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「何かの縁だし一緒に進もうよ。アニスちゃんと仲良くなりたいし」
「いいわね。賛成」
ステビアたちと同じパーティーだろう残りの2人も、心良さげに頷いている。
もう1組のパーティーは「俺たちはここで。本当にありがとうございました」と、お礼にフルーツを置いて去っていった。
「足を引っ張ると思うから、俺たちも遠慮しとくわ」
「はいっす。のんびり進む予定っすから」
「急いでないからいいって」
「本当にのんびりなんだよ。それにアニスは人見知りでな。悪いが、お前たちと一緒だと余計に疲れてしまうんだよ。そうなると、更にゆったりになってしまう。悪循環だ」
「分かった。残念だけど諦めるよ。でも、今度街で会おうね」
グレコマが睨むとようやく諦めてくれ、ステビアは連絡先の紙をアユカに渡して離れていった。
ステビアたちが見えなくなるまで見送り、アユカたちは反対側に歩き出す。
「ついてくるっすね」
「ああ、尾行に気づかないと思ってんだな」
「エルダー。これ、燃やしといて。追跡の魔術かかってる」
「最低最悪っすね」
ステビアに渡された連絡先の紙を、エルダーに渡した。
エルダーは、直ぐに火魔法で紙を燃やしてくれる。
「あいつらは何がしたいんだ?」
「何だろうな」
「本当に一目惚れかもっす」
「そうだとしても、追跡の紙を渡すとか異常だろう」
「はぁ……これを報告するのかぁ……」
「俺、嫌っす。殺されるっす」
「俺も怒られるんだろうな」
言った方がいいんやろうけど、何かされたわけちゃうしなぁ。
追跡の魔術を見破れたから、馴れ馴れしくて胡散臭いと思って『アプザル』しといてよかったんやけどさ。
ホンマ、瞳の色で判断はできへんわ。
フォーンシヴィ帝国隠密部隊って表示されてもなぁ。
たぶん、うちがアユカってバレてんよな。
やから、近づいてきたんやろうし。
でも、なんで近づいてきたんやろか?
キアノティス様の命令のはずやもんな。
なんかあるんかな?
うーん、分からん。
まぁ、バレてんやから何してもいいよな。
魔法は使わへんよ。錬成もせーへん。
でも、素材採取はする。
次はいつ来られるんか分からんのやから、色々持って帰らな。
階層4を練り歩いているうちに、尾行されている気配はなくなったそうだ。
だが、アユカは「あの人ら隠密部隊。気配消しただけちゃうかな」と思いながら、素材採取に勤んだ。
階層4ではモンペキングを何匹も倒し、そのまま持ち帰ることにした。
錬成をしないアユカを訝しげに見てくる3人だったが、気を引きしめているんだろうと思ったのか、何も聞いてこなかった。
やっと到着した階層5は、対岸が見えない泉がある綺麗な野原だった。
ふくらはぎ半分ほどの深さの泉は澄み切っていて、魔魚がいるようには見えない。
階層5にいる魔物は、鹿に似ているディーバーやトナカイに似ているレディーバンがたくさんいた。
2種類とも高速移動で突進してくる魔物で、グレコマの風魔法で防御しながら倒している。
アユカはのほほんと泉のほとりで薬草を採取しながら、ふと泉の中を見つめた。
あ! あ! ああああ!
何と言うことでしょう!
泉の中に生えてるぺんぺん草みたいな薬草が、探し求めていた薬草だったとは!?
聖女もどきのアユカも驚きを隠せていません。
っていう、ナレーションは置いといて……
やったー! やっと見つかった!
まさかハイポーションとエーテルの最後の薬草が同じ薬草やとは思わんかったけど、これで両方作れる!
嬉しい!
めちゃくちゃ摘んで帰ろ。
泉に入り、しゃがんで服を濡らしながらも薬草を摘んでいるアユカに、3人も泉の中に入ってくる。
「そんなに嬉しそうに摘んで、何の薬草なんだ?」
「これ、すごいねんで。1個食べてみたら分かるわ」
グレコマに1つ渡すと、疑いもせずに1口で食べている。
吐き出したいほど渋いはずなのに、食べたグレコマは驚きと感動が入り混じった顔で、アユカの両肩を掴んできた。
「びっくりした」
「こ、これって!! アユカ様、これって魔力が増えるのか?」
真剣な表情で唾を飲み込んでいるグレコマに、アユカは笑顔を見せた。
「そうやよ。この草、エットプ草っていうんやけど、ほんの少しだけ魔力が回復するねん。すごい草やよな」
「回復……増えるんじゃないのか?」
「言い方を変えたら増えるで合ってるよ。でも、人それぞれ魔力の限界値があるから、増えるんは限界値までやで」
「それでも……それでも増えるんだよな」
「そうやね」
「この草もらってもいいか?」
「うちの了承なんていらんやん。めちゃくちゃ生えてるんやから、うちもグレコマも欲しいだけ採ろうや」
「ああ、そうだな」
泣き出してしまいそうな顔をしているグレコマを、アキレアは物柔らかな表情で見ている。
エルダーは、グレコマにつられてしまったのか瞳に涙を溜めていた。
「俺もいっぱい採るっす!」
「俺も手伝おう」
アユカには何が何だか分からないが、温かい空気が流れていることは分かる。
「ホンマに色々あるんやなぁ」と思うだけで突っ込んで聞くことはせず、しゃがんだ体勢に疲れるまでエットプ草を摘んだ。




