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「次に、キャラウェイ様」
みんなが吃驚して動けないでいる間に、キャラウェイと視線を合わせるために中腰になった。
驚いていたのに、いまだに止まっていないキャラウェイの涙を手で拭う。
「犬っぽいって言ってごめんな。狼って知らんかったんや。ホンマにごめん」
「僕こそ、泣いてごめんなさい……」
「ええよ。嫌なことがあったら泣くんは当たり前やから。特別にうちの胸を貸しちゃる。ほら、たんと泣き」
柔らかく抱きしめ、優しく背中を撫でる。
遠慮がちに抱きしめ返してきた小さな体から、声を頑張って殺している泣き声が聞こえてきた。
大きなため息に顔を上げると、キアノティスが困ったように頭を掻いていた。
「アユカ、ウルティーリ国は罰さなくていいんだな?」
「やから、なんでそんな物騒になるん? それに、うちはやられたら自分でやり返すよ。見てたやろ?」
「分かった。今回のことではもう何も言わない。でも、もし不当な扱いを受けるなら、いつでも連絡してこい。迎えにいってやる」
「大丈夫やと思うけど、ありがと。心配してくれるんは嬉しいよ」
眉を下がらせたままの顔で微笑んでから、キアノティスは自席に戻っていった。
キアノティスがマツリカを目視してからウルティーリ国の騎士を見やると、騎士たちは焦った様子でマツリカを壁まで移動させている。
アユカも席に戻ろうと、キャラウェイを抱えながら立ち上がった。
かっる!
10歳くらいの子って、こんなに軽かったっけ?
「ア、アユカ様」
「恥ずかしがらずに一緒に座ろ」
「で、でも」
「いいやんか」
有無を言わさないように、すぐさま席に着いた。
膝の上で抱えるようにキャラウェイを座らせると、キャラウェイの涙は恥ずかしさで止まったようだった。
「皆様、僕のせいで食事を中断させてしまい、申し訳ございませんでした」
「もういいですよ」
「私も特に気にしてないよ」
あんたらは、本当に我関せずやったもんな。
「さっき言ったように、俺はもう何も言わない。ただ、これからのことは肝に銘じておけよ」
「……はい」
なんとなくやけど、キアノティス様には誰も意見できへんのかな?
1人だけ皇帝やしな。
うーん、分からん。
鑑定で分かったらいいんやけど、そんな説明なかったしな。
でも、やってみてもいいよな。
好奇心を抑えられず、心の中で鑑定の魔法『アプザル』と唱えてみた。
すると、10インチほどの水色の画面が、視界の色んな所に現れた。
できた!
なになに……名前と年齢とレベルと属性と状態と1口メモみたいなやつと記号?
何を表してんやろ?
キアノティス(24)は、レベル90で雷属性。
健康でフォーンシヴィ帝国皇帝ね。んで、記号は丸。
イフェイオン(22)は、レベル85で風属性。
健康でポリティモ国国王。んで、記号は丸。
アンゲロニア(22)は、レベル84で水属性。
健康でリコティカス国国王。記号は丸か。
3人とも丸なんか。
ちなみに、聖女たちはっと。
おお、全員レベル100の聖女ってことは、うちもレベル100なんやろな。
年齢も、うちと一緒の17歳やもんな。
状態のところが、ホノカとユウカが怯えか。
まぁ、いきなりプチ乱闘やったもんな。怖いよな。
でも、モエカが嫉妬か。
どこにどう嫉妬する場面があったんやろ?
って、1口メモんとこに、みんなの死因書いてるー!
おもっ! 読みたないのに読んでもたやん!
いいや、うちは読んでない。
事故や自殺や病死とか読んでない。
頭から消すことにして、問題の記号よ、記号。
ホノカだけが丸で、モエカとユウカがバツか……
一体、なんなんやろ?
どうせなら他の人もチェックしとこうと壁側を見て、記号の意味に気づいた。
マツリカが、バツだったからだ。
たぶん、うちを好きかどうかやな。
全然話してないのに、モエカとユウカから嫌われていると。
なんでやねん。
慣れてるけど、さすがに悲しいわ。
ただのアユカでも嫌われるとか、やるせないもんあるよ。
「ということです。分かりましたか?」
「あ、はい」
「アユカ様は、私たちの国について知りませんでしたね」と、イフェイオンが説明してくれていたのだ。
アユカは聞かずに鑑定結果を読んでいたのだが、なんとなく耳に届いた話では、ハムスターが教えてくれた血の話と魔物の話のようだった。
聞いていなかったことがバレないように朝食を再開しようとして、思わず声を出しそうになった。
料理やフルーツとかも鑑定できるんや。
毒があるかどうか、甘いとか辛いとか教えてくれるって、本当に便利やわ。
鑑定を選んでよかった。
同じ料理なのに先程よりも美味しく感じてしまい、誰よりもお代わりをして、聖女たちをドン引きさせたアユカだった。
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