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花束を受け取ったご感想は? ③

開いて下さりありがとうございます!


短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。

「なぜお前がここにいる!家から出るなと話していただろうが!」


 罵るような叫び声にフィニスはその場で体を硬直させ、顔を青ざめさせた。そんな彼女の手を握ったリリーフィアが大丈夫だと言わんばかりに微笑むと、すかさずハロルドは口を開いた。


「この方はリリーフィアと同じ立場にある。暴言は控えていただきたいですな」

「……くっ」


 そしてリリーフィアはフィニスを自分の席の隣……陛下の対面に座らせた。


「では話を進めます。アーマルド卿、あなた()はフィニス夫人に暴力を行っていましたか?」

「あいつは自虐癖があるのです。それ故に自宅から出る事を控えていただけですよ」


 平然を装うとするアドニスは滑稽という他なかった。全ての証拠は出揃い、フィニスの怯えようは確定的な現状証拠だが、ここで認めてしまえば婚約違約金以上の問題になる。


 アーマルド侯爵家が成り立っていく為には、濁すか逃げおうす方法しかない。


 ハロルドの言葉の選び方の誘導が上手いのだろう。あなた達という言い方でカインを逃がさず、婚約者と実母に手を挙げていたとなれば、問答無用で婚約破棄する事は可能だ。


 まぁ何よりも驚いたのは、その証拠集めをテオドールをも協力していたというところだが。


「そうなのですか?フィニス夫人」


 ハロルドがフィニスに視線を向けると、フィニスは怯えた様に顔を背けた。


 暫く沈黙が流れる。

 首を横に振れと言わんばかりの表情をアドニスはひしひしと伝えているが、その顔をリリーフィアは背中で隠した。


「フィニス様、ゆっくりで構いません。首を振るだけでも構いませんので、貴方のペースで動いてください」


 なるべく優しくを意識して微笑んだが、フィニスには力強い瞳に見えた。


(あんなにも弱かった子が……)


 リリーフィアの面影に過去の姿を重ねたフィニスは大丈夫よと、リリーフィアの手を離した。


「わ、わた……私は……」


 芯から震えているのが傍から見てよく分かる。そしてリリーフィアにとってはその内側の感情すらも痛いほどに。


「暴力をふるわれていたのか?」


 その怯えように見るに見かねた仲介役であるはずの陛下は、口を出した。

 いつもより深く渋い声だ。誰だってフィニスの姿を見れば怒りを込み上げるだろう。


 フィニスは細い声で


「……はい」


 と首を小さく一度、縦に振った。


 これで現状証拠は揃ったが、まだ決定的な証拠には至らない。しかし状況を傾かせるには上々だ。


 テオドールとハロルドが作ってくれた切り札を出すのはまだ、今じゃない。


 ◇◇


「なぜバレたんだ」


 アドニスは馬車に着くや否や、頭を抱えた。カインの定期連絡では二人の関係は良好で、卒業後の話も弾んでいるはずだった。

 フィニスにつけてある従者からも連絡は無い。


 完璧だったはずが今日、途端に崩れ出した。無駄に高いプライドはそれら全てを憎悪へと変える。


「収入源も確保でき、これからだと言うのに……!」


 アドニスには怒りの感情をそのまま拳に乗せると、力強くイスへ叩きつけた。

 そしてアドニスは目的地を学園へと移した。


『この件は家族であろうと口外しない事』


 仲介役である陛下にそう言われた手前、カインへことの詳細を告げる事は出来ないが確かめる必要がある。


(あのバカ息子、あんな決定的な証拠を撮られやがって!)


「カイン!リリーフィア嬢の躾はどうなっているんだ!?」

「いきなりどうしたんだんだよ?」


 学園内の応接間にカインが入室して間もなく、ハロルドは詰めいるように声を荒らげた。来る時に持ってこさせたリリーフィアとの手紙を奪い取るように取ると、無造作に広げる。


 1枚目に目を通そうとした途端、放り投げた封筒を拾い上げたカインは酷い形相でハロルドから便箋を奪い取った。


「いくら父上でもこれを無造作に扱うのはやめてくれ!」

「あ、あぁ……すまない」


 思わず呆気に取られながらハロルドは再び受け取った便箋と封筒に目を通す。生徒会引き継ぎ期間から忙しくなったのか、ここ一年は手紙でのやり取りが主なようだった。


 今日は学園にある庭園に季節の花が咲いておりました。今度お会いした時にぜひ、案内させてください。

 忙しくて会えない事が増えますが、お身体にはお気をつけてお過ごしください。

 from リリーフィア


 そう綴られた文面からは決して婚約破棄をする様には思えない。しかし、違和感がどうにも消えない。


「これはいつ受けとった手紙だ」

「3年進級の少し前だよ。たしかこれから生徒会の引き継ぎや王宮勤めの一件で忙しくなって話す機会が減るから()()()()()()()()()って言ってたな」


(距離を置きましょう?態々なぜそんな言い回しをする必要がある……気にしすぎならまだいいが)


「そうか。くれぐれもリリーフィア嬢の機嫌を損ねる真似をするなよ」

「分かってるさ。なんせあいつからゾッコンなんだ。少し俺が離れても泣きついてくるに決まってる」


 ハロルドは何か言いたげに口を開いたが直ぐに口を閉ざし、拳を強く握った。


「そんな事よりもリリーフィアは王宮でちゃんとやってる?」

「なぜだ」

「いや?あっちで怠惰を謳歌されて怠けられたら俺の評判にも関わるからね」

「……忙しい身なんだ。もう出る」


 実の息子の嘘を見抜くなど造差でもない。あからさまに泳いだ目からはただリリーフィアを気にしているようにしか見えなかった。

 これではどちらが慕っているのか、そして従わせる側なのか分からない。


「いいか?決して女などに惚れるなよ」


 ハロルドはそう言葉を吐き捨てると、勢いよく扉を閉めた。

30話程度で完結予定です。


次話は

ハロルドの過去と婚約破棄締結のお話です。


お時間がありましたら

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