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「ピースの意味はあるのか?」
「ちょ待って! ピースってないん!? そっちの方が驚きなんやけど」
「ないぞ」
「うわー、だから、みんなキョドりながらしてたんかー」
ってか、訳分からんのにしてくれてたんか。
じゃんけんしてへんのにチョキ出す聖女なんて、頭がおかしく見えてたやろうに。
優しいな。
今までピースしていた場面を思い返しながら耽っていたら、シャンツァイに軽く頬をつままれた。
「ふぉみょん。いめやっちゃよにゃ」
鼻で笑ったシャンツァイが、つまんでいた頬を撫でるように触ってくる。
「可愛いことしてんな」
してへんよー!
逆に「甘いことしてんな」やからなー!
「い、意味やんな」
気づかれないように深呼吸して、何事もなかったように話しはじめたら、頬を触っていた手で手を握られた。
アユカの手の甲を撫でるように動いているシャンツァイの親指に、アユカは頭を抱えそうになるのを必死に耐えている。
「ピ、ピースは、楽しい時や嬉しい時や頑張ろうって時にするポーズやねん。後は、勝利の意味もあったような気がする」
「今のピースは?」
「今のは瘴気に勝つから任せてって意味。やから、頑張れっていうピースを返してくれたら嬉しい。んで、瘴気を浄化した後にするピースは喜んでて嬉しいって意味」
「全部明るい意味なんだな」
「そやね」
「なら、いいか」
「何が?」
「アユが行った地域から、少しずつピースが流行ってんだよ」
「そうなん!? なんか分からんけど嬉しい」
「なんだそれ」
小さく笑うシャンツァイを、女性陣だけではなく住民全員が見惚れている。
信じられないほど食べる聖女だが、笑顔で元気な印象が強いアユカも住民たちからの好感度が高い。
そんな2人が戯れている姿は、不安だった住民たちの気持ちを明るくしてくれていた。
宴会が終わり、部屋に戻ってくると、クレソンとチコリは早々に下がってしまった。
「いつも眠るまでおるやん」と焦るアユカが平静になる前に、シャンツァイまでも部屋からいなくなっている。
ああああああ!
なんかシャワーの音聞こえるー!
シャンか! って、シャン以外おらんやん!
待ってやー!
シャンがいつの間にかシャワー浴びてるとか、生々しすぎるって!
ああ……あああああ……
どうしよう! うち、どこに座ってたらいいんやろ?
椅子か? ソファか?
うろうろと部屋の中を行ったり来たりしながら、時々ベッドをチラ見してしまう。
ダブルベッドちゃうから大丈夫。
ベッド同士も少し離れているから大丈夫。
って、何が大丈夫やねん!
ああ、やらしいことしか考えられへん頭が憎らしい!
「百面相し過ぎだろ」
楽しそうな声が聞こえて振り向くと、タオルを被っているシャンツァイがいた。
「ははははははは」
「笑いたいのか?」
ちゃうわー!
裸って言いたいねん。
ってか、なんでパンツさえ履いてないんよ。
きつく目を閉じたアユカの耳に、シャンツァイの笑い声は届いていない。
自分の心臓の音に支配されて、それ以外の音が聞こえないのだ。
想像してたよ、想像してた。
水も滴るいい男風に、上半身裸でタオル引っ掛けてる姿を。
2人っきりの部屋で刺激強いわ、どうしようって思ってた。
でも、それ以上ってどういうこと!?
見てもたやん! 見てもたやーん!
シャンツァイが目の前に来たことにも気づけずにいると、唇に柔らかいものが当たった。
反射的に目を開けると、息がかかる距離にシャンツァイの顔がある。
「いいいいいま、ききききす」
「する約束だったろ」
瞬時にしてシャンツァイの瞳しか見えなくなり、可愛い音と共に唇に刺激が与えられていく。
恥ずかしさに耐えられなくなり、眉間に皺ができるほど目を閉じたら瞼にキスをされた。
崩れそうな体を支えるために掴める場所がほしくて、縋るようにシャンツァイの胸に手を置いた。
お返しと言わんばかりに、包み込むように抱きしめられる。
あああああ!
耳にキスされたー!
舐めたらあかーん!
「シャシャシャシャン、まままってや……」
「何を待つんだ?」
恥ずかしい! チュッチュッいうてるー!
なんなん!? この音、そんな簡単に出る音なん!?
目を閉じたままでいたいのに、どうしてかシャンツァイの顔が見たくなって気づかれないように細く目を開けてみた。
バレないわけがなく、フェロモンだだ漏れの瞳と視線がぶつかり、沸騰した顔を隠したくてシャンツァイの胸に顔を埋めるよう抱きついた。
頭を優しく撫でてくれる手が、体の緊張を解こうとしてくれている。
「キスは嫌か?」
「ちちちがう。はず恥ずかしいねん」
またチュッチュッいいはじめたー!
ん? なんかお腹にあたってる?
お腹にあたるものといえば……
アレかー!?
本当に主張してくるんや! すごっ!
って、ちゃうわー!
アレがコレってことは、シャンが興奮してるってことで……この先はああなってこうなってでで、うちとシャンがまぐわるんやろ。
まままぐわるって、なにー!?
モザイクがかかりそうなことばかりを想像したアユカはキャパオーバーになり、そこからの記憶は真っ白になった。




