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ドアをノックする音の後に、モナルダが書類を手に部屋に入ってきた。


「失礼いたします」


「今日の分は終わってるぞ」


「ありがとうございます」


執務机までやってきたモナルダは、持っていた書類をシャンツァイの目の前に置いた。

シャンツァイは、面倒臭そうに息を吐き出している。


「俺は帰ろうとしてたんだが」


「申し訳ございません。夕食前には終わりますので」


「これは、なんだ?」


「リコティカス国からの書簡になります」


シャンツァイは、怪訝な表情を浮かべて書簡に目を通している。

読み終わったシャンツァイから、先ほどよりも深い息が吐き出された。

書簡は、クレソンの手に渡っている。


「薬店から報告がございました。先週、リコティカス人が薬を買い占めようとしてきたそうです。開店当初より個数制限を設けておりますので、簡単に引き下がったそうです。ですが、そこから町人を雇い入れたらしく、1日に何人も代わりに買いに来るそうです」


「リンデンから報告があった怪しい人物も、おそらくリコティカスの手の者なんだろう」


「瘴気の浄化先に現れる者ですね。遠くから覗いているだけだったということでしたね」


「ああ。自国の聖女が無能すぎて、アユが欲しいんだろうよ」


「そのようですね。急ぎ影から情報を取り寄せたところ、書簡にも記載があった通り、リコティカス国の聖女は瘴気の浄化ができないようです。そのせいで部屋に引き篭ってしまい、治癒さえも頼めない状態とのことだそうですから」


「だから、浄化の手助けをしてほしいか。厚かましいな」


「ええ。アユカ様を貸してほしいなどと、よく言えたものですよ」


「他の2国の聖女は、どうだ?」


「どちらもアユカ様の足下にも及びません。浄化はできるようですが、1箇所の浄化に3日から5日ほどかかるようです。そして、浄化する日は治癒はできないそうです」


「制限があるのか?」


「分かりませんが、立っていられない状態になるそうです」


「アユからは想像できねぇな」


「それと治癒に関してですが、3人共1日10から15人が治せる限界だそうです」


「そうか。キャラウェイは当たりを引いたってことだな」


「はい。我が国の聖女がアユカ様で、本当によかったです。ブルティーリ人を囲うことができたのもアユカ様のおかげですから」


「あの親子は僥倖だったな」


「リンデン様も魔道具は紛れもなく本物だと、大いに喜んでおられましたね」


「そうだな。あの巨体が子供のようにはしゃぐ姿は面白かった」


「それに、魔物の骨の農薬のおかげで不作知らずになりそうです。成長も早いそうで、今まで年1回の作物が2回収穫できるようになるだろうとのことです」


「肉や魚も魔物で補え、農作物の実りも著しい。貧国と言われているのが嘘のようだ」


「はい。陛下が即位されてからは右肩上がりですが、アユカ様が来られてからは飛ぶ鳥を落とす勢いです。膿でしかなかった者たちを一掃できましたしね。本当にアユカ様には感謝しかありません」


「ああ、そうだな。ということで、ラッキーガールのアユにこの件は一任しようと思う」


「それは同意しかねます」


「どうしてだ?」


「アユカ様のことですから、助けようとするはずです。

リコティカス国は表向き助けを求める状態で書簡を出してきましたが、腹積もりはアユカ様を自国に引き込むことです。リコティカス国の方がいいと、アユカ様に言わせようとするはずです。もしくは、引き留めて帰さないようにするはずです」


「そうだろうな。でもな、もしアユがリコティカス国に行ったところで、アユには俺の匂いを濃く付けている。

誘惑はできないと分かるだろうし、したとしたら国際問題になることも分かる。帰さねぇわけにはいかないんだよ」


「このことを想定して、あんなにも早く抱いたんですか」


「いいや。我慢したくなかっただけだ」


「そうですか。仲が良くて有り難いことです」


「仲が良いと少し違うな。アユは俺を好いてはいないからな。いや、違うか。アユは、自分にも他人にも興味がないが正しいな。楽しければいいという人間だ。今は本人も言ってたように、恋愛がしたいから恋愛に重きを置いているだけなんだろう。その相手が俺じゃないといけないわけじゃない。恋愛をしてくれるなら誰でもよかったはずだ」


「だから、アユカ様が喜ばれるだろう行動をされているんですね」


「アユは面白くなくなったら、どこにだって行こうとするだろうからな」


「陛下がベタ惚れしすぎてて、私は今引いていますよ。

でしたら、余計に他の国に行かせられないじゃないですか。好きな人ができてしまったらどうされるんですか」


「アユには番のマークをつけている。好きな奴ができたところで、俺以外と恋愛できねぇようにな」


「そうでした。つけられてましたね。アレを見たときは、お腹を抱えて笑ってしまいそうでしたよ」


「笑ってもよかったんだぞ。不敬罪で牢にぶちこんでやれたからな」


「私に宰相をしてほしいと泣きついてきた陛下は、どこにいってしまったんでしょうか」


「過去を捻じ曲げるな」


「おかしいですね。記憶が改竄されているようです」


鼻で小さく笑うシャンツァイに対して、モナルダは小さく上品に笑っている。

クレソンも穏やかな笑みを浮かべている。


「今回の件はアユに一任する。聖女の行動は自由にさせると約束しているしな。破ることで関係が壊れては困る」


「かしこまりました。フラれては可哀想ですからね。アユカ様が行かれる予定で準備を進めます」


「1ヶ月くらいでいいか。リンデンの仕事を調整してくれ。リンデンが一緒だと、他に目移りしないだろう」


「不安なら行かせなければいいんですよ。あんな国を助ける必要はないんですから」


「うるせぇよ。夕食の時間になるから俺は帰るぞ」


「アユカ様に『明日、時間をください』とお伝えをお願いいたします」


頭を下げるモナルダにシャンツァイは頷きを返し、全員一緒に部屋を後にした。




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