種を見出す
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「みゃー……みゃー……!」
どれくらい意識を失っていたのだろうか。まだ空は明るく、そこまで意識を失うまでと景色に変化はないところを見ると、ほんの数分から数秒というところだろう。
木の葉や枝がクッションとなり、大怪我はせず着地出来たらしい。
背中以上に、少し動かすだけで足からツキンと酷い痛みが襲ってくる。
(これは折れたかしら……)
しかし、とリリーフィアは安心したように一息ついた。子猫には外傷はなく、心配してくれているのか鳴ける位には元気らしい。
リリーフィアが子猫の頭を撫でていると騒動を聞き付けた生徒が駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!?」
顔を見てないお陰で、声の主が子猫を探していた本人だと理解する。子猫も飼い主が来てくれて安心したのか、リリーフィアの腕の中からすり抜け彼女の元へ駆け寄った。
「心配したんだからね!」
「みゃー!」
お互いが必要とされ、求められている関係はこんなにも美しいのだと、どうしても羨望してしまう。
さりげなくここから立ち去りたくとも、背中にはまだ衝撃が残り、足に至っては少し動かすだけで全身に痛みが広がる。
この事がカインに見つかったら怒られるだけでは済まないだろう。
(どうかバレず、このまま帰ってくれますように……)
「わぁー!大丈夫ですか!?保険室に運びますね!いや、ここは救急要請を……」
リリーフィアの願い虚しく、直ぐに目が合ってしまった。
救急要請を呼ぼうとする彼女と、大事にしたくないリリーフィアの攻防戦は続いたが、リリーフィアが押し切る形で保健室まで同行をお願いした。
「私の名前はリンネ・スリットです。男爵家で名ばかりの貴族なんですけど……」
不在の保険医を待っている間、保健室のベッドに座ると、彼女───リンネはお礼を言って頭を下げた。カインの近くにいる令嬢とは違って、素朴な可愛らしさがある親しみやすそうな令嬢だ。
こんなにも純粋な優しさを向けられた事の無いリリーフィアは戸惑った。視線を逸らし、お礼だなんて……と、ボソッと話す事が精一杯でそれ以上の良い返しが分からない。
気まずい沈黙が一瞬流れたが、視線を右往左往するリリーフィアをリンネはクスリと笑うと、
「ドルファン様はもっと凛としたイメージがありましたけど、思っていたよりもずっと親しみやすい方なのですね」
そう言って後ろに回り込むと、乱れてしまったリリーフィアの髪をクシで解かした。
回り込まれた時、勝手な事をしたせいで殴られるのかと思ったが、リンネは楽しげに髪を解かすだけだった。
「ドルファン様の髪はとてもお綺麗ですね。アレンジしやすそう」
「えっと……あ、ありがとうございます」
穏やかな雰囲気が流れるにつれ、肩に籠っていた力が緩んでいくのが自分でも分かった。
カインには”令嬢は欲の塊だ。だから友人は選ぶことだな”なんて言われていた手前、身構えていたが同年代の友とはこういう事を言うのかと、リリーフィアは暫し安堵する思いだった。
(この方はカイン様のいう欲の塊……とは違う方なのかしら。この方なら)
「最近は男爵家と仲良さそうだな。友人は選べと言っているだろう?お前には一応でも、侯爵家の婚約者という自覚があるのか?」
「申し訳ありません……」
カインに報告したわけでないが、クラス内で頻繁にリンネが出入りしていれば嫌でも目につく。それもあの俯いている顔しか自分に見せないリリーフィアが、自分以外に気を許しているのが気に入らなかった。
リリーフィアが絶望に暮れている最中───
「子猫を救う為に自分の命を顧みないなんて、今どきの貴族では珍しいね」
「確かあの方……私達の代の首席入学生でしょうか」
「ねぇ、ヘルベード嬢。2年初期の生徒会推薦枠はその首席生……ドルファン伯爵家のご令嬢がいいと思うんだ」
2学年に上がるのと同時、生徒会入りが確約されているテオドール・ロア・ウィリアム王太子と、アメリア・ヘルベード公爵令嬢は密かに事を進めようとしていた。
まだ続きますのでお付き合い下さい。
次話は
短編で気になる点だった王太子の婚約者いない問題が少し見えたり、来期生徒会メンバーが見えて何か動きます