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「もう嫌っすー!」
「帰りたい……」
「アユカ様のお守りは、本当にしんどいな」
「うち、なんも迷惑かけてへんやん」
「迷惑とか、そういう問題じゃないんだよ」
「そうっすよ。これ以上、報告することを増やさないでほしいっす」
ひどいわー。
楽しく過ごしてましたって、報告できることしかしてへんのに。
きっとアレやわ。
お腹空いてるから、愚痴っぽくなってまうんやわ。
「お腹空いたし、そろそろ休憩しよ」
めっちゃジャングルやけど、木の根に座ってご飯とか異世界っぽいやん。
こういうんも楽しんだもん勝ちなんやから、みんなも楽しんだらいいんよ。
そしたら、意味不明な心労もなくなるはず。
「さっき取れたヴァルブス食べよー」
「楽しみっす」
ふふん。
ほら、間違いなく心労とはおさらばしてるやん。
料理長から色んな調味料をもらっているので、塩焼きと照り焼きとニンニク醤油を錬成した。
涎が出そうな匂いが辺り1面に広がり、4人とも唾を飲み込んだ。
「「いただきます」」
アユカが毎食毎に挨拶をするので、いつの間にか「いただきます」と「ごちそうさま」が食事の挨拶の定番になっている。
「めっちゃ美味しい!」
鴨に似てる気がするけど、鴨よりも柔らかいな。
でも、ちゃんとムチムチの弾力がある。
肉汁もたっぷりやし、鳥皮も香ばしく焼けてるしで、控えめに言っても鳥肉ナンバー1やわ。
「これ、美味いっす」
「ああ、止まらないな」
「弾力が素晴らしいな」
夢中で食べていたが、数個の足音に3人が立ち上がって剣を抜いた。
アユカは張り詰めた空気を肌に感じながらも、咀嚼は止めないでいる。
「て、敵ではありません!」
「魔物でもありません!」
アユカたちを囲うように、両手を上げた人たちが木の影から出てくる。
「私たちは冒険者です」
「何の用だ?」
「それは一一
言いかけた狐に似ている女の子から、盛大なお腹の虫の鳴き声が響いた。
真っ赤になる女の子に、グレコマが息を吐き出しながら剣を収め、アキレアとエルダーも安心したように警戒態勢を解いている。
「匂いにつられてやってきて、魔物の縄張りだったらどうすんだよ」
「……すみません」
「まぁまぁ、うちらがいい匂いさせたんも悪いんやし、集まってきたんが魔物ちゃうくってよかったやん」
「そうっすね。欲求には抗えないっすよね」
恥ずかしそうに顔を見合わせている2チームの冒険者チームに、アユカは笑顔を向けた。
「いっぱいあるから、お姉さんたちもどうぞ」
「いいの?」
「美味しいもんはみんなで分けな、罰が当たるからな」
「妹の言う通りだ。食べて行けばいい」
グレコマはアユカの横に腰を下ろして、アユカの向かい側のスペースを空けた。
エルダーとアキレアも、アユカの近くに座り直している。
うちは、グレコマの妹設定なんやね。
瞳の色変えてきてホンマによかったわ。
でも、髪の色的にアキレアの方がいいんちゃうかな。
美味しいと口々に言いはじめた冒険者たちに負けじとアユカたちも食べ、ヴァルブスのお肉はあっという間になくなった。
「本当に美味しかったです。ありがとうございました」
「出会えた幸運に感謝ばかりです」
「気にするな。倒したヴァルブスの肉を焼いただけだからな」
「それですよ。このジャングルの中で、どうやって焼いたんですか?」
「俺の火魔法っすよ」
「うわぁ! ものすっごくコントロールがいいんですね」
胸を張って威張っているエルダーを横目に、まだ食べ足りないアユカは料理長が持たせてくれたサンドイッチを食べている。
「妹ちゃん、可愛いね。名前は?」
お腹を鳴らした狐の少女とそっくりの少年が、笑顔で問いかけてきた。
といっても、目が細いから笑っていなくても笑っているように見えるので、本当に笑顔かどうかは分からない。
「アニス」
「名前も可愛いね。俺はステビア。こっちは双子の妹のサルビア」
そっくりやと思ってたけど、双子なんか。
ふーん。そっか、そっか。
「あ! どこかで見たことあると思ったら、聖女様に似てるんだわ!」
「そうかな? 俺は、聖女ちゃんより妹ちゃんの方が可愛いと思うよ」
「アニスが可愛いかどうかは置いといて、聖女様に似てるか? アニスを見慣れすぎてて分からないな」
グレコマが、わざと顎に手を当てながら首を捻っている。
「そうっすよ。このじゃじゃ馬が聖女様に似てるなんて、聖女様に失礼っすよ」
アユカがサンドイッチを食べ終わると、アキレアが立ち上がった。
「長居をしすぎたな。早く移動しよう」
「そうだな。魔物に囲まれたら大変だ」
グレコマとエルダーも立ち上がったので、アユカも何も言わずに腰を上げた。
続々とみんな立ち上がっている。
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