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後は、悪意なんよなぁ。

悪意ってさ、感情ちゃうの?

それが状態として表示されるって、皇子様が怒ってる?

んー、皇子様の感情が毒と一緒に表示されるんかなぁ?


「治った!!」


ホノカの達成感のある声に、皇后の方へ振り返った。

皇后は起き上がっていて、奇跡の現象をまだ飲み込めていないように見える。


起き上がった皇后の髪は金糸のように光り輝いていて、黄色の瞳は艶やかで色っぽい。

透き通るような肌も持ち合わせていて、文字通りこの世のものとは思えないほど美しい女性だった。

年齢は20歳だったので、アユカたちより少しだけお姉さんになる。


「「ありがとうございます」」


涙声のメイドたちが、皇后のベッド脇で両手を組んでホノカにお礼を伝えている。


アユカからホノカの顔は確認できないが、きっとホノカは慈しみに溢れた顔をして、まさしく聖女に見えるのだろう。

メイドたちの雰囲気から、そんな感じがした。


ホノカがアユカの方に振り返り、元気いっぱいピースをしてくる。

小さく吹き出したアユカは、ホノカにダブルピースを返した。


「アユカ、皇子様はどう?」


「後もう1歩」


「腕と足だよね。私は無理なんだよねぇ」


「それは治ってる」


「「え?」」


このアユカの言葉には、グレコマたちも驚いている。

アユカの薬でヒソップたちは元気になったが、腕も足も戻ってきていない。

ポーションでも治らないことを知っているからだ。


でも、すぐに腑に落ちた。

治すことじゃなく、治した内容が「内緒」なのかと。


「誠ですか? 誠に皇子は……腕と足は……」


うん。めちゃくちゃいいお母さんやん。

自分が治った感動よりも先に、皇子が治ったことへの感激がくるんやから。


アユカは皇子を抱っこして、皇后のベッドまで歩いた。

泣きながら震える腕を伸ばしてくる皇后に、皇子を渡した。


「ああ、ああ、私の愛しい子。元気になったのね」


抱き潰さないように、それでいてしっかりと抱きかかえ、顔を近づけている。

皇子は一瞬キョトンとしていたが、すぐに笑顔になり、皇后の頬を触っている。


メイドたちの泣き声というコーラスを聞きながら、眉間に皺を寄せたアユカは目を擦った。


ん? 皇子様の周りだけ靄があるみたいに見える。

部屋が暗かったせいでもなく、ベビーベッドのせいで光が届かんかったわけでもなく、皇子様の周りは暗いってことか?


んー、それってさ、瘴気に似てない?

悪意と瘴気がイコールと仮定したら、悪意は音楽で祓えるってことちゃん!


急に部屋を見渡しはじめたアユカに周りは、さっきの毒のこともあり、アユカを奇妙に思うよりも「何かあるのか?」と身構えてしまう。


「アユカ様、どうした?」


「皇子様に悪意が纏わりついたままなんよ。んで、竜笛吹きたいんやけど、ここで吹いて色んな人に聞こえるんもなと思って」


「この子に悪意が向けられているのですか?」


皇子から顔を上げた皇后だったが、ハッとして、突如深く頭を下げてきた。


「ベッドの上からで申し訳ございません。私、フォーンシヴィ帝国キアノティス皇帝陛下の正妻であり、皇后のクテナンテと申します。この子は第1皇子のペペロミアと申します。

この度は、聖女様お2方に奇跡を与えていただき、誠にありがとうございました。このご恩は忘れません」


「感謝は気持ちだから有り難く受け取りますね。これ以上は、もう不要ですから」


「うちもそれで。て言っても、まだ最後まで助けられてへんし」


「ペペロミアに向けられているという悪意ですか?」


「うん、そう。なんとなく皇子様だけ曇って見えへん?」


「言われてみれば……アユカ、よく分かったね」


「カーテン開いてらな気づかんかったと思うよ。でも、こんなん初めてで、どうしていいんか分からんから、とりあえず瘴気と一緒で音楽で祓ってみよう思ってな」


「っ……先ほどの会話も聞こえておりましたが、もう1度尋ねさせてください。この子は、ペペロミアは、瘴気と関係ありませんよね?」


クテナンテの瞳には涙が溜まっていて、僅かな不安が見え隠れしている。

だが、もし瘴気に関係があっても自分が守るんだ、という強い意志の方が伝わってくる。


「関係あるわけないやん。こんなに可愛い赤ちゃんのせいで世界が滅びるんやったら、どんなけ弱い世界やねんやで。キアノティス様の子供やから潜在能力は高いやろうけど、今はホンマにただの赤ちゃんやよ」


「そうでございますか。ありがとうございます」


挨拶の時と同じように、深く頭を下げられた。

ただ今回は体が震えていて、安堵から泣いているのかと思っていた。


でも本当は、アユカがきっぱりと否定した言葉に救われて、大声で泣きたいのを我慢していたのだ。


我が子が厄災なわけがないと思っていても、怯えるように何人からも言われれば、心にしこりが残るというのも。


それが、取り除かれたのだ。

心の底から泣いて喜びたいが、母としても皇后としても、今は会話を優先するべきだと我慢していた。




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