花弁 ①
開いて下さりありがとうございます!
短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。
「お初にお目にかかります。リリーフィア・ドルファンと申します。2週間という短い期間ですが、皆様のお力添え出来れば幸いです」
王宮インターンシップは本日から開始され、リリーフィアの姿は……
「よく来たな。娘だからといって甘やかすことはない。気を張って仕事に挑め」
「はい」
王宮内の経済部にあった。
◇◇2週間前に遡る
「では本格的に経済部へインターンシップへ行くと決めたんですね」
「はい。経済部は企業促進や国内生産強化の他に環境問題、貿易関係も分野のひとつと本に載っていたのを見て……他の部門の事も目を通したのですが、1番気になるのはそこかな、と」
初めは父や兄の後を追っているようで抵抗があった。しかし、テオドールが言ってくれた”君がどこで何を学びたいか”という言葉に背中を押され、理由が父や兄では無く、学びたいからと思えるようになったのだ。
父や兄の存在だけでなく、この国で貴族女性の就職率は驚くほどに低い事も懸念のひとつだった。しかし、不安が過ぎってもテオドールの言葉に何度も背中を押され、前に進むことが出来た。
そして背中を押してくれたのはテオドールだけでは無い。
「それで私、アメリア様にお礼が言いたくて。ありがとうございます」
「私、何もしておりませんよ?」
「アメリア様の存在に助けられているというか……先日も友人だと言ってもらえたのが嬉しくて」
「かわ……」
「かわ?」
リリーフィアが不器用にも微笑むと、雷に打たれたような音と共に突然動かなくなったアメリア。
何か気に触る事を言ってしまったのかと、リリーフィアが頭を下げたその時
「可愛いですわ、リリーフィア様ー!可愛すぎです!私の事はアメリアと呼んでくれてもかまいませんのよ!」
途端に興奮しながら笑顔になったアメリアはリリーフィアの手を取り、ぜひ!と綺麗な顔を近付けてきた。
アメリアの様な淑女にもこういった一面があることにリリーフィアが驚いていると、
「私にだって可愛い方を可愛いという権利くらいあると思うんです!リリーフィア様は頑張り屋さんで一生懸命で……こんなにも可愛いなんて正義ですわ!」
当然だろう?と言いたげな視線で見つめてきた。
今までアメリアと言えば、遠い雲のような存在だと思っていたが、今は年相応の無邪気な女の子に見えてきてならない。
可愛いのはアメリアの方だと叫びたい気分だ。
「ありがとうございます、アメリア様。でも私にとってアメリア様は敬称を付けたいくらい尊敬するお方なんです。だからアメリア様と呼ばせてくださいませんか?」
「やはり手続きをして妹にしてしまいましょう」
初めての友人、初めて心から敬慕する人……初めてのリリーフィアが噛み締めていた時。
「カイン様、カイン様!次の週に王都にあるカフェに行きたいです!」
「分かったよ、従者には分かってるよな?」
「はい!ご友人と行くと話しますわ!」
前から歩いて来たのはカインとその浮気相手だった。
心臓がドクンと鳴り、嫌な緊張が走る。しかし、頭のどこかは冷静に今の現状を見ていて、頭の中はクリアだ。
「リリーフィア様、私の反対側へ。それらしく挨拶をしますので、リリーフィア様も簡単に」
身構えて硬直するリリーフィアとは違い、アメリアはどこかゆとりがあるように見え、大きな背中に安堵する。
しかし、守られているだけじゃ前と変わらない。
リリーフィアは拳を握りしめ、1歩前へ踏み出した。
「ありがとうございます、アメリア様。でも私のやらせて下さい」
震える声を必死に抑え、凛と前を向く。
「リリーフィア様……ダメな時は左足を後ろへ下げてください。直ぐにサポート致しますわ」
リリーフィアの意図を悟ってか、アメリアは前へ踏み出したリリーフィアの背中に手を重ねた。
二人の世界に浸っていたカインとその浮気相手は漸くリリーフィアの存在に気が付くと、何故か不思議そうに顔を二度見してくる。
「長期休み明け初めてお会い致しますね、カイン様。そのお隣にいるのは……ご友人でしょうか?」
「お前、リリーフィア、か?」
声を聞いてリリーフィアだと理解したカインは目を丸くし、思わず浮気相手の手を離した。長期休暇中も浮気相手と日替わりで遊び呆け、リリーフィアの存在を忘れていたカイン。
会うのは1ヶ月ぶりどころか、学園内でも会う回数は減り、正面で話す機会は2ヶ月ぶりもいいところだろう。
そしてもちろん、リリーフィアの変化に気が付くわけがなく、このリリーフィアと会うのは初めてだ。
記憶の中にいるリリーフィアはいつもオドオドとし、全体的にモヤがかった容姿をしていた。しかし今の彼女は隣にいるアメリアと並んでも見劣りしない淑女だ。
少し前の彼女とは似ても似つかないリリーフィアの姿に、カインは言葉を失った。
そして我に返り、こんな令嬢が婚約者だと誇りに思う気持ちが勝ったカインは浮気相手を無造作に扱うとリリーフィアの肩に手を置いた。
「見違えたよ。とても美しくなった。これなら俺と釣り合いそうだ。しかし……俺に一度くらい話を通してくれても良かったのに。なぁ、リリーフィア?」
肩に手を置かれ、馴れ馴れしい笑顔を向けられたリリーフィアは背中が凍りつくような感覚に襲われた。
気持ち悪い以外の言葉が見つからなければ、顔から血の気が引くのが自分でもよく分かる。
「驚かせようと思って……カイン様の為に頑張ったんですよ?」
震える声を何とか抑え、平常心を保とうとしたものの、どうしても気持ちの悪い感覚が抜けない。
優越感に浸るカインの顔を前にして、より一層背中が凍りつくような感覚に襲われる。払い除けようとしてしまった手をグッと抑え、覇気のない顔をしていると
「申し訳ありません、アーマルド様。リリーフィア様は気分がよろしくないようで」
「そうだったんですね。俺達の仲だろう?話してくれれば良かったに、リリーフィア」
会話を続けようとしていたカインを遮ってくれたアメリア。心の中で何度も感謝しながら、それとなく会話を合わせたリリーフィアは浮気相手に余裕のある笑みを浮かべ
「仲のいいご友人にカイン様が巡り会えているようで婚約者からしたらとても喜ばしいことですわ。イーブル伯爵令嬢……でしょうか?私もアメリア様というとても大切な友人が出来ましたの。それでは」
2人は空き教室へ急いだ。
「ま……まだ心臓がドクンドクン鳴ってます」
「私はあんな男性がいるなんて……心臓がないみたいですわ」
リリーフィアは興奮で頬を赤らめ、アメリアは顔を青ざめさせながら顔を合わせ、綻んだ雰囲気に2人は笑を零した。
今までカインしかいなかった世界が沢山の人で溢れ、こうしてカインと会った暗い記憶が明るい記憶になる。
その幸せを噛み締めるように、リリーフィアはアメリアの手を握ると
「メンタル潰し合宿……すごく怖いですけど、一緒に乗り切れるように私、頑張ります」
そう言って、真っ直ぐに視線を混じわせた。
「そうですね。私達なら乗り切れますわ。夜には集まって反省会を致しましょう」
「はい!よろしくお願いします」
そして、和やかな雰囲気を纏いながらメンタル潰し合宿は開幕する。
20話程度で完結予定です。
次話は
インターンシップと王妃のお話です。
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