贈呈 ②
開いて下さりありがとうございます!
短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。
「カイン様、とても綺麗なお花ありがとうございます。私は幸せ者ですね」
この学園では2年に1度、お互いに花や品を贈り合うイベントが行われる。それは友人間でも贈り合うが、婚約者に贈るのがメインだ。
しかし、カインへどうしても花を贈りたくはなかった。
花言葉を通して想いを伝えるものをあげてしまえば、呪いの花言葉を模したものをあげかねない。
お互いの為にもそれだけは辞めておこう。
そんな事よりもカインの行動の方が興味を引く。あれだけ浮気相手に熱があったのにも関わらず、花束を誰よりも早く届けに来た。それも想いあっている婚約者同士が贈り合う典型的な花束を。
(そろそろ、傾いてきている頃かしら)
そう内心ほくそ笑むリリーフィアは丁寧に箱詰めされたものを手渡した。
「私からはこれを……」
「これは?」
開けるよう促した箱の中身に入っていたのはハンカチであった。白いゼラニウムの刺繍が入った緑のハンカチを、カインは嬉しそうに頬を緩ませた。
「カイン様を想いながら縫ったのです」
「お、俺の花には劣るがいいんじゃないか?」
「そうでね。カイン様のお花、とてもお綺麗ですもの」
それから婚約者らしくお茶を飲み終えると、カインと別れて行った。
その途中、購買で売られていた花に目がいった。当日に予約ができていなかったもの達への救済処置だ。
リリーフィアは一輪の花に手を伸ばしていた。
◇◇
「……その花束は」
「慣れてください。これは2年に1度……いえ、誕生日には毎年送ってくるのです」
生徒会室へ入ってすぐ、アメリアの後ろには両手で抱えても重い花束が置かれていた。そしてそんな重い愛を贈る人物は限らている。
「そんなにおかしいでしょうか」
「毎年言っているけど片手で抱えられる程度のものでいいのよ!」
「自分は抱えられます」
「あなた基準だと世界中から花が無くなるわよ!?」
そう……セオドアだ。
「そうだったわ!私からリリーフィア様へアクセサリーを」
花をモチーフにしたブレスレットだ。華やかだ淡い色合いの中に濃い桜はよく映える。
「ありがとうございます、アメリア様!私からもこれを」
満面の笑みで受け取ったリリーフィアはおずおずとアクセサリーを手渡した。
アメリアの髪色似合う髪飾りを選んだつもりだったが、貰ったものに釣り合いそうにないが、焦るリリーフィアは他所にアメリアは嬉しそうにそれを受け取った。
「こちらこそありがとうございます。とても嬉しいです。明日から毎日着けてきますね」
「わ、私も毎日着けてきます!」
婚約者のいるセオドアにはなにか目に見える品を渡す事は出来ないが、リリーフィアは深くお辞儀をして礼を述べた。
そして薄々気付いてはいたが、触れたくないテオドールの背景に3人は目を向けた。
「おぞましい何かを見る目で見ないでくれ……」
壁を覆う程の花束の数に3人は笑顔を引き攣らせた。
テオドールが婚約者無しの優良物件であったことを思い出した3人は同情の笑みを浮かべる。
「アメリア様、そろそろ」
「あ、そうね。すみませんがこの後映画に行く予定があるので失礼します」
適度に気まずい雰囲気を残し、2人は仲睦まじげに生徒会室を後にした。
「相変わらず2人は仲良いね」
「まさかあんな重い花束を渡すなんて思ってませんでした」
気まずい雰囲気が嘘のように和やかでいつも通りの雰囲気が流れた。他愛のない話をし、計画の流れを話してみたりと時間はあっという間に過ぎ、時刻は夕刻。
鮮やかな夕日が生徒会室に射し込んでいた。
「そろそろ私、帰りますね」
隠すように持ってきた花を隠したまま、リリーフィアが生徒会室を出ようとすると
「ドルファン嬢、少しいいかな」
テオドールらしくないワントーン上がった……まるで緊張しているような声にリリーフィアは引き止められた。
「これ、そこの購買で貰ったんだ。捨てるのは勿体ないだろう?」
(購買で貰った……?)
その手に握られていた一輪の向日葵。
「私も……貰ったのですが」
そしてリリーフィアが手渡したのは、一輪の赤いチューリップ。
その意味と花言葉をお互いが知らないはずはなかった。しかし、それを理解してはいけないと2人は知っている。
「ありがとうございます。ウィリアム様、大切にします」
「僕も大切にする」
受け取ったふたりの笑みは少し悲しげに見えた。
30話程度で完結予定です。
次話から最終章です。
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