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花弁 ②

開いて下さりありがとうございます!


短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。

「それじゃあ、出発だ!」


 王宮行きの馬車は出発した。

 テオドールとセオドア、リリーフィアとアメリアが同じ馬車に乗り、馬車の中はピリピリとした雰囲気が流れると思っていたが、


「リリーフィア様、お菓子いかがですか?」

「あ、ありがとうございます」


 学園内の一室と変わらない雰囲気を出すアメリアのお陰もあり、和やかな空気は馬車内を包み込んだ。


 どんな状況でも冷静でいられるアメリアは緊張で震えている自分とは別次元の存在のように感じたリリーフィアは、震える手を握りしめた。


(私も強くならないと……)


 移り変わっていく景色を眺めながら、馬車に揺られること1時間───


「ようこそいらっしゃいました」


 リリーフィア達は王宮へ到着した。


 初めて見た王宮は絵本で見た魔王宮の様だと、リリーフィアは思わず口を開け、唖然と見上げた。学園入学時も同じような事を思った記憶があるが、学園とは比にならない大きな建物と壮大な庭園が広がっている。


 使用人1人に至っても気品があり、王宮の凄さを身に染みて理解するが手元を隠すような立方に違和感を覚えたリリーフィアだったが、いざ降りるとなると足がプルプルと震え始めた。


 ライオンを前にした子リスの様にプルプルと震え、未だ馬車から降りる事が出来ないリリーフィアを微笑ましく見つめる3人。


 テオドールはそんなリリーフィアに微笑みかけると


「大丈夫。この家の事なら僕が1番よく知ってるから、なんでも聞いてよ。最大限サポートもするしね」


 そう言って手を差し伸べた。エスコートしようと伸ばされた手に触れた時、リリーフィアは以前にも同じ事があった事を思い出した。


 カインに蔑まれたリリーフィアを廊下で、同じ言葉で、同じ優しい手を差し伸べてくれた記憶が鮮明に蘇る。


(ウィリアム様の大丈夫はすごく安心する……でも、私はここへ変わりに来たんだ。同じままじゃいけない)


