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階段を上がり、奥の部屋のドアをグレコマがノックした。

返事が微かに聞こえ、グレコマがドアを開けてくれる。


ベッドの上で座って本を読んでいただろう女性が、視界に入ってきた。


ほっそりした首が特徴的な綺麗な女性が、目をまん丸にして驚いている。

耳下ほどで切り揃えられているピンクべージュ色の髪は、かすかな風でも靡いてしまいそうなほどサラサラしていそうだ。


うわー、全く分からへん。


「あらあら、あらあら」


「オレガノ、調子はどうだ?」


「今日は大分いいわよ。それよりも、あなた。もしかして、あの方がアユカ様かしら」


「ああ、そうだ」


「まぁまぁ、まぁまぁ、どうしましょう。私、こんな格好だわ」


ヤバい。めっちゃ可愛い人やん。

ツボりそう。


「気にしなくていい。お見舞いに来てくれたんだ」


「あらあら、あらあら、光栄すぎて泣いてしまいそうだわ」


感極まっている顔で見られたので、ニカっと笑ってピースをした。

おろおろしながらもピースを返してくれる。


「オレガノさん、初めまして。会えてめっちゃ嬉しいわ。こんなに可愛い人なら、もっと早く会いたかったわ」


「まぁまぁ、まぁまぁ、嬉しい言葉すぎてどうしましょう。私も会えて、この上なく喜んでおりますわ。夫がいつもお世話になり、本当にありがとうございます」


「待て。世話をしてるのは俺の方だ」


「うーん……否定したいけど否定できひん。それに、グレコマの世話してんのはシャンやからなぁ。やから、うちのことは、そこら辺の女の子と思ってくれたらいいよ」


「そこら辺の女の子は無理があるっす」


「え? じゃあ、可愛い女の子?」


「現実を見た方がいいっすよ」


「虐められたってチコリって告げ口しよ」


「やめるっすよ!」


アユカとエルダーのやり取りに、オレガノが笑い声を隠すように小さく笑い出した。

そんなオレガノを見ているグレコマの瞳が嬉しそうで、和やかな空気が流れる。


談笑が本格的に始まる前に、メイドがお茶とお菓子を運んできた。


「あなた。私もソファに移動するわ」


「大丈夫か?」


「ええ、ええ、今日は本当に体調がいいのよ」


グレコマがオレガノを支えて移動し、全員でソファでお茶をすることになった。


めっちゃ可愛い人や。

今日会ったばかりやけど、うちはもう好きになった。

やから、絶対に治してあげたい。


でもな、書いている意味が分からんねん。

魔力欠乏症って、なに?

検索してみる?

魔力欠乏症薬的な名前で、薬がヒットするかもやんな。


楽しそうにお茶をはじめたグレコマたちに気づかれないよう気合いを入れる。


おし! いざ、参る!

さぁ! 絶対にヒットせよ! 魔力欠乏症!


「ハムちゃん、お願い」と神頼みをしながら、1秒ほどの検索結果を待った。


出たー!

さすがはハムちゃん! 知恵の神様が最高すぎる件やわ!


斜め上を見て黙々とお菓子を食べはじめたアユカを見て、オレガノが「ねぇねぇ、ねぇねぇ、あなた。アユカ様はどうされたの?」とグレコマに尋ねている声は聞こえていない。

グレコマたちは、いつもの百面相が始まるのかと、何も気にしていない。


えっと、なになに……


この薬は、生まれながらに魔力胆が小さい人に有効である。

180日間毎日飲み続けることで魔力胆は通常の大きさになり、魔力が体に行き届くようになる。


うーん、どういうこと?

この世界の人たちには、魔力を作る臓器があるってこと?

それが小さいから、生きてく上で必要な分の魔力が作られへんくって、欠乏症になっているってことか?


ええ!?

魔法使わんくっても魔力が必要ってこと!?

MPちゃうくってHPやん。


でも、魔法使ったら魔力減るしな。


って、魔力っていつ復活してんのやろ?

寝たら戻るとか? それとも、ご飯?


分からんけど、この世界の魔力は魔体力、MHPってことか。


ポーションで治らんかったんは、病気でも損傷してるからでもなく、ただ小さいだけやからということやね。


ってことは、ハイポーションでも治らんかったやろな。

お見舞いに来てよかったわ。

じゃないと、判明せんかったんやし。


それよりも、材料はっと……


ほほーん。なるほどね。

ハイポーションとエーテルを煮詰めたものが薬ときたか。

めちゃくちゃな薬やな。


うちが持ってるハイポーションは10本、エーテルは4本。

これで何日分できるんやろ。


物は試しよな。やってみよ。


徐ろに立ち上がったアユカを、グレコマたちが訝しげな表情で見ていて、オレガノだけが不安そうにしている。


ソファの横の広めの床に、巾着から取り出したハイポーションとエーテルを置いた。


「あれ、何っすか?」「緑と黄緑の液体だな」と、エルダーとアキレアが首を傾げている。


ここにきてグレコマだけが、どうしても高鳴ってしまう胸を必死に落ち着けようとしていた。


成功する。絶対に成功する。

うち、錬成は失敗したことないから大丈夫。


両手を突き出し錬成を始めたアユカを見たオレガノから、感嘆の声が漏れた。


数秒後、錬成のドームが割れると、部屋には雪が降っているように光が散らばった。


アユカは膝に手を突いて、汗を流しながら、肩で息をしている。


めっちゃ魔力いったー!

うちのほとんどの魔力が必要って、ハムちゃんが余ったポイントを魔力にしてくれてなかったら作れてないやん。

マジでハムちゃんに足向けて寝られへんわ。


エーテルが4本あるからと、一気に錬成したせいだということに気づいていないアユカである。


「アユカ様、大丈夫ですか?」


「大丈夫やけど、めっちゃお腹空いた」


「なんすか、それ」


そのまま床に倒れて眠ってしまいたい疲労を無視して、体を起こした。


錬成した場所を見ると、透明のお皿の上に緑色の物体が山盛りになっている。


近づいて確認をすると、緑色の物体は見た目は5ミリほどの玉で飴のように硬かった。

そして、薬瓶が透明なお皿に変わっていた。


80個ってことは、ハイポーション1瓶とエーテル1瓶で20個できるってことか。

煮詰めるから、こんなもんなんやろね。

180日分には足りひんけど、できてよかったわ。


アユカは、グレコマとオレガノに満面の笑みでピースをした。


またおろおろしながらピースを返してくれるオレガノの横で、グレコマが右手で両目を隠しながら泣いている。

アユカの説明がなくても、オレガノの薬だと分かったのだろう。

アユカとグレコマを交互に見ていたオレガノも気づいたのか、グレコマにしがみつき泣きはじめた。


グレコマの嗚咽を抑えている息遣いの合間に聞こえた「ありがとうございます」に胸がいっぱいになり、アユカも涙を溢したのだった。




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