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昼食後は、食料品店や雑貨屋に寄り、珍しい物はないかと探した。
最後に寄った、どの国よりも品揃えがいいというフォーンシヴィ帝国の魔術具店は、お土産を選ぶのに最適だった。
アユカからすれば、どれも夢のような道具ばかりでアレもコレもと目移りしてしまう。
離れて警護していた騎士たちもお店が気になったようで、全員中に入ってきた。
アユカとシャンツァイは顔を合わせて微笑み合い、一緒に買い物をすることにした。
小1時間悩んだ結果、キャラウェイとニゲラにはどんな飲み物も甘くなるコップを、モナルダとオレガノには目を温めて安眠できるというアイマスクを、リンデンとアキレアには好きな重さに変えられるというダンべルを選んだ。
その他のお城の使用人や騎士たちには、フォーンシヴィ帝国名物だというバターサブレを買っている。
「アユは、自分用に何か要らないのか?」
「どれも面白いけど、特にないかなぁ」
「欲がない奴だな」
「そういうシャンは、何か欲しいものないん?」
あったら教えて。誕生日プレゼントの参考になる。
「ないな」
ないんかー。シャンが興味あることってなんやろなぁ。
「ん? 香水?」
カウンターの奥の棚に並んでいる、金細工が施されている商品に気づいた。
どこからどう見ても、ノズルをプッシュして霧噴射させる香水にしか見えない。
香水と思われる商品を指しながら、顎髭を携えている店員に尋ねてみた。
「なぁ、あれは何の魔術がかかってるん?」
香水やったら、好きな匂いに変えられるとかかな?
「あちらは魔術道具ではなく、聖女様の祈祷が込められた聖水になります。厄を除けることができるため、大変人気なんですよ」
「そうなんや」
ふーん、そうなんか。聖水ねぇ。
「購入されますか?」
「ううん。うちは幸せの真っ只中におるから必要ないよ」
そんなんにお金使うつもりないし。
勿体無いことはしたくないねん。
キャラウェイたちへのお土産や、騎士たちやクレソンやチコリが欲しがった物は、シャンツァイが買ってくれた。
アユカが「お土産やから半分払う」と腕を引っ張ったが、「お小遣いから引いておく」と言って受け取ってくれなかった。
「そろそろ入城しないとだな」
「デートは終わりか」
「悪いな」
申し訳なさそうにシャンツァイに頭を撫でられ、アユカは笑顔で小さく首を振った。
本来の予定なら2日前にフォーンシヴィ帝国の王都に着いていて、2日間遊んだ後、入城の予定だった。
しかし、瘴気の浄化に訪れた村で起こっていた悪意ある事件に、村での滞在を伸ばしていた。
滞在を伸ばした1番の理由は、体内濾過薬が本当に効くかどうかを確かめるためだった。
作ったアユカ自身が半信半疑だったため、村人たちのケアのためにもと滞在したのだ。
騎士たちには可能な限り魔物を狩ってきてもらい、村の食糧の備蓄にしてもらった。
アユカとチコリは、子供たちと遊んだり料理を手伝ったりした。
シャンツァイとクレソンは、村を隈なく調査していた。
数日間の滞在で「依存予備軍」の文字を消すことはできなかったが、はじめはシリールルの実を欲しがった子供たちが、シリールルのことを口に出すことはなくなったので効果はあると期待して、村を後にしたのだ。
そして、5つ目の瘴気の場所も無事に浄化し、今日の朝に王都に着いたところだった。
「今度、また水族館に連れてってくれたらいいよ」
「ああ、帰ったら行こう」
慈しむようにアユカの頬を撫でてきたシャンツァイが、「馬車の中になるけど食べるか」とみたらし団子を買ってくれた。
馬車に乗り、水で目を洗って瞳を黒に戻したアユカは、みたらし団子を頬張った。
1本食べ終わる毎に、アユカの指についたタレを舐めようとするシャンツァイと攻防戦を繰り返し、最後にはエロスに負けて舐められてしまった。




