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花の選択 ④

開いて下さりありがとうございます!


短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。

「あの方がいつも話題に上がるリリーフィア様なのね」

「そうだよ。自分では落ちこぼれなんて言うけど、そんなことないと僕は思うんだ」

「そう……王太子としてひとりのご令嬢に肩入れしすぎるのはどうかと思うけど」

「か、肩入れなんてしてないさ」

「部が悪くなると視線を下げる癖、治した方がいいわよ。私はそれとなくカバーできるけど、あなたの隣にいる方がいつもそうだと限らないわ」


 頭が上がらないテオドールの引き攣った笑顔の隣、レンシアはリリーフィアの背を見つめていた。


 ◇◇


「わざわざ呼んで悪かったな」

「いえ」

「王宮へ来て間もなく提案書を集ったのを覚えているか?」

「はい。国の問題点について1人1枚、解決案とその詳細を書くように……と」


 陛下は書類を掲げ、従者を通してリリーフィアへ手渡した。頭の整理が追いつかないリリーフィアを他所に話は続く。


「この国のスラム街廃止案計画。まだ穴はあるにしろ、話が通ることになった。これから本格的に話が進むだろう。その時は立案者として呼ぶ回数も増えるからそのつもりで動いてもらう」

「え……あの……は、はい」


(私の案で国が動く……?)


 国がスラム街について頭を抱えているのは知っていた。その時は経済部にインターンしてまもなくの事で経費についてや諸々の穴がある事は今になって理解し、その存在すら忘れていた程だ。


 呆気にとられているリリーフィアを他所に、会議日時を伝えられ流されるように頷く。頭の中は急加速で頷くだけの人形だ。


 その後要件だけ伝えられ、リリーフィアとハロルドは仕事へと向かった。


 この事は直ぐに王宮内で回り、翌日には学園にまでその話題が広がっていた。あのドルファン伯爵家の落ちこぼれの案で国が動く……と。


 その事についてリリーフィアが知ったのは


 Dearリリーフィア


 君の案が上にまで言ったそうでないか。

 婚約者として鼻が高いよ。

 君の帰りを待っている。


 Fromカイン


 カインからインターンシップに行ってから初めて届いた手紙からだった。


 1年前の自分ならきっとこの手紙にも違和感を感じなかったのだろう。鼻が高いと言われ、安堵したのだろうが今はなんだか不思議な気分だ。


 胸の奥でフツフツとした感情が押し寄せてくる。


 ◇◇


「フツフツ……?何言ってんだ」

「ゆ、友人の話なので……よく分からなくて。すみません」


 父が近くにいる手前、友人の事だと称してリリーフィアは意味不明な感情についてアレクに相談していた。


 テオドールやアメリア達といるようになってから、カインと接触することが著しく減ったことにより感情を知ったものの、それが今は悩みの種となっている。


 全てがカインにとってのみ都合の良い内容の手紙を読むなり、思わず手紙を持っていた手を握りしめてしまう程に知らない感情は身体中を押し寄せてきた。


「その子は今まで婚約者とは上手くいってないみたいで、急にそんな手紙が届いて驚いたのでしょうか?」


 そうリリーフィアが不思議そうに話すと、アレクは何言ってんだと言わんばかりの呆れた表情を浮かべた。


(友人って事にしているがこいつ、自分のこと……)


「それ、ただ単純に怒ってるだけなんじゃねぇの?」

「怒っている?」

「今まで散々な目にあっておきながら、都合のいい時だけ婚約者面をするエセ野郎。オレなら友人からお断りだね」


(私がカイン様に怒っている……?)


 よくその意味を理解出来ないが、アレクの話していることは薄々感じていた事だ。婚約者という存在は父と母の様に苦楽を共にするものだと思っていたが、リリーフィア達の関係性は違う。


 圧倒的上下関係。そしてそこには勿論愛はない。


「そうか……怒っていたんですね」


 怒っている……そんな当たり前の感情に気付けた今、妙に心が軽い。


 スッキリとした顔をするリリーフィアにアレクはため息を吐く。


「相談する相手を間違えたな……ってそんな事よりお前、提案書が通ったんだってな!」

「は、はい。今日の夕方頃から会議に参加するようにと」

「ここへ来たばかりは自信の無い不抜けだと思っていたが、お前やる時はやれるやつなんだな。おめっとさん」


 嬉しそうに笑うアレクを見て、リリーフィアは遅れて歓喜が降りてきた。昨日はテオドールと会える機会が無かったが、報告したらどんな風に喜んでくれるのかと胸がざわめく。


 あとアメリアやセオドアにも話したい。きっとあの3人なら自分の事のように喜んでくれるのだろう。


「ありがとうございます。アレク様」


 そう思うと頬は自然と緩み、リリーフィアは爽やかな笑顔を浮かべていた。窓から入ってきた風がリリーフィアの髪を揺らし、そのまま光の粒に消えてしまいそうな雰囲気にアレクは思わず言葉を失う。


「私、とっても嬉しかったんですね」


(初めは劣等感が人間の皮を被ったようなやつだと思ってた。でもこいつはそれでも必死に食らいついてこようとして、下を向きながらも前に進んで……)


 アレクは


「……オレがその子の婚約者になってやろうか?」


 ふと零してしまったかのように、そう呟いた。

20話程度で(おそらく)完結予定です。


次話は

恋心と憤怒のお話です。


お時間がありましたら

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