーフィアは思考が追いつかなかった。成績が良かった時は”俺を蔑むつもりか”と問いただされたが、生徒会役員に自分が選ばれた今はこうして歓喜している。
呆気にとられるリリーフィアの隣、アメリアは
(面白いくらい、ウィリアム様との計画通りですわ)
いつもの表情で、内心ではほくそ笑んでいた。
テオドールとアメリアは正式に生徒会役員が発表される1週間前、カインの部屋へ訪問していた。
カインを説得するのは赤子を泣き止ませるよりも容易であった。
『君の婚約者であるドルファン嬢は1度断った打診を、君の為になると話したら喜んで了承してくださいました。あんな慈悲ある婚約者になるのは君の教育の賜物です』
そう話せば簡単に図に乗り
『なにか話す度に、カイン様のため……カイン様のお陰で今の自分があると話していました』
聞いてもいない自慢話をツラツラと並べ始める。
現にこうしてリリーフィアを待ち構え、歓喜しているのだ。”チョロい”以外の言葉が思い当たらない。
「お話中、申し訳ありません、アーマルド様。生徒会役員は早めにホールへ集まらなければなりませんので名残惜しいですが今日のところは」
中々終わりそうにないカインにアメリアは嫌気がさし、2人の会話を止めた。
隣にいるのにも関わらず、挨拶のひとつ無い礼儀知らずに時間を割く理由はない……アメリアは無言の圧をカインに向けたが、その圧をカインが悟れるはずもなく
「あぁ、これはヘルベード様。そうなのですね。お引き留めして申し訳ありません」
と、リリーフィアの手を離し、アメリアは急ぎましょうと言って指定されている席へ早々に鞄を置き、ホールへと向かった。
向かっている途中、足を止めたリリーフィアは深く頭を下げた。
「カイン様を説得してくれて、本当に申し訳ありませんでした。先程も背筋を伸ばしてくれたり……本当に申し訳ありません。私がもっとしっかりしていれば……」
「リリーフィア様、顔を上げてください」
アメリアに言われるがまま、リリーフィアは顔を上げた。罵倒されるの覚悟だったが、リリーフィアの乱れた髪を治すと
「私としては謝られるよりも、ありがとうと言われる方が嬉しいです」
そう言って微笑んだ。
カインと居る時は容姿の美しさと、性格のキツさは同じでは無いと思っていたが、テオドールやアメリアと関わってると同じであると思ってくる。
(こんな私にここまで良くしてくださるなんて本当に嬉しい……)
「ヘルベード嬢の言う通りさ。僕達は同期の生徒会役員であり、友人だ。助け合う事に罪悪感や後ろめたさなんて要らないよ?」
どこからともなく現れたテオドールはそう言ってリリーフィアの隣に立った。
「相変わらず神出鬼没ですね」
「呼びに行く途中、ドルファン嬢の謝罪が聞こえてね。ドルファン嬢もこうやって遠慮なく僕達に話してくれていいんだよ?」
「そ、それは恐れ多いというか……」
「ウィリアム様?それは私が無神経だ、と言いたいのですか?」
「そうとは……言ってないだろう?」
「有耶無耶にするという事は怪しいですね」
気の置けない友人というのはこういう事を言うのだろうか。時折呆れたような視線を向けたり、言葉遣いだってそうだ……2人の間には最低限の気遣いがあるにしろ、男女、身分の分厚い壁が全く感じない。
「ドルファン嬢、ここまで図々しくなっていいんだからね?」
「図々しく……言質取りましたよ?」
羨望とかそういう感情よりも、友人である2人の会話が面白く聞こえてきてしまい、リリーフィアは思わずクスッと吹き出してしまった。
2人の会話が止まり、やってしまった……と嫌悪感に襲われたリリーフィアだったが
「初めて笑顔を見せてくれて安心したよ」
「そうですね。リリーフィア様は笑っている方が可愛らしくて、私は好きですよ」
2人は暖かく見守るような眼差しをリリーフィアへ向けた。
(本当に私は、この人達に何度助けられるのかしら……)
「申しわ、ーーー」
リリーフィアは謝ろうとした口を止め
「あ、ありがとうございます」
そう言い換えると、初めて心から笑う事が出来た。
10話程度で完結予定です。
次話は
リリーフィアの意識革命のお話です。
お時間がありましたら
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