花束を受け取ったご感想は? ②
開いて下さりありがとうございます!
短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。
リリーフィアが王宮へ招かれる一週間前、リリーフィアの元へ一通の手紙が届いた。
送り主はカインの実母───フィニスだ。
震えた文字で綴られていた手紙。
そこに念を押して書いてあったのは、”主人と息子にはこの手紙の存在を知らせないでほしい”という事だ。
リリーフィアはカインからサラリと2人の予定を聞き出し、フィニスをドルファン伯爵邸へ招いた。義理の母となる彼女を招く事は通常はそこまで珍しいことでは無いが、フィニスを招くのは初めてのことだ。
カインを通して誘ってみたが、何度も断られ、それ以降誘うことを辞めた。人見知りが激しい方だと聞いていたが、手紙の内容を見るに違うように思える。
どちらかと言えばこちら側の人間のように見えてならない。
「お久しぶりです。この度は素敵なお茶会にお招きありがとうございます」
(……そういう事か)
玄関先で丁寧にお辞儀をする彼女の振る舞いは侯爵夫人らしい品位のあるものだったが、後ろにいる従者の態度をうかがうような視線はおかしいと言う他ない。
今回は2人で話をしよう……というもので特段お茶会として呼んだわけではない。それを態々念を押すように言うということ。そしてなによりも怯えるような態度。
きっとこの従者達は今日の事を事細かく2人へ報告するのだろう。
「こちらこそ、ご参加いただきありがとうございます。今日は従者達の食事も用意していますが、主人の前で食べずらいでしょう?別室に用意しましたので着いてきてください」
リリーフィアがそう言うと、フィニスはホッとしたように会釈をした。この対応で正解という事は、こちら側の予想は当たっていたと言う事だ。
フィニス・アーマルドは、アドニスとカインに虐げられている。
◇◇
「気を使わせてしまい申し訳ございません。こうして自由になるのも主人とカインが別のパーティーに出席するよう促してくれたリリーフィア様のお陰です。私はあの家から外へ出ることを許されておりませんから……」
「それは許せない行為です。いくら夫や家族だあろうと、自由を奪っていい理由にはなりません」
別室に従者達が入り、そこにドルファン伯爵邸の者が見張りに着いた事を確認したフィニスは肩の荷がおりたようで漸く口を開いてくれた。
そして怯えた目で覗くようにリリーフィアの瞳を見た彼女は切羽詰まった声で
「私の旦那と息子を罰してください」
とおもむろに話した。
そして彼女はリリーフィアの前でオペラグローブを外した。そこから現れたのは酷い火傷の痕と殴られた痕跡だ。
「これは!?」
「主人につけられた痕です。腕だけでなく背中にも……」
「な、なぜこんな酷いことを」
「彼ら曰く、貞淑な妻を作り上げる為らしいです。彼らにとって私は釣り合う人間ではないようで」
「彼ら……という事は、カイン様も同じような事を?」
フィニスの話を聞いていて嫌な予感は初めからあった。仕置きだと言って自分自身も殴られた覚えがある。
しかし、実母にまでそんな仕打ちをするとは思いたくなかった。
しかし、フィニスの俯いた視線から見える感情は全てを肯定している。
心のどこかにあったカインへの僅かな望みが消え、胸の奥で憎悪が広がっていく。膨らんでいく感情を押し殺すように膝の上で拳を握り、フィニスの言葉を待った。
「先程は罰してくれとお願いしてしまいましたが、どうか婚約破棄をなさってください。あなたも結婚してしまえば私の二の舞になってしまいます。今ならまだ間に合います……どうか」
(今の状況でいちばん辛いのはフィニス様なのに……こんなにも優しい方に酷い仕打ちをするなんて許せない)
頭を深く下げたフィニスの元へリリーフィアは歩み寄り、そっと寄り添った。
僅かに手が視界に入っただけでフィニスは肩を揺らして怯え始め、それは家での生活を想像させた。
「フィニス様……私達が計画している事を全てお話します。そして幾つか手伝って欲しい事があるのです」
「私なんかに手伝えることですか……?」
話し方ひとつにおいても怯えと卑下が垣間見える。リリーフィアは安心させるように重ねた手を握った。
「はい。フィニス様にしかお願いすることはできません」
◇◇
「まさかそんな計画を立てているなんて……しかし私には、そんな事」
計画の全てを話し協力して欲しい事柄を伝え終えると、フィニスは驚いた様に目を開き、視線を俯かせた。
「何かある前に私と父が間に入ります。そしてそれ以降、あなたを侯爵邸に帰さないことをお約束します」
「なぜそこまで……」
「私もその苦しみを分かち合えるからです」
その言葉にフィニスは顔を上げた。
懺悔や後悔……抑えきれない感情にフィニスは顔を青ざめさせる。
「私達は負けません」
(一度は踏みにじられた花がこんなにも……私もやらなくちゃいけない)
力強い瞳にフィニスは覚悟を決めたようにリリーフィアの手を握り返した。
「ぜひ、協力させてください」
「ありがとうございます!」
「でもいざとなった時は怖いので手を握っていてもよろしいでしょうか」
「もちろんです。一緒に戦いましょう」
そして時は現在───
「アーマルド侯爵夫人をお連れいたしました」
リリーフィアにエスコートされる様に入室してきたフィニスの腕に、グローブは着けられていなかった。




