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「アユ、着いたぞ」


「え?」


足跡ばかり見ていた顔を上げると、海に伸びる細長い建物が見えた。

建物は伸びた先にいけばいくほど、海の中に姿を隠している。


シャンツァイから差し出された手を掴み、並んで建物の中に入っていった。

薄暗い通路を歩いていくと、突如視界が開けた。


境目が分からないくらいだが、魚たちが泳いでいる位置で、ドーム型の透明な壁があるのだろうと想像できた。

波が揺れるように、地上から届く光も揺らいでいる。

雲1つない晴天の日に訪れて、正解というものだ。


予想してたけど、マジで本物の海の水族館やー!

水中の中にいるみたい!

なにこれ、すごっ! なにこれ!


拍手がしたいけど手を繋いでいてできないアユカは、シャンツァイと繋いでいる手を大きく振った。


「どうだ?」


「すごい! めっちゃすごい! 素敵すぎる! なんなん!? これ、なんなん!?」


驚きで止まっていた足を動かすようにシャンツァイにふんわりと手を引かれ、体育館ほど広い空間を歩き出す。


「アユが説明してくれたものは無理だったが、一応水族館だ」


「シャンが作ってくれたんやんな?」


「まぁな。明日から誰でも入れるようになるから、いつでも来られるぞ」


「どんなデートがしたいか」と聞かれた時に「水族館」と答えたのは、2週間ほど前にシャンツァイと眠った時だった。


たった2週間で作ってくれたということや、アユカが憧れていたデートを叶えてくれたこと、何よりシャンツァイに大切にされていることが伝わってきて、目が熱くなっていく。


心に刻んでおきたい景色が、滲んで見ていられない。


瞳から溢れた涙を、シャンツァイが親指で拭ってくれる。


「嬉しい。シャン、ありがとう。ホンマに嬉しくて夢みたいや」


「喜んでもらえてよかったよ」


もうひと撫でして涙を拭いたシャンツァイが、自身が持ち運んでいる巾着から花束を出した。

小さなひまわりの花束を受け取ると、頬に口付けされる。


「俺をアユのたった1人の男にしてくれな」


「うん」


「好きだ」


「うん、うん」


「泣きすぎだ」


幸せそうに微笑みながら、今度は少し強引に涙を拭われた。

シャンツァイでも照れるのかと、意外な一面にアユカの胸が締めつけられていく。


アユカは片手で花束を持ちながら、もう一方の手で頑張って巾着からチョコレートを取り出した。

銀色の包装紙に赤いリボンを掛けている。


「シャン、好きです。うちもシャンのたった1人になりたい」


「なりたいじゃなくて、なってる。アユだけが俺の女だ」


「うん、嬉しい」


「俺も嬉しい。やっと手に入った」


「ん? うちはずっとシャンの女やったやん」


「そうだったな。言い方を間違えて悪かった。やっと好きと言い合えて嬉しいってことだ」


「うん。シャンに好きって言われて、空も飛べそうな気がしてるもん」


「なんだそれ」


小さく笑ったシャンツァイの顔が近づいてきたので、自然と目を閉じた。


体が覚えるほどしてきたキスだが、いつもよりも熱く激しいキスに息が続かなくなる。


気持ちを確認し合えた幸せに酔っていたら、体全体で息をするはめになり、ひまわりの花束は2人の下敷きになっていた。


「ああああ! うちの花束!」


「城に帰ったら予備がある。だから、今は花束よりもう1回だ」


「嫌や! さっきはなんでしてしまったんか分からんけど、魚や魔魚に見られながらは嫌や!」


「1回見られてんだから、何回見られても一緒だろ」


「一緒ちゃう」


「アユ、好きだ。大好きだ」


「愛を囁いたら何でも許されるなんて思ったらあかん」


「さっきは許してくれただろ」


「さっきはさっき。今は今や。うちの花束ー」


「泣くな。城に予備がある」


「予備は予備で、うちの花束はこれやったもん」


記念に押し花にするか、ドライフラワーにしようと思ってたのに。

エロスに溺れたうちが悪いんやけど、悲しいもんは悲しい。


泣いているアユカを慰めるように、シャンツァイが背中を撫でてくる。


「アユ、指輪欲しくないか?」


「欲しい!」


「ククッ。泣き止んだな」


うちはゲンキンな女や。認めよう。

花束は悲しいけど、指輪の嬉しさが勝ったんやもん。

しょーがない。


「後で街に寄るか」


「うん。シャンとお揃いの指輪」


「……お揃いなのか?」


「うん。恋人は何でもペアやから」


「……それよりお腹空かないか?」


「めちゃくちゃ空いてるよ」


「服着て、昼食にするぞ。ここで食べられるように持ってきてる」


「シャン、マジで最高やわ。カッコいい! 好き! 大好き」


「俺の方が好きに決まってんだろ」


ずっきゅーん!

今、ハートの矢が胸に刺さったわ。


好きって言葉が加わっただけで、今までより糖度が高なった。

マジで溶けてスライムにならんよう気をつけよう。

シャンの甘さに骨抜きにされたら、ドロドロになってまうもんな。


『クレネス』でお互いを綺麗にしてから、アユカの体を触りたい病のシャンツァイと服を着せ合った。


料理長が用意してくれた昼食は6人前ほどあったが、2人で食べたら綺麗にたいらげていた。

デザートに、アユカが錬成ではなく手づから作ったチョコレートを食べさせ合った。


水族館を楽しんだアユカたちが外に出たころには夕方になっていて、そこから街に行くのは帰りが遅くなってしまうからと、指輪は後日シャンツァイが準備してくれることになった。




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