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「アユカ様は、よく食べられるんだね」
綺麗な人とキアノティスとの間に座っている、水色のおかっぱに青色の瞳のクールビューティーが話しかけてきた。
知的そう。
それだけで、うちとは合わへん気がする。
いや、もしかしたらデコボコだからこそ、恋に落ちるかも。
委員長とヤンキー的なさ。
うち、ヤンキーちゃうけど、家柄的にさ。
「お名前をうかがっていいですか?」
「そうだね。昨日、君だけ挨拶できなかったものね。私は、リコティカス国の王でアンゲロニアだよ。それで、隣が……」
「私は、ポリティモ国の王イフェイオンです」
キャラウェイ様以外、みんな王様なんや。
だから、ずっと萎縮してんのかな?
食べはじめてから元気ないんよね。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。それと、私たちに対しても敬語は必要ないよ」
「ね?」とアンゲロニアがイフェイオンに微笑みかけると、イフェイオンは頷いている。
この流れで、聖女の名前も聞いとくか。
「ホノカ以外の2人も名前聞いていい?」
2人は、小さく頷いてくれた。
1人は、腰までのストレートで吊り目で大人っぽいモエカ。
もう1人は、ショートカットでクリッとした瞳の守ってあげたくなる系のユウカ。
ホノカも合わせて3人ともキャラメイク頑張ったんだろうなと感想が出るほど、3人は本当に可愛くて綺麗だ。
チラッと見えた3人の右の手の甲にも紋様があった。
ホノカにはバラの紋様が、モエカには麦が、ユウカには火が描かれている。
紋様を見ただけで、ハムスターから聞いた3人の神様の誰が誰と話したのか分からないが、きっと同じ工程を修了して異世界に来ているんだろうと思った。
「誰がどこに行くかも聞いていい?」
「ああ」
キアノティスが頷いてから教えてくれた。
1番目に現れたモエカが、キアノティス皇帝のフォーンシヴィ帝国。
2番目に現れたホノカが、イフェイオン王のポリティモ国。
3番目に現れたユウカが、アンゲロニア王のリコティカス国。
最後に現れたアユカが、サフラワー王のウルティーリ国だそうだ。
「サフラワー王?」
「ぼ、ぼくの叔父上です」
キアノティスが一瞬、キャラウェイを痛ましそうに見た。
「ウルティーリ国は、数ヶ月前に王が代わったばかりでな。慌ただしくて大変なんだろう。だから、キャラウェイが来たんだ」
「ふーん、そうなんや。うちはキャラウェイ様が来てくれてよかったよ」
勢いよく見てきたキャラウェイの瞳が潤んでいる。
色んな人見てきたから、悩んでる人や苦しんでる人は何となく分かるねんな。
きっとキャラウェイ様は何かに苦しんでる。
それは、マツリカも同じで、護衛騎士たちからも感じるねんな。
うちは聖女もどきやから助けられるか分からんけど、頑張るだけ頑張ってみようとは思ってるから。
無理な時と手助けが終わった時は、笑顔で送り出してくれたらいい。
うちには、1年間遊んで暮らせるお金があるからな。
豪遊すんねん。
「キャラウェイ様、めっちゃ可愛いやん。犬大好きやねん」
「僕は狼だもん!」
突然、大声で泣きじゃくられた。
いつから我慢していたのか堰を切ったように流れ出す涙に、どうしていいか分からなくなり、頭を撫でようとした手を叩かれた。
昨日と同じで叩いてきたのはマツリカだったのだが、昨日と違うのは、マツリカを見た時にはマツリカの首に剣先が当たっていたことだった。
「聖女に何してんだ?」
「っ……」
「キアノティス陛下、僕がマツリカを叱責します。お願いですからマツリカを殺さないでください」
勢いよく立ち上がり、泣きながら懇願しているキャラウェイに、残りの2人の王は手を貸そうともしない。
「聖女は誰よりも大切だ。なのに、この女は手を上げたんだぞ。それを許せと言うのか?」
「ごめんなさい! 僕が謝ります! マツリカを殺さないでください!」
え? なにこれ?
なんで急にカオスになったん?
「あー、んー、まずは、みんな落ち着かへん?」
「落ち着いている」
「やったら、剣下ろそ。ホノカたちもビビってるし、叩いたくらいで殺すとか重たすぎるから」
「何を言っている。聖女は大切にするべきだ。それが出来ないなら、ウルティーリ国に聖女は必要ない」
鈍い音が聞こえたと思ったら、ウルティーリ国の騎士が全員、頭を床につけて土下座していた。
「マツリカの命で足りないなら、私どもの命も差し出します。ですので、どうか聖女様をウルティーリ国にお願いします」
なんで、そうなるねん……
「ぼ、ぼくが泣いたせいですよね。泣き、泣き止みます。ぼくが謝ります」
いや、もう、はぁ……
「まずは騎士の皆様、立ってや。悪いことしてへん人から謝られても許しようないから。ほら! 立つ!!」
声に力を込めて発すると、騎士たちは条件反射のように立ち上がり姿勢を正した。
「次に、キアノティス様は剣を下ろす」
「だか一一
「うちが自分で落とし前つけるから、邪魔すんなって言ってんねん」
キアノティスを見つめると、ようやく剣を収めてくれた。
唇を噛みながら睨んでくるマツリカを、立ち上がりながらも真っ直ぐ射抜くように見る。
「マツリカ、歯食いしばりや」
言うや否や、左頬を叩いた。
力一杯叩いたため、乾いた音が響き渡り、自分の体を支えられなかったマツリカは床に転けている。
頬を抑えて、それでもまだマツリカは睨んでくる。
この状況でも泣かへんのはすごいけどさー。
死ぬかもしれんやから、やめて方がいいと思うよ。
はぁ、うちは叩いた手が痛いわ。
なんで、こんなことになったんやろ……