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「アユ、今日もお疲れ様」
「うん。ありがとう」
王宮を出発してから20日ほど経っている。
瘴気の浄化作業に訪れるのは、全部で5ヶ所の予定。
そのうちの3ヶ所は町や村で、残り2ヶ所は森になっている。
今日は4ヶ所目で、小さな村に来ていた。
後はフォーンシヴィ帝国までの道なりにある森を1つ浄化すれば、今回の瘴気の浄化は終了となる。
今日訪れたこの村は、生活の要だった泉が瘴気に飲み込まれ、片道2時間かかる川に水を汲みに行っていたそうだ。
瘴気が消えた時の村人たちは、泣きながらアユカを拝んでいた。
もちろん、そんな村人たちにもピースをしてもらうことに成功している。
「今から森に行くのか?」
「うん。宴会までには戻ってくるな」
「たまには俺も一緒に行こう」
「村の人たちと会議せんでいいん?」
「もう終わった」
「やった。シャンと森デート」
グレコマとエルダーに少し離れたところから警備してもらい、アユカはシャンツァイと森の探索を楽しんだ。
といっても、この20日間、町に寄った時以外の休憩時は森デートをしている。
初めの頃は『アプザル』をしたアユカが、シャンツァイに森の中を説明して散策していたが、今となっては説明は不要になっていた。
デキる男のシャンツァイは、薬草も実も見分けができるようになっているのだ。
「ん? なんだ、あれ?」
「どれ?」
薬草を摘んでいたアユカが立ち上がり、シャンツァイが指した方向を『アプザル』した。
「ベリーに似ているが、あの色のベリーを見たことがない」
「あれ、ベリーの変異株みたいやわ。シリールルって名前で、実を煮詰めてから食べたら問題ないけど、そのまま食べたら危険ドラッグ、覚醒剤やわ」
なんて怖い実があるやん。
しかも、何株もある。
まるで誰かが育ててるみたいな生え方やな。
「覚醒剤って、なんだ?」
「神経を興奮させて体が元気になるモノやね。でも効果が切れると、めちゃくちゃしんどくなる。んで、元気になるためにまた食べたくなるねん。それを繰り返すと、幻覚や妄想や幻聴があったり、ネガティブになったり、錯乱状態になって暴力ふるうねん。人殺したりもするよ。で、最後には本人も苦痛の中死んでまう」
「恐ろしいな。村の者たちに注意しておこう」
「色がピンクやから見分けるのは簡単そうでよかったわ。体に悪いもんやし、燃やしてしまったらあかんの?」
「そうだな。注意しても子供には難しいか。危険なものは無いほうがいいな」
シャンツァイの魔法のコントロールは完璧で、ベリーの木だけを綺麗に燃やした。
拍手をするアユカを見て、シャンツァイは鼻で笑っている。
薄暗くなるまで、のんびりと結構な距離を歩いたが、変異株の実を見たのは1度きりだった。
村に戻ったアユカたちは、待機していたチコリとクレソン、騎士たちと合流した。
今回護衛についてくれている騎士は、第1騎士隊から選ばれている。
そして経験を積むようにと、シャンツァイが怖くて気絶したアリクイ少年こと、ネペタも参加している。
小さな村なので宿舎はなく、村長が家を差し出してくれたが断り、アユカたちは村の横にテントを張っている。
テントといっても王族仕様なので広い。
風が強いと少しうるさいくらいで、特に不自由はない。
「あ、あの、へへいか」
「どうした?」
「おお耳に入れたいことが」
「なんだ?」
「ここここの村ですが、何かを隠しているようです。ぼぼ僕に気づかず村人たちが『早く出て行ってもらわねば』と話してました」
彼の特技と言っていいだろう。
彼は影が薄い。とにかく薄いのだ。
アユカたちと初めて会った時も、みんな彼の存在を忘れていた。
尻餅をついたとしても、泣いていたとしても、気づいてもらえていなかった。
そして、もう1つの特技は、泣き虫なところだろう。
今も急に張り詰めた空気に恐れをなして、涙を止められていない。
はらはらと涙を流している。
それでも、第3騎士隊にいるという父親と同じ騎士を目指して、新人騎士まで歩みを進めてきている。
怖がりだが、勇気と努力の塊のような少年なのだ。
「グレコマ」
「調べてきます」
「5分だ」
「いってきますっ」
グレコマは、走る速さで風を起こしながら出かけて行った。
他の騎士がシャンツァイを見られないでいる中、シャンツァイの視線はネペタを見据えている。
「ネペタ」
「ははははい」
「お前には10分やろう。調べてこい」
「わわわわかりました」
涙で前が見えていないんじゃないかと思うネペタは、何度も足を躓かせながら出かけて行った。
「なぁ、シャン」
「どうした?」
「さっき見た実のこともあるし、うち、料理してる人たちんとこ行って来ようかな」
「いい。どうせ食べる前に見るんだ」
「そうやけど」
でもなぁ、なーんか嫌な予感すんねんなぁ。
「アユカ。さっきの実って、シャンツァイ様が燃やした木のことっすか?」
グレコマとエルダーは、遠目やったから分からんかったよな。
「そうやよ。ベリーの変異種でピンクの実やってんけど、めちゃくちゃにヤバい実やってん」
アユカは、エルダーたちにどれほど危険なのかを話した。




