花束 ②
開いて下さりありがとうございます!
短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。
翌日もカインから手紙が届いた。
思っている以上に学園内はリリーフィアの噂で持ち切りらしい。
カインは誇らしい婚約者だと褒め讃えていた。そこに落ちこぼれなどという文字は1文字も出てこない。ただ自慢で自分に似合う婚約者だと綴られていた。
結婚した時の事を考えているのか、今まで一切知らせてくれなかったアーマルド侯爵家の事……新たな事業を始めた事まで綴られていた。
(ダメだ……醜い感情が溢れ出してくる)
リリーフィアは手紙を持っていた紙を握りしめ、紙にシワを付けた。
◇◇
「最近、仕事に身が入っていないな。リリーフィアにしては珍しい 」
「……すみません」
経済部への推薦、そしてアレクからの婚約の話、カインへの感情……諸々の事が積み重なりすぎて仕事が少しばかり疎かになっていたのは事実だった。
それがハロルドには全てお見通しだったのだろう。
「お父様は私と経済部で共に働けたら……嬉しい、ですか?」
リリーフィアが昼食の手を止め、気恥ずかしそうに問うとハロルドは何当たり前のことを言わんばかりの顔つきで
「当たり前だろう?」
そうキッパリハッキリ答えた。
「ではそれが誰かに妨害されたらどうなさいますか?」
「その妨害する者を駆除するまでだ。無駄に陛下からの信頼はあるからな。簡単だ」
駆除する……そう聞いたリリーフィアは呆気にとられたようにぽかんと口を開けた。
完璧な父がそんな不利益になりそうな事を進んでするようには思えなかったからだ。
(ウィリアム様やアメリア様達もこんな事を考えたりするのだろうか……)
「お前が何を考えているかまでは分からんが、ドルファン伯爵家の利益など考えず、子供は子供らしく動きなさい」
「な、なぜそれを?」
それを言葉には出していないが、父は推薦の話を既に知っているらしい。陛下達が話をする訳がないとすれば……
「ことのおかしさを繋ぎ合わせれば、それが妥当だろう?まぁ、知らないふりをしておくがな」
「……ありがとうございます」
父というハロルドという存在がこんなにも恐ろしく感じたのは初めてだ。
「いいか?あんな婚約者で崩れ落ちるほど、うちの土台はヤワではない。リリーフィアの好きな様にするといい」
(あんな婚約者……?)
少し言葉に気になるところがあるにしろ、父との残り少ない昼食の時間は過ぎていったのだった。
◇◇
カインの隣に並ぶ自分は弱気で、常に怯えているような……大嫌いな自分だ。
また彼の隣に並んで笑っていられる自信など無い。だからと言って、この婚約で得られる利益を切ってまで自分の意思を貫き通す事も出来ない。
このインターンシップも残り二日で終わる。
しかし出さないと言えない問いが多すぎるのだ。
リリーフィアは裏庭に置いてあるベンチに座り、ぼんやりと夜景を眺めていた。12日間、随分と裏庭にお世話なったせいか、ここが王宮内で1番落ち着く場所となっている。
「私はどうすれば……」
そう言いながら、全てはカインへの感情を何とかすれば解決すると知っていた。あれから毎日のように届く手紙は薪の様に燃えたがらせてくる。
都合よく書かれる”自慢の婚約者”の文字を見る度、虐げられていたあの頃を思い出しては思ってしまうーーー
(そんな自慢の婚約者が虐げられていた10年間を返して欲しい……)
と。
リリーフィアはカインに殴られた覚えのある頬を摩り、拳を握りしめた。
(今まで散々貶されてきた。打たれてきた。どんなに頑張っても俺より上に登るな、調子に乗るな。俺に釣り合う人になれと言われ続けてきた……)
学園内での事はゆうに予想が着く。
リリーフィアの一件で婚約者のカインもその恩恵を受け取っているのだろう。
優越感に浸る顔を思い出すだけでフツフツとした感情が燃えたぎる。
リリーフィアの中でプツンと糸が切れる音がした。
(私はもうカイン様の隣に立ちたくない。私は王宮で働きたい。もう……もう二度と泣き崩れて逃げ回っていたあの頃には戻りたくない)
リリーフィアはおもむろに瞬きをし、強い眼差しは夜空を映した。
「最後にあの顔をギャフンと言わせてやる!」
(私は……いえ、私の名にかけて私の10年を返していただきます)
30話程度で完結予定です。
次話は
吹っ切れたリリーフィアが復讐の為に奮起するお話です。
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