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シャンツァイは、アユカと向き合っていた顔をネペタに向けた。
「まずはネペタ。さっきアユが注意したが、注意された理由は分かるな?」
「は、はい。ぼ、僕は、皆さんを危険に晒しています。もも申し訳ございません」
「そうだな。1人の行動が全員の命を断つこともあると、心に刻んでおけ」
「ははい! すすみませんでした!」
「それと、お前だけが苦しむことは仲間を裏切る行為だ。命を懸けるなとは言わない。だがな、命を懸けるなら仲間を後悔させるな。命の使い道を見極めろ。分かったな」
「は、はい! ここ心に留めておきます」
「最後に、よく感染者がいることを突き止めた。お前のおかげでこの村を救えるかもしれない。まぁ、完全にアユ任せだがな」
マジでうちの彼氏、半端なくカッコいいわー。
シャンのほんの少しだけ口角上げた顔に、ネペタも頬染めてるやん。
男を惚れさす男の中の男!
くぅ! カッコいいわー!
「アユ、治せそうか?」
「うーん。ポクポク、チーンしてみるわ」
全員が耳を疑っている中、アユカは真剣な表情で空中を見ている。
問題は薬よな。
うちの手持ちで、疱瘡コンコン病の薬を作れるんやろか?
そもそも薬はあるんやろか?
ポーションで治ると思うけど、ポーション使うん勿体無いよな。
帰るまで、何があるか分からんからな。
もう1度『アプザル』して、空中に表示された鑑定結果を確認する。
疱瘡コンコン病を検索にかけて、ハムスターが走っているローディングの画面を見つめた。
周りは緊張した面持ちで、アユカの次の言葉や行動を待っている。
シャンツァイが言った通り、アユカ任せなのだ。
アユカが治せないとなれば、ネペタをここに置いていかないといけないし、国際会議に参加している場合ではなくなる。
深刻な状況なのだ。
綺麗薬と疱瘡薬?
2個もヒットしたけど、何やろ?
まずは、綺麗薬……ふむふむ、飲み薬なんやね。
すごっ。体に入り込んだ悪い菌を殺してくれるんやって。
ふーん、全ての菌に対応してるんか。
風邪薬もこれでよかったんちゃん? あかんの?
「違いが分からん」と思いながら、疱瘡薬に目を通す。
こっちは塗り薬なんか。
痒みを止め、元の肌に戻してくれると。
やっぱり水疱瘡なんちゃうの?
「まぁ、いっか」と材料を見て、天を仰ぎたくなった。
いや、実際に無意識に天を仰いでいた。
「どうした?」
「え? あ、うん。ちょっとな」
蜂蜜かー。
綺麗薬には蜂蜜がいるんかー。
何回かビービーキーに出くわしてるけど、それでも全部大切に置いといた蜂蜜。
ここで、おさらばになるんか。
ああ、ちょっと涙が出そう。
本当は、涙なんて出る気配すらない。
集めていた高級品がなくなることに、心に穴が開くような気がしただけだ。
そして、言ってみたかっただけだ。
両方、手持ちでいけそうやな。
どれだけ必要か分からんし、作れるだけ作っとこか。
薬がある病気にポーション使うんは勿体無いからな。
アユカが立ち上がると、「百面相終わったっす」と言う声が聞こえた。
聞こえないふりをして、巾着から必要な薬草を出していく。
「アユ、治せそうか?」
「もちろんろん」
ピースをしながら答えると、シャンツァイは安心したように微笑み、大きなクッションに体を預けている。
チコリたちや騎士たちの体からは、緊張と焦りが抜けたような音がした。
あ、塗り薬の入れ物ないや。
大きな箱に作って、みんなで使ってもらったらいいか。
チャッチャと錬成して、完成した薬を鑑定し、問題なく使用できることに数回頷いた。
「できたよ。こっちを飲んだら病原体を殺してくれる。んで、効果は1日続く。その間は新しい感染病にかかることはない。んで、こっちが痒みや水膨れを治す塗り薬。発症した人には両方使ってもらって、感染状態の人は飲み薬だけで大丈夫」
「よかったすね、ネペタ! 飲むっすよ」
「あ、待って。ネペタには悪いんやけど、そのままでおってほしいねん。うちは病名は分かるけど、何日で発症するとかが分からん。今後のためにも分かってた方がいいと思うねん」
「アユの言う通りだな。村の人たちにも話を聞くが、ネペタの事例もあった方がいいだろう」
「ちょっとでも体痒いとか、発疹が見つかったら教えてな」
「わ、分かりました。あ、あの、発症するまで僕もお手伝いさせてください」
「当たり前やん。それに、結局うちも感染すると思うしな」
「アユ、隔離場所には行かせないからな」
「そうです。アユカ様が行かれるくらいなら私が行きます」
「ダメっすよ! チコリを行かせないっす! 俺が行くっす!」
全員の視線がエルダーに集まり、グレコマが「任せた」とエルダーの肩を叩いた。
「よろしく頼む」という声が飛び交っている。
「ひどいっすー! グレコマ先輩たちもっすよ!」
言い合いをしながら笑い合っていると、「宴会の準備が整いました」と声をかけられた。
真摯なシャンツァイの表情に、騎士たちは顔を引き締めている。
アユカだけが「早く終わらせてごっはーん」と、心を浮かれさせていた。




