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花束 ①

開いて下さりありがとうございます!


短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。

「私もカイン様をそんなふうに愛せるでしょうか……」


 自分でもその答えは分かっている。

 敬慕から始まったカインへの感情は恐怖心へと変わり、それを拭い切り、愛へと形を変える事など不可能であると。安心とは程遠い感情を抱いているのだ。


 1度、芯から覚えてしまったあの感情は幾ら償われても忘れることなど出来ない。それにカインが心から償う事はないと、リリーフィアは理解していた。


 あまりにも10年という期間は長過ぎだ。


 眉間に皺を寄せ、今にも泣き出しそうに瞳を潤ませるリリーフィアにアメリアは囁くように口を開いた。


「形が存在しない関係性というものはその人達それぞれあるものだと思っています。その関係によって愛とは言わないにしろ、様々な形があると。しかし、そこにどちらか一方でも苦痛を感じているのならば間違った関係だと(わたくし)は思います」

「……そう、ですよね」

「相談には乗れますが答えを出すのはリリーフィア様です。答えを出さないのも選択のひとつ。貴族というのはそれほどしがらみが多すぎますから」


 そっと手を握ってくれたアメリアの手は暖かく、それは1人ではないと言ってくれているようだった。


 リリーフィアは顔を上げ引き止めたお礼を述べると、アメリアを送り出した。


「リリーフィア様、(わたくし)達は友人です。どんな選択をしたとしても、応援致します」

「ありがとうございます、アメリア様」


(昔と違って前を向けるのはアメリア様の存在があるからなのね)


 アメリアの強い視線に答えるように、リリーフィアは嬉しげに笑顔を浮かべた。


 ◇◇


「リリーフィア、少しいいかしら」


 スラム街廃止案の会議が終えると、リリーフィアは王妃に呼び止められた。その隣で陛下も座って動かないところを見ると、これは2人からの呼びかけなのだろう。


 役員達が会議室から出ると、椅子に座るよう促されたリリーフィアは言われるがままに椅子へ腰かけた。


「リリーフィア、早速で悪いが。卒業した後、経済部へ正式入社しないか?」


 陛下からの言葉にリリーフィアは思わず目を丸くし、言葉を失った。インターンシップ生徒に声がかかることは無くはない話だが、それはここ数十年聞いたことがない。


 通常はその部署の長から声がかかるのだろうが、親族である為にこういう形に至ったのだろうか。


「贔屓にならないよう、イレットや他の者に話を聞いた結果だ」

(わたくし)からの推薦もあるの。あなたの才を留めておくには勿体ないわ」


 これ以上ない誘いだ。あんなにも遠くに感じていた2人と肩を並べて歩ける日が来るなんて、1年前ならば考えもしなかった。


 今にも泣き出してしまいそうだが、リリーフィアはグッと抑え、立ち上がった。そして王妃に教わった綺麗なカーテシーで頭を下げると


「その件、謹んでお受け致します」


 そこには泣き出しそうな弱気な少女はいない。

 一人の淑女が立ち尽くしていた。


「その言葉を期待していた。それでここからは……少し込み入った話をしようか」

「勧誘するにあたってリリーフィアの事を少し調べさせてもらったの」


 そう話し始めた2人の雰囲気は一変した。父であり部署の長であるハロルドから話がなかったのはこれが原因だと、リリーフィアはふと理解する。

 この事情は私情が挟まりすぎる。


「婚約者のカイン・アーマルドだが、少し目に余る行為が見られる。手を出す令嬢がどれも高位貴族なのが癖が悪い」


 この国を運営する仕事に就く者が少しでも隙を作っては業務に支障をきたす事はもちろん、他国から攻めいられる原因になってしまう。

 そしてこの仕事がこの国の貴族であったとしても、舐められてはいけない。


 婚約者の不貞行為が表沙汰になった時、その被害はドルファン伯爵家だけには留まらないのだ。


「この事はハロルドには伝えていない。あの親バカの事だ。何がなんでも婚約破棄をさせ、君を引き入れるに決まっている」

「就職において、親が出過ぎてはいけない……それが(わたくし)達の意見なのよ」

「……少し、考えさせていただいてもよろしいでしょうか」


 貴族間で結婚というものは利益に繋がるか否かだ。恋愛結婚は全体の10パーセントいるかどうか。


 アーマルド侯爵家は先々代の頃に忠誠を誓い、今では幹部にまで出世している。利益のある結婚。分かっている。

 ここで王宮勤めを辞退すれば、カインの不貞行為は結婚した後まで続かなければ丸く収まる。


(私の意見を捨てれば……全部上手くいくのよね)


 会議室から出たリリーフィアはとぼとぼと、自室へ向かい歩き始めた。


(昔なら流れるように自分の事なんて捨てられたのに。私は知らないうちに我儘になっていたみたいね)


 自室が見えた時、扉の前で待つ人が見えた。


「ドルファン嬢、お疲れ様。会議が終わったと聞いたからお茶でも誘うと思って待ってたんだ」


 テオドールだ。


 彼はにっこりと笑うと、どこから持ってきたのか包み紙に包まれた菓子を見せてきた。


 今まで変にドクンドクンと音を鳴らせていた心臓が、落ち着いてくる。ここにきてからはいつもそうだ。テオドールの声を聞く度に不安が減る。


 そして決まって微かにーーー


(緊張……する?)


「昼間に出たものをこっそりとっておいて貰ったんだ。会議後で疲れてるだろうから甘いものを食べたくなるだろう?」


 理解してしまった。今まで不可解だった感情の変化が。そしてそれは決まってテオドールがいる時に変化し、日々膨れ上がっていく。


 しかしこの気持ちは、感情は、抱いていけなかったものだ。自分には婚約者がおり、彼には国を支えるべく隣に立つ婚約者がこれから向かい入れられる。


「ありがとうございます、ウィリアム様」


 リリーフィアは何も気付かないふりをし、いつものようににっこりと微笑んでみせた。

次話は

カインへ恐怖とはまた違う感情を抱くお話です。


お時間がありましたら

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