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花束 ④

開いて下さりありがとうございます!


短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。

「どうだ?カイン、リリーフィア嬢の方はちゃんと従わせているか?」


 12日間の休日の内、3日間のみ自宅へ帰宅していたカインは食卓へ着くなりアーマルド侯爵家当主兼実父───アドニスにそう問われた。

 母───フィニスがまだ食卓へ着いていないのを確認した後の行動だ。


 カインは意気揚々に鼻息を荒くし


「もちろんだよ。最近では俺にべったりでゾッコンなんだ。あの様子じゃあ結婚も卒業してまもなく押してくるだろうね!」


 そう言ってはアッハッハ!と声を荒らげた。


「それならいい。所詮、女など甘い言葉のひとつをかければ簡単によってきて、少し言うこと聞かなければ手を挙げれば純情な下僕となる。そうなればドルファン伯爵家はうちのものとなるのだ」

「分かってるさ。リリーフィアがつき上がりそうになれば、少しキツめに話し合いをするよ。女は男に勝てないんだと言い聞かせるつもり」

「それでこそ、息子だ」


 2人は嫌な目付きで心理を確かめ合い、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。


 ◇◇


 王宮インターンシップは今日で最終日を迎えていた。昼頃には帰る為、部屋の荷物はある程度片付け終え、あとは挨拶をし終えれば全て完了となる。


 リリーフィアは早朝、経済部へと向かった。

 まだ人の数は少ないがアレクはもうあの部屋へ来ていることだろう、と。


「おはようございます、イレット様」

「最終日なのに随分と早いな」

「今日はお話したいことがありましたので」


 リリーフィアはいつもの席に座る彼の前で立ち止まると、綺麗にカーテシーで頭を下げた。


「2週間、大変お世話になりました。今、こうして胸を張れるのもイレット様のお陰と言っても過言ではありません」

「なんだよ、かしこまって」

「それと……」


 頭を上げたリリーフィアはそっと微笑み


「友人の件ですが、彼女の想いはひとつに決まったようです。心から愛せる人を見つけたと、誇らしく語っておりました。だからイレット様の手は取れないと」


 再び頭を下げた。


「お話をいただいてとても嬉しくて……感謝申し上げます」

「……その言葉じゃ、お前に申し込んだみたいだろ」

「ふふふ……そうですね」


 アレクは分が悪そうに笑い、頭を掻きむしった。


「辛気臭いのは性にあわねぇんだ!最後くらい、喝を入れてやるとするか!」


 そしていきなり立ち上がった彼は、リリーフィアの背を勢いよく叩いた。思わず声を上げたリリーフィアを可笑しそうに笑うと


「お前は一番のインターン生だった!このオレが保証してやる!だから胸を張って学園に帰れよ」


 そう言って、通知書と書かれた紙を手渡した。


 それはインターンシップが終えると貰える評価書だ。通知書には高評価が並び、リリーフィアは思わず顔を上げた。


「これはこの部、皆の評価だ。お前は近年類に見る優秀な奴だった。おめっとさん」

「ありがとう、ござい……ます」


 思わず泣き出してしまったリリーフィア。


「最後は、笑って終わろうと……思って、たのに」

「ははは!」


 泣きながら笑う彼女に触れようとしたアレクは手を咄嗟に下げ、空で拳を握り締めると、慰めるようにハンカチを手渡した。


 ◇◇


 その帰り、前から歩いてきたのはレンシアだった。テオドールの話によると、留学の一時帰宅も今日で終えるらしい。


「あなたは……リリーフィア様も玉座の間へ?」

「はい。その手前にある部屋でみなが集まり次第、拝謁する予定です」


 レンシアはそう話すリリーフィアの顔を見ると、驚いたように微かに目を開いた。


「先日見た時よりも、霧が晴れた様な顔つきになりましたね」

「悩み事が解決して、進む道が定まったからだと思います」

「あなたはお強いのね」

「強い……?私は全然、助けられてばかりで」


 リリーフィアの姿を眩しそうに見つめるレンシアは呟く様に話し始めた。


「私はテオドールの幼なじみである前に、生まれた頃から婚約者候補でした。それは今現在、変わらないのでしょうが……テオドールは1人しか見ていない。それから逃げる様に留学の道へ進んだ」

「婚約者候補……」


 レンシア達の関係と共に知ってしまったテオドールが婚約者を作らない理由に、リリーフィアはちくんと胸を痛める。


「でも、あなたは逃げなかったのですね。あなたが選ばれた理由が分かった気がします。儚げなのに芯は強く、自分の足で凛と立っている……私では到底敵わない」


 そう悲しげに話すレンシアは決して公爵令嬢には見えなかった。その姿はつい最近の立ち止まっている自分のように見える。


 レンシアも自分同様にテオドールを想い、それは目を背けないといけない理由がある事も自分と重なってくる。

 しかし、同じ背けるでも、レンシアは少し違う。


 リリーフィアは無礼も承知で、レンシアの手を握った。咄嗟のことに目を見開くレンシアを他所に、リリーフィアは必死な顔つきで口を開く。


「私はロベール様の事をよくは知りません。でも、ただ逃げる為だけに留学など出来ません。ロベール様は進んでいます。とても強い人です」

「……ありがとう」


 レンシアは涙を堪えているかの様に唇をかみ締めた。


「私、あなたで良かった。彼をよろしくお願いしますね」


 そう言ってはにかむように笑うレンシアから先程のような暗いなにかは消えていた。話している事はよく理解出来ないが、彼女なりになにか吹っ切れたのだろう。

 スッキリとした顔付きに戻ったレンシアはお辞儀をし、王宮から去って行った。

30話程度で完結予定です。


次話は

カインを頂点に突き上げるお話です。


お時間がありましたら

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