花の選択 ②
開いて下さりありがとうございます!
短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。
「最近は……その、どうだ?」
「最近、ですか?イレット様に褒められる事も増えましたし、王妃殿下の淑女教育も昨日はよく出来たと褒められました」
「そうか……順調、なんだな」
「順調、です」
インターンシップに来てから昼食は流れでハロルドと取ることになったリリーフィアだったが、今まで話す回数がほぼゼロだっただけあり、気まずい雰囲気が毎回流れていた。
ハロルドの個室であり、周りに人がいないのが静けさの要因の一つである。
「マリヤの体調も良くなってきたと医者から聞いている。時期に自宅療養も可能との事だ」
「お母様が……!?それは少し安心ですね」
母───マリヤはリリーフィアを産んだ時、病気が見つかりそのまま病院での生活を余儀なくしていた。
金と権力ならお釣りがくるほどには抱え込んでいるだけあり、国随一の病院にかからせ週に一度はどんなに忙しくとも病院へ見舞いに言っているらしい。王宮付近にあるのが幸をそうしたのだろう。
余裕が持てるようになった今なら達観視できるが、王宮からそこそこはあるドルファン邸へ多忙の中、2週間に一度は顔を合わせる機会を設け、手紙も送ってきている。
近くで働いてみて分かるが、それがどれほどに大変なのか……役職からしてそんな暇があるなら寝ていたいのが本音なのだろうに。
「マリヤや仕事にかかりっきりで家を空けすぎていた。寂しい思いをさせて申し訳なかった……こんな謝罪で償えるとは思っていないが言わ、ーーー」
「お父様」
ハロルドの言葉を遮ったリリーフィアは、申し訳なさそうに眉を下げる彼の顔を真っ直ぐに見つめていた。
「お父様の言う通り、あの頃の寂しさは二度と埋まることはありません。ずっと……」
リリーフィアは唇をグッと噛み、少しの間俯いていた。なにか覚悟を固めている様な、神妙な雰囲気にハロルドは言葉を入れることはなく、ただ傍観している。
(多忙の中、会いに来てくれていた事。手紙を欠かさず送って来てくれていた事。誕生日には家に帰って来ないものの、プレゼントをこれでもかと届けてくれた事。そしてインターンシップの期間、昼には止める部下を無視して毎回共に昼食を取ってくれている事……)
「私は……ずっと」
(その全てが私を愛しているから、という理由だとするなら……)
顔を上げたリリーフィアに王妃から教わった淑女の顔はない。そこにはただの子供の顔をしたリリーフィアがいた。
「ずっと……ずっと、ずっと。寂しかった、そばに居て欲しかった。こんな私でいいからと、頭を撫でて欲しかった!」
泣きじゃくる子供のような声だ。今にも泣き出してしまいそうな潤んだ瞳。ずっと物分りのいい子供のフリをしていた跳ね返しの全てが詰まっていた。
ハロルドはおもむろに立ち上がり、僅かに怯えを見せるリリーフィアを抱き寄せた。
「物分りがいい子だと勝手に思っていた……いや、そう思う事で家を空ける後ろめたさを埋めていたのだ。寂しい思いをさせて申し訳なかった」
「お父様……」
懐かしい父の香りと親の温もり。
リリーフィアは震える手でハロルドの服の袖を摘んだ。
「ずっとリリーフィアは誇りだったよ。今は個人として、隣並んで歩けるなんて……俺は嬉しいんだ」
隣並んで……それは同等だと言っているようなものだ。
ハロルドの父たる温もりある声と、個人としての言葉にリリーフィアは我慢していた涙を溢れ出した。
そんなリリーフィアの頭をハロルドは慣れない手つきで撫で、涙がおさまるのをずっと待っていた。
20話程度で完結予定です。
次話は
リリーフィアの立案書が上に通るお話です。
グロリオサ受賞理由のアレです。
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