開花 ②
開いて下さりありがとうございます!
短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。
「あれ?ドルファン嬢も今帰りかい?」
(今日はもう会えないと思っていたのに……)
そう思っていた手前、振り返った先にいたテオドールを見た途端つい頬が緩んでしまったリリーフィア。
その表情に釣られるようにテオドールも頬を緩ませると、不思議と生徒会室の様な和やかな雰囲気が流れる。
さっきまで気を張りすぎていたせいだろうか、不思議な高揚感がリリーフィアの胸の内で波だった。
「ウィリアム様……あ、いえ、殿下も今お帰りですか?」
高揚感を隠しきれていない声の上ずりと呼び方。リリーフィアはつい緩んでしまった紐をキツく結び直した。
学園は身分を問わない平等主義だが、今は王城だ。身分は弁えなくては尊敬しているテオドールにも失礼になるだろう。
リリーフィアがそう言って一歩後ろへ下がると、テオドールはいつもより少しだけ悲しそうに微笑んだ。
「別にウィリアムでも構わないよ。ドルファン嬢さえよければ、テオドールって呼んでくれても構わないしね」
「そういう訳にはいきません!私は一同級生であって婚約者でもないのに……その、下の名前でお呼びするなど恐れ多いといいますか」
自分で話していて、改めて立場を理解したリリーフィアは微かに手を強ばらせた。
学園内で親しくしていてもただの同級生であり、それ以上の親しい関係ではないのだと。
どんなに近付こうが、消えない壁はいつも間にある、と。
テオドールの口からも、国からも婚約者が出来たという話は聞かないが、この歳で一国の王子に婚約者がいないのはおかしい。
(もしかして極秘の方が……)
そう思った途端、さっきまで浮かれていた感情はどこかに消え、嬉しいよりも悲しい感情の方が勝ってしまった。
そんな心情を悟ったのか、テオドールはいつもの余裕のある笑みを浮かべると
「確かに僕達は王太子と伯爵令嬢だし、同じ学園の一同級生に過ぎないかもしれない。しかしそれ以前に僕達は友人だ。ただの一同級生だけの関係だとは思わないように」
そう言って、リリーフィアが開けた半歩を軽々しく埋めてしまった。
数多くいる同級生の1人ではなく、友人という目に見えた名前がじんわりと冷えた手を暖かくさせる。
また後ろ向きになりかけていた感情を叱咤するようにリリーフィアは頬を軽く叩くと、驚くテオドールを前に微笑んだ。
「はい。ありがとうございます」
その笑顔につられテオドールも思わず笑を零し、2人の距離がいつもの距離に戻ると、テオドールはおもむろに口を開いた。
「実は今日、王妃殿下が淑女教育をするって聞いてね。心配で見に行ったんだ」
「心配……ですか?」
「ほらあの人……笑顔で辛辣な事言うから」
テオドールの共感するよとでも言いたげな眼差しに、リリーフィアは首を一度縦に振る。確かにあの笑顔で辛辣とも言えるアドバイスは時たま心に刺さることがあった。
テオドールもあれを体験したことがあるのかと、2人は目線でお互いを慰め合いため息を吐く。
「でも心配要らなかったみたいで安心したよ。ヘルベード嬢もいつもの事だったし、ドルファン嬢は少し前に見た時よりもうんと成長していたしね」
見に来たと言うことは自分の不出来をも見ていたのかと気付いたリリーフィアは頬をほのかに赤く染め
「いえ、私はまだまだです。アメリア様のように凛とカッコよく出来なくて……」
そう言っては抱えた本を握りしめた。
頑張る事しか能のない蛹のような自分と、孵化した蝶の様なアメリアを比べてしまうとどうしてもいても立っても居られなくなる。
アメリアが着ているドレスを真似てみる事も多々あったが、どう見ても子供が背伸びしているようにしか見えないのだ。
「でも、私には頑張る事しか出来ません。毎日練習して努力して……2週間のうちに立派な淑女となりますので、待っていてくれませんか」
何を待ってもらいたいのか自分でもよく分からないが、心の奥にある感情はこの言葉通りだ。
「僕は何度も言ってるだろう?ドルファン嬢なら出来るって。僕も追いつかれないように頑張るよ」
「ありがとうございます!では明日も早いので……」
照れくさくなってきたリリーフィアがその場を後にしようとすると、テオドールはリリーフィアの名前を呼び
「僕は薔薇と百合のどちらとも美しいと思うよ。強いて言うなら百合の方が……」
そう言って一瞬引き止めたが、最後まで言い終える前におやすみと去ってしまった。
「薔薇と百合……お花の事よね?いきなりどうしたのかしら」
薔薇と百合が何故いきなり出てきたのか検討もつかない。本人に聞いてみてもいいが、言い逃げしたテオドールが教えてくれるとは思えない。
(明日、アメリア様と王妃殿下に聞いてみよう)
20話程度で完結予定です。
次話はリリーフィアが自分の良さに気付く
お話です。
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