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アキレアが翳し終わったら、真っ黒な空間に1歩足を踏み入れた。
2歩目で体が完全に暗闇に入ると、見えていなかったのが奇怪なくらい色とりどりの花畑の中に立っていた。
「え? え?」
アユカが後ろを振り返っても、どこまでも続く花畑があるだけだ。
ただ数メール先に、洞窟の入り口と思われる黒い楕円形が見えている。
「今日は、どのチームも来てないっすかね」
「階層1が素通りなだけだろ」
3人とも張り詰めていない様子から階層1は余裕なのだろうと思い、アユカはのびのびと鑑定をし始めた。
見渡す限り薬草はないと。
でも、鎮静や安眠効果のあるお茶になると。
ん?
あの紫の花なんて、自白剤作れるってなってるやん。こわっ。
でも、拷問せんでよくなるからいいんか。
「アユカ様、摘まれますか?」
「少しだけな」
「それじゃ、俺は階段を探してくる。エルダー、アユカ様を守れよ」
「俺も探す方がいいっす」
「先輩に譲れ」
うちをトラブルメーカー扱いするんはおかしいからな。
うちが起こしてきたんは奇跡やからな。
自画自賛しながら、アユカは花を手当たり次第摘んでいく。
階層1は虫の魔物が多いらしく、大量に飛んでくる虫をエルダーは炎で焼き殺していた。
ある程度、花を摘めたアユカは、何事もなく階層2に降り立った。
階層2は、肌が焼けるように暑い砂漠だった。
「これは直ぐに下の階に行きたいわ」
「同感っす」
階段を探しながら歩きはじめると、小型飛行機ほどの大きさでハゲ鷹に似た魔物が5羽、アユカたち目掛けて急降下してきた。
グレコマとエルダーが風や火の魔法を放つ中、アユカも銃を取り出しホーリーガンを打った。
見事に魔物の眉間に当たり、頭が弾け飛んだ魔物は砂埃を上げて地面に衝突している。
初めて勇ましいアユカを見たアキレアは絶句しているが、グレコマとエルダーは顔色1つ変えず、残りの魔物を倒している。
「わーい! おっにくー!」
「ヴァルブスは初めてか」
「そうっすね。きっと美味しいっすよ」
3人の声にやっと時が動いたアキレアが、縋るようにグレコマを見た。
グレコマは大きく頷き、アキレアの肩を2回叩いていた。
階層3への階段に到達するまでにヴァルブスに後2回、サソリに似た魔物リオルーネに1回出会った。
ヴァルブスには薬に使える部分は無かったが、リオルーネは尾の先の毒針に使い道があった。
そして、砂漠の砂にも使い道があり、「表示名怖いんよなぁ」と悩んだ末に持ち帰ることにした。
階層3は、石作りの迷路だった。
階層に着いた時に予想できた通り、階層3の魔物は骸骨だった。
骸骨の魔物はドーレスロといい、魔法が効かないとのことで、グレコマとエルダーは剣のみで戦っている。
アユカは試しにホーリーガンを打ってみたが、見事に骸骨に吸収された。
ホーリーって名前やのに、骸骨に効かへんっておかしいわ。
ここはなんちゃってやけど、聖女のうちの魔法だけは効くんが物語の定番やん。
なんちゃっては、なんちゃってってことか。
ってか、倒しても30分後に復活するらしいんよね。
やから、できるだけ相手せずに進みたいらしいんやけど、通路塞がれるから無理よなぁ。
戦ってくれてる2人には悪いけど、草さえ生えてないから採取するもんなくて暇やわ。
なんかすることないかなぁ。
『アプザル』っと。
どうせ何もないだろうと思ったアユカだったが、ドーレスロを見て瞳を輝かせた。
ええー! あの骨たち、めっちゃ優秀な化粧品になるん?
うちにはまだ必要ないけど、作れたらバカ売れするやん。
こんなん作るしかないやん。
動いている魔物でも錬成できることはスライムで試し済みなので、アユカは見える範囲の全てのドーレスロに『ケルミーア』をかけた。
前触れもなく錬成をし始めたアユカに、アキレアだけではなくグレコマとエルダーも止まっている。
あ! やってもた。
入れ物を放り投げてから錬成したらよかった。
砂よりも細かい骨を集めるん大変やん。
「アユカ、何してるっすか?」
「骨が欲しいから錬成しただけやん」
「この骨を使うのか?」
「使うから錬成したんやよ。めっちゃ大金持ちになれるものが作れるんやで」
悪代官のように下衆な笑い方をしていたら、アキレアがグレコマの服を掴んで「いいのか? これで本当にいいのか?」と聞いていた。
グレコマは先ほどと同じように大きく頷いて、服を掴んでいるアキレアの手を叩いている。
「うちが欲しい分は集まったから、降りるまでよろしくな」
「全部錬成してくれたらいいっすよ」
「そんなことより、そこまで砕くと復活しないのか?」
「さすがにせんやろ」
「確証ないのか……」
めっちゃため息のアンサンブルが聞こえるけど、気にしない、気にしなーい。
入れ物を砂山の上に置いて錬成したら、きっと入れ物の中に収まるはずやわ。
楽して集めるぞ! おー!
アユカの思惑通り、箱を骨の砂の上に投げ置いて錬成したら、綺麗に片付いた。
お金のことを考えて足取り軽いアユカとは正反対に、3人には疲労が溜まっていく。
なんとか迷路を脱出し、階層4に降りていった。




