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蕾 ②

開いて下さりありがとうございます!


短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。

 生徒会加入から初めての長期休みが明けた。


 もう頭が痛くなる程、知識は付けた。毎日クタクタになるまで礼儀作法や身だしなみも体に染み込ませた。


 出来る努力は全てやったつもりだ。


 残り自分がやらなくてはならい事はひとつだと、リリーフィアは理解していた。実践練習だ。


 制服も整え、髪は無造作に伸ばすだけでなくハーフアップに結い、髪留めひとつ、持ち物においても新調した。


 準備は満タン。後は部屋を出るだけなのだが……


「……ダメだ、あと一歩が勇気出ない」


 鏡を何度も見て、おかしい所が無いと朝から100回は確認したもののどうも自信が湧いてこない。


 でも……と、リリーフィアは唇を噛み締める。


(もう後ろを向かない。胸を張ってウィリアム様達の隣に立つんだ。やるだけの事はやったんだから、頑張るんだ私!)


 リリーフィアは俯いていた目線をグイッと上げ、一歩を踏み出した。


 自分の中にある何かが浮き彫りになった気がする。まだその何かは分からないが、得体の知れない何かがこんなにも心強いとは知らなかった。


「あら、リリーフィア様?おはようございます」

「アメリア様、おはようございます」


 部屋を出ると間もなく、リリーフィアの部屋へ向かおうとしていたアメリアと出くわした。


 アメリアは一瞬ポカンとしていたが、直ぐに満面の笑みを浮かべ


「今までは素朴な美しさがありましたが、とっても華やかになりましたわね!見違えましたわ!美しいなんて一言では現しきれません」


 綺麗になったリリーフィアの手を掴み、まるで自分の事のように喜んでいる。それが何よりも心を踊らせた。


 否定されると思ってはいなかったが、流行を意識し過ぎたかなとか、邪念を考えなかったと言ったら嘘になる。


 ほんの少しでもアメリアの様な淑女になれたのだろうか。


「ありがとうございます、アメリア様」

「ウィリアム様もきっと驚かれますわ。惚けてしまいますわね」

「ウィリアム様には1度会ってますので驚かれることはないと思います」

「それで……お褒めになられたのですか?」

「褒めると言いますか、似合っていると」

「へぇー……成程、成程」


 思い出しては照れくさくなってきたリリーフィアをアメリアは意味ありげな薄い笑顔でほくそ笑んだ。


 どこか楽しげにリリーフィアを見つめては、急に考え込んだり……と、今朝のアメリアはいつもよりおかしい。


 何か引っかかるところはあるにしろ、裏があるようには感じず、「さぁ遅刻しては本末転倒。教室へ急ぎましょうか」と言うアメリアの後を着いた。


 以前も感じた視線が今日も背中を刺してきた。


 アメリアへ向かう敬慕の視線とはまた違う、珍しい動物でも見るような視線である。


 やはり変だったのかなとか、考えても仕方ないと分かっているものの、どうしても邪念が消えてはくれない。


「顔に不安が出てますわ、リリーフィア様。おかしい所などございません。それはあなたが一番分かっているでしょう?」


 そうアメリアに囁かれ、また元に戻りかけていたと自分を叱責する。


(私が目指す淑女はこんな事で泣き寝入りなんてしない)


 前を向いて、背筋を伸ばす。


 嫌という程、体に叩き込んできた姿勢は少しだけ勇気をくれた。


 前を向くと、今までとは少しだけ景色が変わって見える。俯いていた頃とは違い、校舎へ差し込む光が校内の白を引き立たせ、なんとも言えない幻想的な雰囲気だ。


 一人一人の表情がしっかりと見える。背中を指していた視線はバカにするような視線ではなく、どちらかと言えば誰なんだこいつは!っていう驚嘆する視線だ。


 顔を見る余裕が出来れば、自然とそれ以外にも目がいくもので。


「すみません、髪飾りが取れかかっておりますので少し触れても……?」

「え、あ、はい」

「ありがとうございます」


 目の前から歩いてくる女子生徒の髪飾りに目がいった。とても綺麗で自然と吸い込まれるせいだろうか、綺麗なのに勿体なさすぎる。


 髪飾りを付ける練習をしておいて良かったと安堵した。女子生徒は呆然とリリーフィアの顔を眺めては


(……いい香りがする。え、女神?)


 と、思考が完全にストップしていた。


「これでよし。髪に触れてしまい申し訳ありませんでした」

「……おね、ま」

「え?」

「一生ついて行きますわ!お姉様ー!」

「お姉様!?」


 ◇◇


「ふふふ……何度思い出しても面白くて」

「アメリア様、笑いすぎです……。私だって故意にやったわけでは」


 お腹を抱えながら笑うアメリアを不思議そうに見つめるテオドールに、リリーフィアは気恥ずかしそうに説明を始めた。


 いつもより視野が広がり、すれ違いざまに女子生徒へ手を差し伸べていたら……


「後ろに……親衛隊が既に出来ていたと?」

「はい……」

「僕も見たかったなぁ。さぞかし面白い景色だっただろうに」

「ウィリアム様まで!」


 不機嫌そうに頬を膨らませるリリーフィアを、テオドールは熱の篭った視線を向けながら愉快そうに笑った。


 少し解けてしまった雰囲気を


「さぁ、ここからが本題だ」


 テオドールはその一言で結び直すと、冷や汗をかきながらある提案者をテーブルの上に広げた。

10話程度で完結予定でしたが、20話は続きそうです。


次話は

王家インターンシップのお話です。


お時間がありましたら

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