 リリーフィアはお礼を言って馬車から降りると、前を向いて王宮へ入って行った。


「今年の生徒会は4人しかいないと聞いていたが、本当らしい」


 初めて見る王座と、初めて拝謁する国王陛下は魔王と呼ぶに相応しい外見をしていた。


 テオドールと同じ金髪碧眼ではあるものの、爽やかで中性的な美しさをもつテオドールとは異なり、男性らしい骨格を持ち合わせている彼は筋骨隆々という言葉が良く似合う。


 眉間に寄っている皺や鋭い眼光は力強い威厳があり、昔父が話していた「陛下は金髪碧眼ゴリラだ」という事が嘘でなかったと何年ぶりに理解する事が出来た。


 そんな国王の隣にいる王妃は、国王とは正反対で儚く繊細な容姿をしていた。一目見て、テオドールが母親似だと直ぐに理解出来る程だ。


 髪色が異なるだけで、憂いを帯びた目や薄い唇、儚げな雰囲気は瓜二つと言っても過言では無い。


「では自己紹介をしてもらいましょうか」


 細くも通る声を封切りに、リリーフィア達は半歩前に出て名前を名乗るのみの簡易的な挨拶を始めた。


 緊張でガチガチなリリーフィアは何とか自分の番を終え、後に続ける。余裕そうなアメリア達を横目に小さなため息を吐くと、前を向いて王妃の次を待った。


「ご存知かと思いますが、(わたくし)はロザリー・ロア・ウィリアム。今日から14日間、よろしくお願いしますね」


 優しく微笑んだ表情は聖母像のように見える。しかし、人は見かけによらないものだと王妃を見てリリーフィアは唾を飲んだ。


 可憐で儚げな容姿とは裏腹に、その知能は国随一と言われ、王妃就任以前の15歳という若さで国を裏で牛耳っている悪名高い家を没落にまで追い込んだ女傑。

 各国の重鎮にも物怖じしない性格、剛毅果断な彼女は裏では国王陛下にも勝る権力を持つと言われている。


 これが国一番と言われている淑女と、一国の王なのかと、リリーフィアを初めとした3人は本能的に見入ってしまった。


「2週間住む部屋は別棟に用意させておいた。荷物は運ぶよう命じるとして……早速、仕事をしてもらおう」


 見入っていた3人の意識を戻す低く唸るような声と共に、テオドール抜きの面々は後ろで待機していた使用人の後を追った。


 その後を意気揚々と追おうとしていたテオドールを、国王は止めると


「テオドール、お前は学園期間中でやり切れないはずだった公務を任せる」

「……かしこまりました」


 3人……元い4人のメンタル潰し合宿は開始した。


 ◇◇経済部


 プレートが置かれた部屋の前まで案内されたリリーフィアは立ち止まり、深く息を吸った。


 ここに一歩踏み入れてしまえば、もう後には引き返せない。畏怖する反面、頭の中は透明で邪念が霧の中に消えていくようだ。

 だからといって怖くない訳では無いし、手の震えも止まらない。


 でも……


『なりたいなら、なれ。それを達成出来る能力が君にはあるんだ』

『大丈夫』


 エスコートされた手の温もり、テオドールの言葉を噛み締めるようにリリーフィアは顔を上げると、重たい扉を開けた。


「失礼いたします」


 リリーフィアがそう言いながら経済部の部屋へ入ると、作業していたであろう人達の目線は一気に彼女へ向けられた。


 昔ならこの視線に怯んでいたが、今は不思議とこの視線が怖くは無い。この視線が物珍しい珍獣を眺めるものだと知っているからだろうか。


 リリーフィアはその視線へ朗らかに微笑むと


「お初にお目にかかります。リリーフィア・ドルファンと申します。2週間という短い期間ですが、皆様のお力添え出来れば幸いです」


 型にはまりたてではあるが、余裕のあるカーテシーで頭を下げた。お手本のようなカーテシーに、微かなざわめきが鳴り響く。そこに落ちこぼれと呼ばれていた彼女の面影はなく、誰もが名家ドルファン伯爵家の息女だと納得する程だ。


 リリーフィアが顔を上げた先、するとそこには


「よく来たな。娘だからといって甘やかすことはない。気を張って仕事に挑め」


 仕事服を着た父が立っていた。その奥に兄らしき人影が見えるが、書類に追われている彼に彼女の声は届かないらしい。


 リリーフィアはハキハキとした返事で父の後を追うと、扉で仕切られた個室へと案内された。


 テーブルひとつと、椅子が2着、壁にそうように敷き詰められた本棚、大きな窓ひとつしかない殺風景な部屋だ。


「国家機密の塊がこの部屋にはある。用意してある仕事は私が運ぶ。終わり次第、付き添っている者に提出しなさい」

「かしこまりました」


 父が連れてきた付き添い人はアレク・イレットと名乗った。仕草は流石王宮勤めと納得するものではあるが、どこか何となくツンとした雰囲気が抜けず、とても歓迎している雰囲気では無い。


 そしてそれは父が部屋を出てまもなく、全てを理解した。


「なんでオレがガキの世話をしなくちゃならないんだ!入るかも分からん奴の教育なんて陛下は何を考えているのやら……」


 椅子にふんぞり返るように座るアレクは、どこかカインの様な横暴さが見える。

 つい昔の癖でリリーフィアが謝ると


「謝れとは言ってない!」


 逆に叱られてしまった。


 カインは謝れとは言うものの、アレクの様な事は決して言う性ではない。似ているようで似ていない……掴みどころのない彼とうまくやっていけるのだろうかと、リリーフィアは不安を隠す様に窓を眺めた。


 父に渡された書類は中小企業が送ってきた書類の合計金額の確認、一致しない部分の解明だ。


 生徒会でも似たような計算をしていたが、国と一学園とでは質が違う。ひとつの項目でさえその金額がどこから出されたものなのか調べるしかない。


(ウィリアム様達だって今頃同じように頑張っているのよね。私も頑張らないと!)


 初めはアレクに何度も聞きながら何度も怒られていたリリーフィアだったが、夕方に差し掛かった頃には聞く回数も減り、作業効率も目に見えて上がった。


 作業ペースと集中力にアレクが目を丸くするほどだ。しかしミスがない訳ではなく、「国に携わる覚悟をもて!」と叱られながら一日は過ぎ……


 一日の仕事を終える頃には魂は抜け落ち、リリーフィアは部屋に入ると流れるようにベッドへ倒れ込んだ。廊下で会ったアメリアでさえ顔に疲れが出ているほど過酷なものであり、メンタルよりも先に体調が先に悪くなりそうだ。


 今日は早めに寝て、明日に備えようと、リリーフィアが侍女を呼ぼうとした。その時


「リリーフィア・ドルファン様、ご準備が終わり次第、お声かけ下さい」


 王宮の使用人であろう女性の声が部屋に響いた。

20話程度で完結予定です。


次話は

リリーフィアの考え方のお話です。


お時間がありましたら

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