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花束を受け取ったご感想は? ①

開いて下さりありがとうございます!


短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。

「それではカイン様、行ってまいります」

「あぁ。毎日手紙を送るよ」


 リリーフィア達は3学年へと進級していた。

 そして残りの学園生活が2ヶ月になろうとしている頃、リリーフィアは王宮へ呼ばれ1ヶ月間の研修を行う。


 それは正式に王宮勤めが内定したという事だ。


 リリーフィアを送り出すのはカインだけでは無かった。3学年に上がってまもなく、下級生達で構成されたリリーフィアファンクラブというものが存在し、人集りは去年の比ではない。


 それもそのはずだと、誰もが頷く。そこに立っているのは咲き始めた花ではなく、大輪……淑女と胸を張って名乗れる彼女が立っているのだ。テストでは学年一位を一度も譲らず、礼儀作法や仕草ひとつとっても品があり、端正に磨かれた容姿は国のトップと言っても過言では無い。


「残りの1ヶ月、とても寂しいですわ」

「1ヶ月……?あ、あぁそうだな」


(卒業まで2ヶ月だと思うが……さては緊張して間違えたな?)


 誰よりも早く駆けつけてきたカインは可愛いものだと大きく頷いた。


「ドルファン嬢、僕からも挨拶を」


 そんな悦に浸るカインの背後から現れたのはテオドールだ。そして彼も、いつ王位を継いでもおかしくない頭脳と堂々たる立ち振る舞い。何よりもみなを驚かす洗礼されつくした容姿。

 女装でもすれば誰よりも美女になる素質のある容姿は健在だ。


 そして、並べば思わず惚けてしまいそうになる2人に嫉妬する男女はカインだけではない。


 リリーフィアは分からないように拳を握り感情を押し殺すと、カインの方へ視線を向けた。


「カイン様が嫉妬されてしまわれます。仲はまだ良くありたいですから」

「そうだね。無事の帰還を祈るよ」

「ありがとうございます」


 そしてリリーフィアは名残惜しそうにカインへ目配せをすると、王宮へ馬車を走らせた。


 ◇◇


 この2年間で随分、カインの心はリリーフィアへ傾いていた。他の浮気相手に連絡を取ることはせず、望んだように動く彼女に手を挙げる事はない。


 改心以前に、従わせている満足感が彼をほのかに人間らしく構成していた。


(あのカイン様がご自分から見送りに来るだなんて……)


 思わず笑みを零してしまったリリーフィア。馬車の窓から外を眺める彼女の顔は清々しく見えた。


 それもそのはずだ。この1ヶ月の間、行う事は研修だけではない。言ってしまえば、メインはもうひとつの方だと言っても過言ではない。


 そのひとつと言うのがーーー


「さて、アーマルド卿。婚約破棄について話し合おうじゃないか」


 貴族内での円満以外での婚約破棄の場合、お互いよりも爵位や国のポジションを考慮しながら上の立場の人物に仲介役を依頼し、署名を貰うこととなっている。

 脅しや賄賂対策だそうだ。


 そしてドルファン伯爵家は国の重要ポストに位置し、そこら辺の公爵家よりも地位は高いだろう。そんなドルファン伯爵家よりも上の立場の人間となると……


「仲介役はレオナルド・ロア・ウィリアムが引き受けた。そして重要参考人としてリリーフィアの入室を許可する」


 国王陛下より適材な人物はいない。


 愉快そうに笑う彼を他所に、気まずそうに咳払いをしたアドニスはおもむろに口を開いた。


「うちのバカ息子が何かしてしまったのでしょうか?しかしまだあいつらは子供です。大目に見るのも大人の役割ではないですかな」


 焦りが目に見えている発言だ。視線もあちらこちらを飛び回り、手には汗が滲み出ている。


「大目に見るのはとうに過ぎているんですよ」


 低く唸るような声と、威圧的な睨みつける酷い形相にアドニスは思わずヒッと声を漏らした。タヌキのように飄々とした笑みは怯えへと変わる。


 ハロルドは懐から何十枚の写真をテーブルへ放り投げた。


 おもむろに視線を下ろしたアドニスは顔を青ざめる。そこに映っているのは、カインがリリーフィアへ手を挙げる決定的な証拠と浮気と捉えられる数々の現場写真だ。


「何か、反論はないのですかな。大目に見ろ……そう言っていた先程までの口はどこへ?」

「こ、これは……捏造、という訳では」

「仲介役のお方には証拠を一度拝見されている。そのお方の目が悪いとでも?」


 崖っぷちへ追い込んでいくような状況を前に、リリーフィアは実父でありながら敵に回したくないタイプだと震撼する。

 しかし、自ら崖の方へ歩いていた彼らには同情する余地すらない。


「……そちらだけ2人というのは些か不平等ではないですか?」


 苦し紛れに出てきたのは謝罪ではなく、どうにかしてでも逃げおうせないかという言葉だった。


(ここで全てを謝罪するなら少しは楽に堕としてさしあげようと思っていたけれど……とことんアーマルド卿はカイン様の親なのね)


「では……陛下、アーマルド卿の奥様をお呼びしてもよろしいでしょうか」

「許可する」

「リリーフィア、彼女を呼んできてくれ」


 アドニスは目を丸くした。ここで許可が出ればカインを連れてこようとしていた思惑が見え見えである。


 アドニスは先程よりも顔を酷く青ざめさせた。その理由はリリーフィアと共に……フィニスが入室し、判明する。


「アーマルド侯爵夫人をお連れいたしました」

「……失礼します」


 陛下はフィニスが入ってくると、怒りで顔を歪ませた。

 初めに会った時、リリーフィア達が抱いた感情を陛下も感じているのだろう。


 リリーフィアとハロルドがフィニスと出会ったのは一週間前のことだ。


『私の旦那と子供を罰してください』


 挨拶を除いた第一声がこれだった事を、2人は忘れる事はないだろう。

30話程度で完結予定です。


次話は

カイン父を追い詰めていくお話です。


お時間がありましたら

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