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一連の流れを静観していたホノカが、自分の頬を自分で叩いている。
その音に、視線がホノカに集中した。
「治そう! 私、今日は何もしてないから魔力あるよ!」
「そやね。まるっと治してしまおう!」
聖女2人の元気な声に、皇后付きのメイドたちの涙の量が増えている。
「でも、まずはカーテン開けよう。部屋は明るい方がいいよ」
え?
アユカは、窓の方を見やって固まった。
皇后を鑑定しようと『アプザル』したままだ。
アユカの瞳に映される主要なものは、勝手に鑑定される。
あのクソアマ! 殴ったろか!
聖水もただの水やったし、祝福なんて魔法はない。
いや、うちみたいな変化球があるかもしれんから、ないとは言い切れんけど。
でも、こんなにも小さな赤ちゃんを苦しめる人間は腐ってる。
「なぁ、エルダー。あの香炉だけ燃やすことできる?」
「できるっすけど、許可なく燃やしていいんすか?」
「あ、そうやんな。証拠はあった方がいいやんな」
「証拠ですか?」
「うん、箱の中に入れようか」
腕の中にいる皇子に微笑みかけてから、ベッドに戻した。
「俺、丁度いい箱持ってるぞ」
「ホンマ? あの椅子拝借して作ろうかと思ってん」
「それは、シャンツァイ様に確認してからの案件な」
とぼけ顔も可愛いって言ってくれるんは、チコリだけやわ。
グレコマもエルダーも白い目で見てくるんやもん。
ネペタは……どこ? ドア前で緊張したまま動けずにいるんか。そうか。
アユカは、肩の力が抜けたように息を吐き出した。
みんながいつも通りのおかげで、怒りが落ち着いたわ。
こういう時ほど冷静じゃないとな。
グレコマは、ため息を吐きながら、自身の鞄から木箱を出してくれた。
花瓶の箱だったようで、中の花瓶は回収している。
「それ、魔道具店で買ってた花瓶」
「そう。オレガノへのお土産で、花が枯れない花瓶だってよ」
「そんなんあったんや。喜ぶやろね」
「花が好きだからな。で、俺はアレに近づいても問題ないのか?」
「大丈夫やよ。後で、みんなで毒消し飲もう」
「「は? 毒?」」
「でも、あれ……」
みんな戸惑うよな。
あれ、モエカからの贈り物やもんな。
「燃やさなくてよかった。シャンツァイ様にもキアノティス陛下にも怒られるだけじゃ済まかったやつだ」
「はいっす。俺、殺されてたっす」
「大袈裟やな。あの2人はそんなことせんやろ」
ジト目で見てこんといて。
グレコマとエルダーが香炉を箱に入れてくれている間に、ホノカに腕を掴まれた。
「どうしてアユカは分かったの?」
「うち、目がいいねん」
意味深に微笑むと、ホノカは「目……」と呟いて顔を大きく引き伸ばした。
「ズルー。私も欲しかった」
「内緒やで」
「言わないよ。だから、色々教えてね」
「了解」
悪戯っ子のようにホノカと笑い合っていると、グレコマたちがカーテンと窓を開けてくれていた。
差し込んでくる陽の光が、邪気を祓うように部屋を照らしてくれる。
「それじゃ、アユカ、教えて。私は何をすればいい?」
「そやねぇ」
アユカは、寝転んでいる皇后の側に行き、鑑定結果を読んだ。
毒と敗血症か。
って、敗血症ってなに?
うちに病気の知識がなさすぎて困るわー。
元の世界でもあったんか、この世界独特なのかも分からん。
それが分かったところでやけど。
「ホノカは、皇后様を治してもらっていい? 毒と敗血症らしいから、毒消しと治癒魔法でいけると思う」
「大丈夫。任せて」
「うちは皇子様を治すわ」
頑張ろうという意味を込めて、ホノカと右手だけハイタッチをした。
アユカは、皇子のベッドまで行き、皇后付きのメイドに声をかけた。
「聞いときたいんやけど、皇子様の腕と足がないこと知ってる人は多い?」
「いいえ。この場にいる者とキアノティス陛下のみです」
「よかった。今から起こることは内緒にしてな」
アユカは、人差し指を口元に持っていきウインクをした。
キアノティスのウインクを見て、「ウインク素敵やん」とウインクの使い所を探していたわけじゃない。
決して「今や」と思ったわけじゃない。
ヒソヒソし始めたグレコマとエルダーを視界から外し、皇子を見つめる。
今日初めて会った赤ちゃんだが、痛々しい姿に苦しくなり、涙が出そうになる。
毒と悪意か。腕と足のこともあるからなぁ。
ハイポーションは使うとして、毒消しも使ったほうがいいんかな?
ハイポーションで毒も消せるんかな?
ハイポーションやその他諸々を飲ませることはできないので、巾着から取り出し皇子様の体にかけていく。
すると、ハイポーションをかけた皇子の体が淡く発光し、みるみるとふっくらした血色のいい赤ん坊に変貌した。
パッチリと開けられた瞳は生気を帯びていて、黄色のような黄金のような色で輝いている。
綺麗に生えてきた腕と足は問題なく動くようで、アユカを見ながら楽しそうに手を伸ばしてきた。
その手を触ると、声を上げて笑っている。
ハイポーションで毒は消されへんのか。
んじゃ、毒消しもかけよか。
さっきと同じように、皇子の体に毒消しをふりかけた。
また淡く光り、皇子の頬にほのかな色味が増した気がする。
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