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ハッキリと意識が戻ってきた時に見た最初の景色は、シャンツァイの寝顔だった。


あれ? シャンが寝てる? なんで?

昨日は……


あああ! うち、また意識飛ばしたんか。

何をしてんねん、もう!


状況を理解したくて動こうとしたが、シャンツァイを起こさないようにと思うと動けない。


シャンの腕は、うちの腰を抱いてると……


こういうのって腕枕ちゃうの?

いや、でも実際に腕枕やったら、シャンは腕を斜めに上げることになるからシャンもうちもしんどい体勢やな。

真っ直ぐ腕伸ばしてたら、うちの顔の位置はシャンと並ばんもんな。


ん?

漫画の腕枕って、漫画やから成り立つんやな。

勉強になったわ。


って、そんなこと思ってる場合ちゃうねん!

確認せんでも分かる。うち、裸や。

なんで服着てないん?


シャンツァイの堪えるような笑い声が聞こえて、伏せていた視線を上げた。

無防備なシャンツァイの柔らかい表情に、一瞬心臓が止まった気がする。


「朝から、どうした?」


「うちが服を着てない理由を考えてたねん」


「慌てないんだな」


「心は嵐やけど、振り切れすぎてて頭は冷静っぽいわ」


考えること放棄するからかな。

意味不明すぎると人間って、逆に冷静になるんやわ。


「俺が脱がしたからだ」


「それ、やったらあかんことやで」


「アユの許可は取ったぞ」


「嘘や」


「嘘つく意味ないだろ」


そうやけどさー。

うち、なんも覚えてないんやもん。


「あいつらが来る前にシャワー浴びるか」


「そうやね。シャンから入っ一一


「今更だろ。一緒に浴びるんだよ」


起き上がったシャンツァイに、いとも簡単に抱き上げられた。


「それやったら、魔法かける」と言いたいが、何もかもが恥ずかしすぎて声は出てきてくれない。


体を動かして歯向かおうにも、裸を見られたくなくて体を縮めることしかできない。


ダンゴムシのように丸まっていたが、体を洗ってくるシャンツァイの手を魔法にかかったみたいに受け入れていた。


おもおも思い出したー! 全部思い出した!

忘れたらあかんことやったから思い出してよかったんやけど、忘れたままでいたかった!

恥ずかしすぎるんよ!

昨日したこと全てが、羞恥を極めてるんよ!


時々笑われながら、時々甘い言葉を囁かれながら、シャワーだけなのに逆上せてしまいそうな時間は過ぎていった。


「アユカ様、体調が悪いのでしょうか? 大丈夫ですか?」


いつもなら5皿は食べていそうな時間なのに1皿目も終わっていないアユカを、チコリが心配そうに見ている。


「体はちょっと怠いけど大丈夫」


「無理はさせてないはずなんだけどな」


言わんでいい! そんなこと言わんでいいねん!

みんなに何があったかバレるやろ!

恥ずかしいやろ!


「シャンツァイ様は女を分かっていませんね。どんな体勢であれ、回数が何回であれ、初めての受け入れは体への負担が大きいんですよ。今日は浄化作業で大変だというのに、本当にどうして昨日なんですか」


「やりたかったからだ」


「最低ですね。男として最低です」


「アユも満足してたぞ」


「はぁ、女は男を喜ばせるために演技できるんですよ」


「だそうだ、エルダー。お前、下手なんだな」


「酷いっす! シャンツァイ様でも今のは酷いっす!」


「エルダーは筋肉も体力もありませんからね。下手なんでしょうね」


「お前、それはないぞ。チコリが可哀想だ」


「うわーん! クレソンもグレコマ先輩も酷いっすー! 俺、下手じゃないっす! 下手じゃないっすよね、チコリ!」


チコリが苦笑いをしながら、窓の外に視線を向けた。

青い顔をしてよろけるエルダーを、シャンツァイたちが笑っている。


待ってやー!

なんで、そんな普通に話してんの!?

なんで、昨日初エッチしたことバレてんの!?

うちでさえ、さっき思い出したとこやねんで!

体が覚えててビックリして、記憶がぶわーって蘇ったとこやねんで!


会話の内容にも部屋の雰囲気にも昨日の記憶にも耐えきれなくなり、アユカは勢いよく朝食を食べはじめた。


でも食べることに集中できず、様子を窺うようにシャンツァイを見ると、甘いシャンツァイの瞳と目が合っていた。


その度に手足をバタつかせたくなり、食べるスピードが上がって、朝食が終わる頃にはいつも通りの量を平らげていたのだった。


朝食後は、全員でラッデイル山に向かった。


今までは森だったり平原だったり海だったりと平らな地域ばかりだったため、高低差がある地域がどのように浄化されていくのか分からない。


とりあえずやってみよう精神で、竜笛を吹いてみる。


グレコマとアキレアをはじめとした風魔法が使える騎士たちが風に音を乗せてくれるが、下から上に音が上がりにくいのか1回の演奏では3合目辺りまでしか浄化できなかった。

しかも、アユカたちがいる側のみの浄化だったのだ。


「反対側は分かるけど、頂上まで無理っていうのにビックリやわ」


「そうだな。もう1泊してもいいんだから無理だけはするなよ」


「多く見積もっても10回やろ。大丈夫やよ」


吹いては獣馬で登り、山頂を目指した。


山頂から入れる山の中にも瘴気が溜まっていたので、頂上でも2回ほど吹き、魔石が採れる洞窟を浄化していく。


アユカの目算通り、10回吹き終わるとようやく瘴気が見えなくなったと、空中から進捗を見ていた騎士が報告してくれた。


「終わったー!」


「お疲れ様。体は大丈夫か?」


「シャンもお疲れ様。体は大丈夫やよ」


「よかった」


シャンツァイに頭を撫でられ、アユカは笑顔でピースした。

鼻で笑ったシャンツァイが初めてピースをしてくれて、アユカはクシャクシャな笑顔を浮かべている。


「区長に報告しに戻るか」


「うん。お昼はピザ食べたい」


「昼は無理だな。報告だけにしないと宴会が始まってしまうからな」


「分かった。料理長にお願いして作ってもらうわ」


「そうしてくれ」


街に戻ると、山の変化を見ていた住民たちは既にお祭り騒ぎをしていた。


涙を流しながらお礼を何度も伝えてきてくれる住民たちに、アユカは笑顔でピースをして応えると、住民たちはダブルピースを返してくれる。


調子に乗って「ウェーイ」と叫ぶと、波のように「ウェーイ」と声が広がっていく。


シャンツァイに「それは言わないようにしろ」と注意されたので、反省してない顔で頷くと頭を小突かれた。




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