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「アユ、気になることがあるんだが、知っていたら教えてくれ」
「いいよ。なに?」
「古書には、聖女の魔法についても記述がある。クレソンから、アユが他の聖女の魔法内容を言ってたと聞いている。だが、古書に載っていた魔法がその中になかったんだ」
「何の魔法?」
「蘇りの魔法だ」
「それって死んだ人を生き返らせられる魔法とか言う?」
「そうだ。アユが知ってるってことはあるんだな」
知ってるっていうか、物語では禁忌の魔法とかで出てくるやん。
ハイポーションでも、流石に死んだ人には効かんやろうからなぁ。
まだ作れてへんけど。
「ううん、ないと思うよ。聖女の魔法は3つやから」
それに、魔法とスキル一覧表にもなかったと思うんよなぁ。
だってやで、生き返るとか聖女の域超えて神様やん。
「いや、でもなぁ……」
うちという例があるし、他の聖女と話したわけちゃうしなぁ。
でも、そんな魔法が使えるなら、他の魔法は使われへんと思うんよな。
ポイント交換やったもんな。
ハムちゃん以外の神様が、面白がって与えてたらあり得るかもやけど。
「うーん……たぶん、ない」
「たぶんなんだな」
「はじめはないと思ったけど、色々考えたらあるかもってなった。ごめん」
「謝ることじゃねぇだろ。それと、もう1つ。聖女たちは1日10人ほどしか治せないらしいんだ。理由は分かるか?」
「単純に魔力の問題やと思うよ」
「魔力量か」
「うん。別に少ないわけちゃうとは思うけどな」
「それだけ治癒の魔法には魔力が必要だってことだな」
「うちは使われへんから憶測やけどね」
「憶測でも十分だ。ありがとう」
シャンは王様なんやから、お礼言わんでいいと思うんよね。
でも、事ある毎にちゃんと言ってくれる。
こういうとこも好きなんよね。
ん?
好き?
うち、今、自然に好きやと思った?
そりゃシャンの筋肉は世界一、いや、宇宙一、いいや、どの世界や宇宙を合わせても1番やと思う。
優しいし、カッコいいし、恋愛上手やし、うちを自由にさせてくれるし、声はエロいしな。
文句の1つも出てこーへんほど完璧やねん。
すっげー! すっげーな! って某サ◯ヤ人の口調で言いたいほど凄いねん。
いつも苦しいほどドキドキしてたけど、自然と好きやなぁって思ったことなかったはず。
ってことは、もしかせんでも乙女的な好きが発動してしまったんかー!
シャンは好きな人ってことか!
うおー!
すすすすきなひとって響きが、胸を締めつけてくるー!
はっ!
恋愛って、片思いが1番楽しいって言うやん。
でも、うちとシャンはもう婚約者で、チョメチョメにもなってて……
楽しいって噂の片思いを経験できへんかったんか。
あ、でも、フラれるとかの心配はせんでいいからお得やったんか。
それに今、めちゃくちゃ楽しいしな。
あの時、クレソンが提案してくれてホンマによかったわ。
「クレソン、ありがとうな」
「はい?」
好きな人ができたことが嬉しくて、初恋にドギマギしないのはアユカの良いところだろう。
「急に百面相し出したと思ったら、意味不明なこと言い出したっす」
「気にするな。シャンツァイ様とモナルダを見習え」
意味不明って失礼やな。
意味不明ちゃうからな。
「アユカ様、もうよろしいですか?」
何がとかは聞かへんよ。
モナルダも意味不明って思ってたんやろな、とも思わへんよ。
「うん。話終わったみたいやから出ていくな」
「申し訳ございません。最後にもう1つだけ確認をさせてください。今後どの国からの要請であっても、我々で決めて返事をしてもよろしいでしょうか?」
「うん、シャンとの予定と被らんかったら何でもいいから決めてくれていいよ」
「かしこまりました。そのようにいたします」
アユカは紅茶で喉を潤し、シャンツァイに「また夕食で」と手を振ってから執務の間を出て行った。
「アユカが行きたいって言わなくてよかったっす」
「そういえば、前にそんなこと言ってたでな。仲悪いん?」
「仲が悪いというより、ウルティーリを見下してんだよ。だから、どこもキャラウェイ様を受け入れてくれなかったんだ。それなのに、今になって助けてほしいとかふざけてる」
「キャラウェイ様?」
「シャンツァイ様が倒れた時に、次に狙われるならキャラウェイ様だと思って、他国へ留学させてほしいと頼んだんだよ。見事に全部から断られたよ」
「誰も匿ってほしいとは言ってないっすのに」
「『ウルティーリの王族が、我が国で学ぶことは1つもないだろう』って、色んな意味を汲み取れる返事だったな」
「それに外交も強く出てくるっす。嫌いっす」
こっちの世界に来た日の朝に、キャラウェイ様は縮こまってたもんな。
キアノティス様が優しかったんは、うちが聖女やからやったんやろうか。
普通に優しい人やと思ってたんやけどな。
でも、どの国も他国のいざこざには巻き込まれたくないと思うんよな。
まぁ、見下すとかはどうかと思うけど。
国のことなんて分からんから、うちはシャンに丸投げでいい。
分からんこと考えるより、うちにできることやった方がいい。
うん、今後もそれでいこう。
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