表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/209

73

「何かの縁だし一緒に進もうよ。アニスちゃんと仲良くなりたいし」


「いいわね。賛成」


ステビアたちと同じパーティーだろう残りの2人も、心良さげに頷いている。


もう1組のパーティーは「俺たちはここで。本当にありがとうございました」と、お礼にフルーツを置いて去っていった。


「足を引っ張ると思うから、俺たちも遠慮しとくわ」


「はいっす。のんびり進む予定っすから」


「急いでないからいいって」


「本当にのんびりなんだよ。それにアニスは人見知りでな。悪いが、お前たちと一緒だと余計に疲れてしまうんだよ。そうなると、更にゆったりになってしまう。悪循環だ」


「分かった。残念だけど諦めるよ。でも、今度街で会おうね」


グレコマが睨むとようやく諦めてくれ、ステビアは連絡先の紙をアユカに渡して離れていった。


ステビアたちが見えなくなるまで見送り、アユカたちは反対側に歩き出す。


「ついてくるっすね」


「ああ、尾行に気づかないと思ってんだな」


「エルダー。これ、燃やしといて。追跡の魔術かかってる」


「最低最悪っすね」


ステビアに渡された連絡先の紙を、エルダーに渡した。

エルダーは、直ぐに火魔法で紙を燃やしてくれる。


「あいつらは何がしたいんだ?」


「何だろうな」


「本当に一目惚れかもっす」


「そうだとしても、追跡の紙を渡すとか異常だろう」


「はぁ……これを報告するのかぁ……」


「俺、嫌っす。殺されるっす」


「俺も怒られるんだろうな」


言った方がいいんやろうけど、何かされたわけちゃうしなぁ。

追跡の魔術を見破れたから、馴れ馴れしくて胡散臭いと思って『アプザル』しといてよかったんやけどさ。


ホンマ、瞳の色で判断はできへんわ。

フォーンシヴィ帝国隠密部隊って表示されてもなぁ。


たぶん、うちがアユカってバレてんよな。

やから、近づいてきたんやろうし。


でも、なんで近づいてきたんやろか?

キアノティス様の命令のはずやもんな。

なんかあるんかな?


うーん、分からん。


まぁ、バレてんやから何してもいいよな。

魔法は使わへんよ。錬成もせーへん。

でも、素材採取はする。

次はいつ来られるんか分からんのやから、色々持って帰らな。


階層4を練り歩いているうちに、尾行されている気配はなくなったそうだ。

だが、アユカは「あの人ら隠密部隊。気配消しただけちゃうかな」と思いながら、素材採取に勤んだ。


階層4ではモンペキングを何匹も倒し、そのまま持ち帰ることにした。

錬成をしないアユカを訝しげに見てくる3人だったが、気を引きしめているんだろうと思ったのか、何も聞いてこなかった。


やっと到着した階層5は、対岸が見えない泉がある綺麗な野原だった。

ふくらはぎ半分ほどの深さの泉は澄み切っていて、魔魚がいるようには見えない。


階層5にいる魔物は、鹿に似ているディーバーやトナカイに似ているレディーバンがたくさんいた。

2種類とも高速移動で突進してくる魔物で、グレコマの風魔法で防御しながら倒している。


アユカはのほほんと泉のほとりで薬草を採取しながら、ふと泉の中を見つめた。


あ! あ! ああああ!

何と言うことでしょう!

泉の中に生えてるぺんぺん草みたいな薬草が、探し求めていた薬草だったとは!?

聖女もどきのアユカも驚きを隠せていません。


っていう、ナレーションは置いといて……


やったー! やっと見つかった!

まさかハイポーションとエーテルの最後の薬草が同じ薬草やとは思わんかったけど、これで両方作れる!

嬉しい!

めちゃくちゃ摘んで帰ろ。


泉に入り、しゃがんで服を濡らしながらも薬草を摘んでいるアユカに、3人も泉の中に入ってくる。


「そんなに嬉しそうに摘んで、何の薬草なんだ?」


「これ、すごいねんで。1個食べてみたら分かるわ」


グレコマに1つ渡すと、疑いもせずに1口で食べている。

吐き出したいほど渋いはずなのに、食べたグレコマは驚きと感動が入り混じった顔で、アユカの両肩を掴んできた。


「びっくりした」


「こ、これって!! アユカ様、これって魔力が増えるのか?」


真剣な表情で唾を飲み込んでいるグレコマに、アユカは笑顔を見せた。


「そうやよ。この草、エットプ草っていうんやけど、ほんの少しだけ魔力が回復するねん。すごい草やよな」


「回復……増えるんじゃないのか?」


「言い方を変えたら増えるで合ってるよ。でも、人それぞれ魔力の限界値があるから、増えるんは限界値までやで」


「それでも……それでも増えるんだよな」


「そうやね」


「この草もらってもいいか?」


「うちの了承なんていらんやん。めちゃくちゃ生えてるんやから、うちもグレコマも欲しいだけ採ろうや」


「ああ、そうだな」


泣き出してしまいそうな顔をしているグレコマを、アキレアは物柔らかな表情で見ている。

エルダーは、グレコマにつられてしまったのか瞳に涙を溜めていた。


「俺もいっぱい採るっす!」


「俺も手伝おう」


アユカには何が何だか分からないが、温かい空気が流れていることは分かる。

「ホンマに色々あるんやなぁ」と思うだけで突っ込んで聞くことはせず、しゃがんだ体勢に疲れるまでエットプ草を摘んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