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花の選択 ③

開いて下さりありがとうございます!


短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。

「リリーフィア、今日は仕事に入る前に着いてきてくれ。陛下の元へ向かう」

「分かりました。え……陛下、ですか?」


 経済部の部屋へ入って間もなく父としてではなく、部長としてのハロルドに呼び出されたリリーフィアはその内容に目を丸くした。


 なにか最近呼び出されるような粗相をした覚えもなければ、この10日間でなにか功績を成した覚えもない。


(嫌な予感しかしないわ)


 ハロルドの後を追いながら何かと考え込むリリーフィアだったが、リリーフィアは幾度の経験でもう知っている。

 これから起こりうる問題事はその前にいくら考え込んでも意味などない、と。


『中間テストをクリアした2人に教えておくわね。淑女とは仮面、仮初の姿。己を強くする為の武器なの。そうね……仮面をつける時のルーティーンを決めた方がいいわ』


 緊張する事に変わりないが、リリーフィアは真っ直ぐ前を向き、スゥ……と息を吐きながらおもむろに瞬きをした。


 王妃殿下に言われた通り、仮面をつけたリリーフィアの雰囲気は一変しそれは前へを歩いていたハロルドすら気が付くほど。


 その雰囲気は若い頃のマリヤそのものであり、振り返ったハロルドは思わず息を飲んだ。


 暫く歩いていると聞きなれた声が聞こえてきた。


「僕だって色々頑張ってるんだけどなぁ……」


(ウィリアム様……?朝に会うのは初めてだわ)


 胸の中で高揚感が僅かに跳ねるが


「テオドールはそういう考え無しなところ、治した方がいいわね」

「……分かっている。レンシアこそ、そろそろ婚約のひとつくらいした方がいいのではないかい?」

「それはお互い様。そしてそれを決めるのは私でないから」


 聞いたことがないテオドールの子供のように跳ねる声。慣れた話し方に、どこかの令嬢を呼ぶ親しい呼び方。


(友人……か)


 ただの同級生ではない少し特別な友人という関係性に嬉しく感じたのは確かだ。だとするならば、テオドールがもっと気を許しているあの令嬢とはどのような関係性なのかと、胸を締めつける。


 もしもテオドールが婚約をしない理由のひとつが、あの令嬢を恋慕っているからだとすれば……。


 心臓からドクンと嫌な音が鳴り、淑女の仮面が剥がれていることがよく分かる。平然ですらないのだろう。


「あれ?ドルフィン嬢じゃないか」

「……ウィリアム様」


 駆け寄ってきてくれたテオドールの顔を見ると、もっと心の中は色々な感情が混ざり合い変な感じだ。


(お父様の影に顔が隠れていて良かった……)


「ドルフィン卿もお久しぶりです」

「お久しぶりです」

「あ、こちらはレンシア・ロベール。ロベール公爵卿の長女」


 そう言ったテオドールの後ろから出てきたのは、アヤメの花の様に美しい令嬢だった。

 紫がかった癖のない黒髪に、薄い黄色の瞳は目尻でツンと上がっているもののそれが凛とした美しさを引き立たせているように見える。


「お初にお目にかかります。ロベール公爵が長女、レンシアと申します」


 ひと目でわかる程に端整された所作、計算尽くされた表情に、落ちてくる髪すらもそのうちのひとつなのだろうが体に染み付いてそんな邪念が思い浮かばない。


 それはテオドールと並んでも見劣りしないほどに。


(こんな方がきっとウィリアム様の婚約者になるのよね……)


 そう思うとリリーフィアの胸はツキンと痛むが、既に知っていた事だ。王太子にはそれに相応しい婚約者が用意される。そしてそれは咲き始めた花ではなく、既に咲き誇った大輪の花が手に取られるのだろう。


 ハロルドの紹介が終わり、その番はリリーフィアに回ってきた。


(礼儀作法なら王妃殿下からしっかり教わってきた。自信ならあるわ)


 リリーフィアは唇をほんの一瞬噛むも、直ぐに淑女の仮面をつけ直す。


(ウィリアム様、見ていてくださいね)


 そう目線で合図したリリーフィアから臆病さは微塵も感じない。蕾なんて烏滸がましい大輪がそこには咲き誇っていた。


 それはテオドールが思わず見惚れてしまうほどに。


「お初にお目にかかります。ドルファン伯爵家息女、リリーフィアと申します。レンシア・ロベール様、以後お見知り置きください」


 頭を上げたリリーフィアはふと、呆然とするレンシアと目が合った。あなたが……と呟いたほんの僅かに剥がれたその表情は、少しだけ哀を含んでいるように思えた。


「留学から一時帰省の最中なんです。もしよろしければ仲良くしてください」

「私も仲良くしたいと思っておりました。こちらこそ仲良くしていただけると嬉しいです」


 凛とした雰囲気は言葉遣いからくるのだろうか。そう、リリーフィアが心の中で大きく頷いたリリーフィア。


 しかし長く話している暇はなく、リリーフィアはハロルドと共に玉座の間へと急いだ。

20話程度で(おそらく)完結予定です。


次話は

グロリオサ受賞理由のアレを深堀していくお話です。


お時間がありましたら

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