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開花 ③

開いて下さりありがとうございます!


短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。

「薔薇と百合……まぁまぁまぁ!それで何かを言いかけて去ってしまったのですね!まぁまぁまぁ!」


 昨日の事をアメリアに相談すると意味深な笑みを浮かべ、「漸く殿下が……重い一歩を」と時折何かを噛み締めるように浸っていた。


 その意味を王妃直属淑女教育を終えた後に教えるといい、インターシップへ向かってしまった。あの笑顔を見る限り悪いことでは無いことは分かったが、なにか含みのあるセリフにむず痒さが抜けない。


 気になるから今教えて欲しかったが、気が散ったままインターシップを行っては経済部に失礼というものだ。

 リリーフィアは頬を勢いよく叩くと気合いを入れ直し、経済部の扉をくぐった。


 ◇


「お前、まだ効率悪いけど昨日より良くなったじゃん」


 昼が過ぎ、午後の作業に手を付けているとアレクは急に口を開き始めた。昨日一日いて、アレクは言葉に衣をつけて話すタイプでないことは身に染みて理解している。


 なぜこんないきなりだと疑心暗鬼にもなるが、アレクの性格上ゴマすりでないことは分かる。リリーフィアはむず痒そうに頬を掻くと、


「私なんてまだまだですよ」


 そう言って再び作業を進めた。


 アレクは煮え切らない様に考え込んだ後、


「オレはお前のそういうとこがなんと言うか……スッキリしない」


 と言ってのけ、リリーフィアの手を止めた。


 対面で指摘される事は初めてでは無いが、こういった仕事外の指摘は初めてだ。

 リリーフィアが首を傾げると、アレクはペンのノックボタン側を突きつけた。


「オレは褒めてんだ。そこはありがとうございます、でいいんだよ。それと、作業効率は上がってるしミスも少なくなったが自信の無さが見えすぎて次渡す仕事を任せていいのか悩む」

「自信の無さ……」


 王城に来てからというもの”自信の無さ”についてよく指摘される。王妃にも言われた卑下は毒だと言う事もきっとこれと同義だ。

 卑下しすぎる事が毒となり自信を失わせ、態度に出ては相手の気分も悪くするのだろう。


 自分に恥じない生き方をしたいと決めたものの、先行き不透明過ぎる。

 いつも父や兄と比べられ、カインにも蔑まれ、固定化してしまった思考をどうやって変えるのか……リリーフィアは口をつむんだ。


(私はどうすれば……)


 リリーフィアが顔を俯かせると、アレクは


「ここにいる以上、お前は少なからず努力をして認められたからここにいるんだろ。経済部にいる連中はここで働いている事を誇りに思って、それが自信に繋がってる。お前はそんなに今いる環境がそんな惨めなのかよ」


 そう言って口を紡ぐリリーフィアの答えを待った。


 この場にいるのはテオドール達のお陰であり

 自分の実力ではない。認めてくれた彼らの事は尊敬しているし、この先何があっても生徒会に勧誘してくれた時の恩は忘れないだろう。


 しかし勧誘して貰えたのが努力の賜物なのだと思ってもいいのなら……そう思う反面で、リリーフィアの中にいる”ドルファン伯爵家の落ちこぼれ”と呼ばれていたあの頃の自分を認める事が出来ないでいた。


『努力家で心優しいリリーフィア・ドルファンが生徒会には欲しいんですよ』


 そんな時、あの頃の落ちこぼれだった自分をも認めてくれた……生徒会に勧誘された時に言われたテオドールの言葉を思い出した。


「イレット様、ご指摘ありがとうございます。まだ直ぐに自信を持てないのでご迷惑をおかけすると思いますが精一杯頑張りますのでご教授お願い致します」


 まだ心情を上手く言葉にする事は出来ない。だからこそ、そのまま言葉にするしか方法を知らないリリーフィアだったが、真っ直ぐな言葉は確かにアレクの元へ届いた。


 顔を上げたリリーフィアの瞳には光が宿り、アレクは確かに変わった表情を前にニヤリと悪巧みのような笑みを浮かべると


「今までは序の序の序だ!自信をつけるには成功体験が1番だし、これからはビシバシ行くぞ!」


 どこからともなく持ってきた大量の書類をリリーフィアのデスクへと置いた。


「あれが序の序の序……が、頑張ります!」


 ◇


「本当に今までが序の序の序だったのね……」


 あの言葉を封切りに、仕事量はもちろんアレクからの厳しい言葉も増えに増え、体力は王妃直属淑女教育の前なのにも関わらず枯渇寸前だ。


 リリーフィアは王妃の元へ向かうまでの30分をめいいっぱい休む事にし、自室へ向かっていた。

 すると自室へ向かう途中、この時間帯には珍しく使用人が使う一室に明かりがついていた。


 不思議に思ったリリーフィアが覗き込むと、そこには数人の使用人が集まっている。


「手荒れが最近酷くて……高価なハンドクリームを買うならアクセサリーにまわしたいし」

「そうなのよねぇ。付けても即効性無いのばかりだし」


 確かに王城勤めの使用人達の仕事量は伯爵家の仕事量とは比べ物にならない。

 それなりに身分のある者たちが集まっているだけあり、ドレスやアクセサリーにお金をまわし、手荒れ等にまわせるのは僅かになるのだろう。


 王城に来てから度々手荒れの酷い使用人が記憶に残っていた。火傷の跡が残ってる者も時たま目につき、綺麗が大前提で求められる貴族社会では心無い言葉を浴びせられる場面も出てくる。


 リリーフィアはカインにぶたれた記憶が残る腕を摩ると


「あ、あの!」


 勇気を振り絞り、部屋へと入った。


 慌てて頭を下げる使用人達の頭を慌てて上げさせたリリーフィアはポケットから、銀の缶を取り出した。首を傾げる使用人達に


「これは傷跡にもよく効く軟膏です。私が自作したものなので危険性はありません。よければ他の使用人の方々にも……。寝る前に塗ると朝には軽傷の乾燥程度ならば治っていますよ」


 リリーフィアがそう言って渡すと、使用人達は顔を合わせプルプルと肩を震わせ始めた。

 何か失礼な事をしてしまったのだろうか、自作したなどと不衛生なものを嫌がるのは当たり前だ……と不安がよぎったものの。


「ありがとうございます、ドルファン様!」

「私達の為に軟膏をくれたのは初めてですわ!」

「お言葉に甘えて他の使用人達と分けさせていただきます」


 予想を裏切る大歓喜が部屋に響き渡り、王城でドルファン伯爵令嬢特製ハンドクリームが大流行りするのはこの数日後の事だ。

20話程度で完結予定です。


次話は

自信のお話です。


お時間がありましたら

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