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瘴気の浄化をした泉の畔に、宴会場ができていた。

アユカとシャンツァイは上座に座り、村長と村人たちが隊列を組むようにアユカたちの前に立っている。


アユカは、心の中で『アプザル』と唱え、鑑定を始めた。


「この度は、瘴気を浄化してくださり誠にありがとうございました。生きている間に聖女様の奇跡を見ることができ、この上なく幸せでございます。今宵は、可能な限りの料理と音楽をご用意いたしました。心ゆくまでお楽しみくださいませ」


村長のお辞儀に倣って、村人たちも腰を曲げている。

シャンツァイがアユカを見てきたので、アユカは笑顔で頷いた。


「村長、もてなしを感謝する。困っていることがあるならば、礼に1つ解決してやろう。何かあるか?」


村長の顔が強張り、村人たちの空気が張り詰めた。


「い、いいえ。何もございません。泉を復活していただけただけで十分でございます」


泣きそうな顔で微笑み、首を横に振る村長に、シャンツァイは軽く眉間に皺を寄せている。


「宴会を始めましょう。さぁ、おんが一一


「陛下! 聖女様! お願いがございます!」


村人の隊列の真ん中辺りから大声が上がった。

どよめきが起こり、声を上げた村人が他の人たちを押し退けて村長の横までやってきた。


「やめなさい!」


「お願いします! お願いします! 息子を助けてください! お願いいたします!」


「これ、やめなさい!」


村長が、泣きながら頭を下げて懇願してくる女性の両肩を掴んで、下がらせようとしている。


困惑している村人たちが顔を見合わせて、至る所から悲痛にも似た切実だと分かる声が上がった。

それらの声を止めようとしている人たちもいて、騒然たる状況になっている。


シャンツァイが威圧を放ちながら、机に置いた手の人差し指で机を叩くと、嘘のように静まり返った。


王様、すごっ!

魔法でも使ったんかと思ったわ。

じいちゃんも「おい」で周りを静かにさせてたけど、さすがに人差し指で机叩いただけじゃ無理やと思うんよね。

だって、キセル吸う動作とかでは静まらんかったもんな。


「話を聞こう。そこの女性、説明を」


シャンツァイが、最初に声を上げた女性を見た。

女性は両手を祈るように組んで、声を震わせながら話しはじめる。


「じ、実は、数日前から息子の全身に水膨れができ爛れております。とても痒いようで、掻いた場所から血が出ています。高熱で意識が朦朧としており、食事も取れておりません。とても苦しそうで見ていられないのです。どうか聖女様のお力で、息子を治していただけないでしょうか」


「いいよ」


「え?」


あっけらかんと了承すると、きつく目を閉じていたはずの女性にたまげたように目を開けられた。


「もっと早く言ってくれてよかったのに、なんで黙ってたん? もしかして、うち怖そうに見える?」


「あ、あの……」


「ダメです! 聖女様! 聖女様を失うことはできません!」


村長の切羽詰まった声で伝えられた言葉の意味が分からなくて、シャンツァイと顔を見合わせる。


「どういうことだ?」


「1ヶ月ほど前に、世界中を旅をしているという商人がやってきました。その者は本当に物知りで、色んな話をしてくれました。中でも、奇跡を起こす聖女様の話は魅力的でした。いつかこの村にもやって来てくださるだろう聖女様に想いを馳せていたら言われたのです。聖女様は他者を治癒できても自己を治すことができないと。だから、聖女様が来訪する際は、村を清潔にし病魔は退治しなくてはいけないと」


辛そうに苦虫を噛み締めたような顔をした村長は、深く頭を下げた。

どこからか啜り泣くような声も聞こえてくる。


「本来ならば、お越しくださる前に現状をお伝えし、今回の訪問は見送っていただくことが正解でした。


ですが、もう皆限界だったのです。男手は水を汲むために必要で、瘴気のせいか動物や魔物でさえ近辺からいなくなりました。泉が復活すれば、動物が戻ってきて男たちで狩ることができる。水にも食事にも困ることはないと思ったのです。


皆、聖女様を必要をしているから、危険に晒すわけにはいかない。そう頭では理解しているのですが、衰弱していく村の者たちを見ていられなかったのです。悩んだ挙句、病人を1箇所に集め、聖女様が病気にならなければ大丈夫と思い、病魔が近づかないようにいたしました。


此度のこと、私が独断で決めたことです。私はどんな罰でも受けます。ですので、どうか村の者たちを許していただけないでしょうか」


「んー、長い! 長いわ!」


きょとん顔をしている村長や村人に、アユカは腕を組んで踏ん反り返った。




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