花の選択 ⑤
開いて下さりありがとうございます!
短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。
アレクの熱が籠った眼差しに、リリーフィアは息を飲んだ。その眼差しは向けられた事の無い熱い感情だと嫌でも気が付く。
リリーフィアは逃げるように視線を逸らすと
「えっと……ゆ、友人に伝えておきます」
そう言って書類に視線を戻した。
「ん」
アレクはそれだけ口に出すと、いつもの彼に戻りスパルタ教育は始まった。
◇◇
恋という感情は未だによく分からない。
アメリアやセオドアを見ている限り、その感情はフワフワでキラキラとしたなにかなのだろうがそんな感情を知らない。カインに抱いていたのは恐怖心で愛や恋では無いと分かってしまった。
父に愛されていた事を今実感したが、当時の自分は孤独感でいっぱいだった。
1人の誕生日に1人の朝食に昼食に夜食……ひとりぼっちは当たり前の日常だ。それ故なのか、愛というものが理解できない。
それほど、一人の時間が長すぎたのだ。
自室で横になったリリーフィアは天井を無心で眺めていた。そんな時、扉を叩く音がした。
王妃教育は数分前に終わったが、何か忘れ物でもしてしまったのだろうか。
「はい」
リリーフィアが扉を開けると
「リリーフィア様、1時間だけお時間よろしいでしょうか」
「久しぶりだな」
「ケーキの手配が遅れてしまってね」
生徒会の3人が顔を揃えていた。
手にはホールケーキや飲み物が握られ、まるで何かを祝う為に集まってきたようだ。
首を傾げたリリーフィアにアメリアは困ったように微笑み
「やっぱり気づいていないのですね?これはリリーフィア様の祝賀会です。いちインターン生徒の案が通るなど滅多に無い快挙ですよ?」
テーブルの上にそれらしくケーキやグラスを並べた。
「おめでたい事は祝わないとね。おめでとう、ドルファン嬢」
テオドールの笑顔にリリーフィアの心臓はとくんと鳴った。喜んでくれるとは予想していたが、それが現実となるのがこんなにも嬉しいとは思わなかったのだ。
今まで誕生日やその他祝い事はひとりで少し豪華な料理を食べるだけの時間だった。虚しいだけと知った時、祝う事を辞めてしまったが、祝われるという事はこんなにも嬉々溢れるものだったとは思いもしなかった。
物語で知った祝賀会と言うのはただの理想郷ではなかったらしい。
「ありがとうございます!」
リリーフィアは涙ぐみながらも、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
◇◇
「あの、アメリア様。少しいいですか?」
「いいですよ」
祝賀会を終えたリリーフィアはアメリアを呼び止めた。明日に備える為、数分だけになるがどうしても聞きたいことがあったのだ。
「アメリア様はセオドア様といる時、どんな感情なのでしょうか」
「セオドアといる時……?」
アレクはあくまでも友人へ婚約を申し込んでいたが、その友人という人物はいない。だからといってあんなにも真剣な顔をするアレクを無下に扱うことなんてしたくない。
リリーフィアの真剣な顔を前に、アメリアはクスリと笑みを零すと
「リリーフィア様も恋をしたのですか?」
そう、微笑ましいそうに頬へ手を当てた。
予想していなかった問にリリーフィアは顔を真っ赤にして首を横に振る。
「わ、私ではなく!私の友人が婚約を申し込まれて……恋が分からないようで、理想の婚約者である2人なら分かるかなと」
「あらあら」
少し残念そうに眉を下げたアメリアだったが
(これは間違いなくリリーフィア様本人の事ね)
リリーフィアの嘘などお見通しである。
「私とセオドアはただの主人と護衛の関係だったんです。プロポーズしてきたのはセオドアからなんですよ?」
「本当ですか!?あのセオドア様、が……」
あのセオドア様が信じられない……と言いかけたが、日頃の2人を思い出すと納得する。授業などいたし方ない場合を除き、彼はいつもアメリアの後ろで守るように立っているのだ。
その眼差しはいち護衛としてのものではないと、初めに出会った時から思っていた。
「セオドアったら名門育成校の誘いを断ってまで私と婚約すると言い切ったのですよ。彼の実家が名門であり陛下すら一目置く存在なのが運が良かった」
「それはとてもセオドア様らしいですね」
「そうでしょう?それがお父様の心を掴んだらしいのです。彼ならば何を選択肢として与えても私を選ぶだろうと」
そう思い出話をするアメリアの瞳は公爵令嬢とは違い、いち少女のものだった。
「公爵家の令嬢として生を成した時から、家の為や国の為、民の為に命を捧げると誓いました。それがもし年の差のある政略結婚でも、質として国を跨ぐことも、それが利益になるのなら喜んで身を捧げます」
真っ直ぐすぎる視線に、リリーフィアは言葉が出なかった。以前に聞いた軸の話とは重みが違う。
「私の覚悟をお父様もきっと止めません。年齢にしては達観視している性格だからと背中を押すでしょう。しかし、セオドアは違うのです」
「セオドア様はどうなさるのですか?」
「セオドアは昔からひとりの人間として見ていてくれた。私がもし婚約破棄をし、隣国へ嫁ぐ事になったとして……その手を払い除けようととも、彼は茨の道だとしも共に歩いてくれようとする」
これは恋と言うには軽すぎると、リリーフィアは
そう話すアメリアの表情を見て、羨ましいと思った。
執着ではなく、ちゃんと彼の心を見て信頼しているから出てくる言葉達はとても綺麗に見えてくる。
「あ、少し惚気けすぎてしまったでしょうか。上手く答えられたかは分かりませんが、私が彼に対する感情は今の通りです。セオドアと居ると安心するのですよ」
そう言って恥ずかしそうに頬を染めるアメリアを抱き締めたい衝動に襲われるが、リリーフィアは何とかその衝動を抑え込む。
「一緒にいたらソワソワして少し緊張するのに……少しでも長く話したくて会いたくなる。言葉にするのは難しいですね」
「とても素敵です!」
「ふふ……ありがとうございます。これは2人だけの秘密ですよ?」
「はい」
「さぁ、次はリリーフィア様の番です。思っている事を話してみてください」
この人を騙すのは100年早かったと、リリーフィアは後悔した。初めから全てお見通しであったのだ。
リリーフィアはテーブルの上に置きっぱなしにしていたカインからの手紙を眺め、おもむろに口を開いた。
20話程度で完結予定できそうにありません!
次話は
リリーフィアが正式入社へ推薦される話と、テオドールへの感情を理解する話です。
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