87
次の日、村長と病気が発症した子供の親たちと話し合いをした。
発覚したことは、初めに病気にかかった子供たちはネズミに似た魔物、マチューを食べていたことが分かった。
肉を食べさせてあげたかったとのことだったが、不可解な点があるらしい。
このマチューとかいう魔物は、そもそも人前に姿を現さないそうだ。
それなのに何故捕えることができたかというと、「マチューはシリールルが大好物だから、罠を仕掛ければ容易に捕まえることができる」と、商人が教えてくれたからということだった。
その言葉通り捕まえることができ、子供に食べさせたら3日後に発疹が始まり、4日後には強烈な痒みに襲われはじめたそうだ。
熱が出たのは食べてから1週間後で、昨日を合わせて8日間うなされていたらしい。
見舞いに訪れた子供たちが、同様の症状を患ったそうだ。
話を聞き終わり、シャンツァイは掲示板で発信する魔物以外は食べないようにと、念のため薬は少し渡しておくことを伝えていた。
それと、今後はどの町や村であっても王城の官吏と連絡が取れるように水晶を設置するから、何かあった時は連絡をしてほしいとも話していた。
その場にいた村人たちは深く深く頭を下げて、シャンツァイとアユカに感謝の意を述べたのだった。
テントに戻るとシャンツァイは、板状の水晶をクレソンから受け取り、誰かに連絡を取りはじめた。
「はい、モナルダです」
「早急にやってほしいことがある」
そうやんな。
もしもの時用に連絡取れるようになってるよな。
シャンツァイは村で起こったことを話し、モナルダは静かに聞いていた。
本当に繋がったまま? 切れてない? とアユカが思うほど、相槌さえ聞こえてこなかったのだ。
「内容は分かりました。掲示板にて危険な実があること、伝染病があること、伝染病の原因はマチューからくることを報じればよろしいですか? この場合、商人を取り逃す可能性は高いですが」
繋がってたー!
「構わない。国民の安全が優先だ。それと、掲示板にて発信していない魔物は食べないことを再度警告してくれ」
「仰せのままに」
「もし、すでに食べてしまったり感染をしたりしているなら薬があることも告げろ。騎士を派遣するとな」
「薬の作り方は、今から伝えるな」
アユカは、3種類の薬の材料と作り方を伝えた。
その間「本当に繋がってる?」と心配したが、モナルダから「宮廷医や調剤師たちに作らせます」と返ってきて、「相槌ちょーだい」と猛烈に思ったのだ。
この後、シャンツァイから商人の特徴が伝えられ、掲示板にて指名手配をすることになった。
長躯の男性で、黒目黒髪に見えたが、陽の光が当たると紫色にも見えたそうだ。
そして、至る所に傷痕があったそうだ。
「明らかにこの商人は、ウルティーリ国を徐々に衰退させていこうという思惑で動いている」というシャンツァイの見解に、モナルダも同意していた。
「それと、通信水晶がない町や村に手配を頼む」
「陛下。本当にその村には通信用の水晶はありませんか?」
「ああ、ないそうだ」
「おかしいですね。5年前に国中の市町村に設置するという政策があり、決行されているのですが」
「俺も頭を掠めたが、その政策はタンジーが行ったもののはずだ。本当に決行していたのかも怪しい」
「そうでした。あの無能のせいで、今苦労しているんでした。あの家から徴収したお金をあてようと思います」
「そうしてくれ」
「それと、至急ネペタを治してください。村の事例を聞く限り、大人の発症は子供の倍の時間がかかると予想されます。それでは国際会議に間に合いませんし、フォーンシヴィ帝国に菌を持ち込むことはできません。大きな火種になり得ます」
「ああ、分かった」
「もう何もないことを祈りますが、何かございましたらご連絡ください」
朝から続いた会議と電話会議が終わり、疲労が体を襲ってきたように感じる。
人前ではしたないと分かっているが、アユカは大の字で床に寝転んだ。
「疲れたー」
「お疲れ様」
「シャンもお疲れ様」
「俺は昨日のマッサージで元気だから疲れてないぞ」
そんな妖しい顔で見てきたらあかーん!
んで、またイチャついてたことがバレたー!
みんなにバレることに早く慣れな、羞恥心でみんなと話されへんようになる。
「あ! そうや!」
昨日伝えようと思っていたのに、マッサージのやり合いをして頭までも蕩ける時間を過ごしたせいで忘れていたことを、今思い出した。
思い出した時に伝えとかんと、また忘れてまう。
アユカは勢いよく起き上がり、シャンツァイの手を握って力強い瞳を向けた。
強く、とても強く、伝えたかったことだからだ。
「なぁ、シャン。シャンは国のために毎日頑張ってる。国全体を一気に変えることはできへんよ。めちゃくちゃ広いんやから。シャンはできることから1つずつ変えられてるやん。こんなにも国を思ってる王様なんて、シャン以外おらんくらい頑張ってるよ。側で見てるうちが言うんやから間違いない。自信持って胸張っていいんやからね。もし何か言う奴がおったら、うちが成敗しちゃる。うちがシャンを守るよ」
「……」
アユカの肩におでこを乗せるシャンツァイを見て、クレソンたちは静かにテントから出て行った。
「お前は、本当にいい女だよ」
「シャンも本当にいい男やで」
「ありがとう、アユカ。頑張ってきてよかった」
シャンツァイが泣いているような気がしたので、顔を見ようとせず、もう何も話さず、ただ強く手を握っていた。




