贈呈 ①
開いて下さりありがとうございます!
短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。
「あ!生徒会の皆様よ!」
「リリーフィア様だわ!王宮内で女性が推薦をいただくのは侍女として以外初めてのことらしいわよ!」
登校前なのにも関わらず、寮の前には人集りが出来ていた。敬慕の視線は生徒会役員達を痛いくらいに刺し、その内の大半はリリーフィアへ向いている。
アメリアが心配そうに振り返ったが、そこには恥ずかしそうに背を丸める彼女はいなかった。
───1時間前、馬車の中
「私、カイン様をギャフンと言わせたいです。その為に出来ることは全て行うつもりです」
(この覚悟でアメリア様やルーズ様……ウィリアム様からの信頼を失ってしまうかもしれないけれど。それも覚悟のうちだ)
真剣な顔付きの中で、微かに怯えを見せるリリーフィアの姿にアメリア様は笑みを零すと
「私はリリーフィア様の背中を押すと話しておりましたでしょう?心優しいあなたがその決断を下すまでの苦労は計り知れませんが、応援させて下さい」
そう言って手を繋いだ。
「俺もだ。なにか手伝える事があれば話してくれ」
「以下同文だ。僕達は君の味方だよ」
「私達を舐めないでください!」
お礼を述べたリリーフィアの声は震えていた。泣き跡は今後の予定に響いてしまう為、涙を抑えることに集中して上手く言葉が出ないが、その気持ちは3人にはしっかり伝わったようだった。
───そして時は寮前
(準備は満タン。カイン様……あなたが迎えに来ることはまずありえない。しかしそれも手はうっておいた。プライドが高い割に知能の低いあなたならば必ず……)
「リリーフィア!」
(出迎えに来てくれる)
「カイン様……!」
(手紙で例年の生徒会役員達の婚約者は出迎えたと、そして私もそれを楽しみにしていると書いておいた。普通の思考なら周りから少しくらい話をするだろうけど、プライドの高いあなたは自分が知らないなんて許さないでしょう?)
リリーフィアは馬車から降りると直ぐにカインの元へと向かった。それも、とても待ち遠しかった様に切ない顔付きに笑みを添えて。
「ただいま帰りました。どうですか?少しはカイン様に釣り合う女性になれたでしょうか」
「ま、まだ俺には届かないが……その気持ちは関心だ」
「ありがとうございます。私、もっともっと頑張りますね」
ぶっきらぼうな言い方ではあるが、寄り添った時の驚いた顔に染めた頬は全てを物語っている。計算尽くされた上目遣いに選んだ言葉、そして周囲からの賞賛の声……カインの心はリリーフィアを移し始めていた。
◇◇
声を聞くだけで腹の奥から憎悪が湧き出す相手であっても、もしもこの声があの人であったらと思えば自然と声が高鳴ってしまう。
自然と笑顔が零れ、僅かに心が踊ってしまう。
リリーフィアは放課後、カインを茶会へ誘っていた。
「有名店のディナーに行ったんだ。素晴らしい景色だったぞ」
(もうその自慢話何回目よ……)
「そうなのですか。とても素敵です」
「あそこの近くに人気のカフェがあってな」
「知らなかったですわ」
(それはかなり前に出来た有名店で知らないはずがないわよ……)
そろそろ表情筋の限界を迎えたリリーフィアは席を外し、生徒会室へと向かった。
◇◇
「……疲れたぁ」
リリーフィアは椅子へ座ると、そのまま頭をテーブルへ押し付けた。表情筋どころか身体中が悲鳴を上げている。
カインと顔を合わせているうちだけではない。その友人、そのまたまた友人に至るまで全ての人間に注意しなければいけないのだ。
(明日もお茶会に誘って……授業中の目配せも、ーーー)
リリーフィアの意識はプツリと切れ、そのまま眠りについた。
「あれ?ドルファン嬢……って寝てる」
暫くし、忘れ物を取りに来たのはテオドールだった。グッスリと眠るリリーフィアに上着を掛け、彼はそっと隣へと腰をかける。
組んだ腕に乗せられた顔は白く小さく、触れたら消えそうだ。テオドールは落ちてきた髪に優しく触れ耳へかけると
「……好きだよ」
そう言った瞳は熱い想いが滲み出ていた。
30話程度で完結予定です。
次話は
日本で言うバレンタインデー的なお話です。
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