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蕾 ①

開いて下さりありがとうございます!


短編「私の10年を返していただきます」の付随作品です。短編の方を先に読んでいただければ、より楽しく読んでいただけると思います。

 アメリアやテオドールと並んでも恥じない自分である為、淑女として前を向いて歩く為、リリーフィアは昼夜問わず努力を重ねた。


 知識だけはある礼儀作法を体に染み込ませ、自分に合っているメイクや着こなしを一から覚える。自然と丸まっていた背筋を伸ばす為に筋トレも欠かさず行い、この国の事についての学びも欠かさず行った。


 しかし、そんな中で自分の事を一身に行える事にふと、疑問を抱いた。


 理由は単純だ。カインに呼び出される機会がめっきり減ったのだ。1日に1回は顔を合わせなければいけないという使命感もあったが、何かと雑用を頼まれる事があったり、それがなければ愛想をつかされる恐怖に怯えて自分からお茶会などに誘っていた。


 1日の大半はカインに言われていた”出来損ないのリリーフィア”を反省し、それを考えない為に勉学に勤しんでいたが今は違う。


 考えない為ではなく、考える為に勤しんでいる。


 やればやる程に、なりたい自分に近づいているような気がして楽しいのだ。


 制服を身の丈にあうよう整えたり、メイクをして着飾ってみたり、昼には生徒会役員と談話をし放課後は来週の予定を立てて寮までアメリアと共に帰る……思い返してもなんて充実した日々なのだろうか。


 そんなふうに浮き足立っていたせいか、リリーフィアは新調したドレスを身に包み、何回も試した春らしい華やかなメイクを施しては寮の部屋で着飾ってみた。


 こうしていれば気弱な令嬢では無いように見える。アメリアとまではいかないものの、見れるようにはなっていると、自画自賛しては頬を赤く染めあげた。


 ───トントン


 そんな時だ。扉を叩く音と同時


「リリーフィアはいるか」


 カインが部屋に入ってきた。


 久しぶりに会ったせいか、心臓が唸るようにドクンと鳴る。どんなに着飾っても中身は成長していないと、再び自己嫌悪に陥りかけたその瞬間


「申し訳ありませんが、リリーフィアがどこに行ったかご存知でしょうか」


 カインは決して自分には見せない外向けの爽やかな笑顔をリリーフィアへ向けていた。


(もしかして……気が付いていない?)


 今までは社交界でもメイクをほぼしてはおらず、こんな華やかなドレスも髪型もしたことが無い。カインが本気で気が付いていない事に呆気にとられながらも、リリーフィアは


(ウィリアム様、アメリア様、ルーズ様……私に力を貸してください)


 気が付かれないよう浅く深呼吸をし、何度も何度も部屋の中で実践した淑女の笑みを浮かべた。


「アーマルド様ですね、ご機嫌麗しゅうございます。リリーフィア様でしたら用事があると言伝を残し部屋を出ていかれましたが……何がご用事がありましたでしょうか」


 テオドールの様に余裕のある、深みを残す笑顔で。


 アメリアの様に華やかながらも、堂々とした立ち振る舞いで。


 セオドアの様に指先まで隙のない立ち方で。


『達成出来る能力が君にはあるんだ』


 テオドールの言葉に背中を押され、リリーフィアは凛とした立ち振る舞いでカインの前に立っていた。


「私は直ぐにこちらを後にする予定ですので、メイドの方に頼むことになりますが……」


 すると、カインは惚ける様にリリーフィアの顔を見ては黙り込んでしまった。無言の間が肌を鋭く刺してくるが、恐怖を滲ませない様に必死に取り繕う。


「あの……アーマルド様?」

「……あっ、えっと。リリーフィアが居ないなら俺はその」


 こんなにも余裕のないカインは見たことがなかった。リリーフィアへ見せる顔はいつも格上の雰囲気があり、逆らえないと本能が言っていたからだ。


 しかし、今の彼は隙だらけでなんとも言えない格好の悪さがある。だからといって、長居できる程、芯から強くなった訳では無い。


「私は予定がありますので失礼致します」


 リリーフィアは思わず目を奪われる綺麗なカーテシーで頭を下げ、頭を上げるとカインの横を通り過ぎた。


 部屋を出て、カインが後を追って来ない事に安堵していたのはつかの間。廊下を一歩歩く度、人とすれ違う度に鋭い視線が背中を刺すのだ。


 休日にドレスで歩く事はさほど珍しいことでは無い。実家で開催されるパーティーに参加する子女は綺麗な身なりで正門へ向かう。


 あまりに気まずくなり、目が合った生徒へ微笑んでみたが、より一層視線が増えてしまった。


 部屋を出たが、行く先は決めていない。


 休日ではあるが、テオドールが生徒会室で執務に追われている事を思い出し、生徒会室へ急いだ。


 扉を叩き、テオドールの返事が聞こえるとリリーフィアは直ぐに生徒会室へ入った。


「ウィリアム様……突然申し訳ありません」

「……」


 目が合ったと思うと、テオドールは突然黙り込んでしまった。背中を刺す廊下での視線はやはり不似合いだったからなのかと、リリーフィアが肩を落としていると


「あー……えっと、ごめんね。あまりに綺麗な人が来たから驚いてしまってね。似合ってるよ、ドルファン嬢」


 テオドールは爽やかな笑顔でそう告げた。


「あ、ありがとうございます……。部屋にカイン様が来たのですが、ウィリアム様の言葉に背中を押されたんです。本当に何度お礼を言っても足りないくらい」

「僕がしたのはほんの少しだ。今の君があるのは君の努力だよ」


(本当に不思議だ……)


 さっきまで緊張していたのにテオドールの顔を見た途端、肩の力が抜ける。言葉一つで心の底から救われてしまう。


 カインへ抱いていた執着とは違う感情に、リリーフィアが気が付くのはまだ少し後のお話。

10話程度で完結予定でしたが、20話続きそうです。


次話は

リリーフィアが一目置かれる様になるお話です。


お時間がありましたら

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