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笑いが落ち着いただろうシャンツァイが、柔らかい眼差しを向けてくる。


「新年以外に、何か特別な行事はあるのか?」


「あるよ! ある! クリスマス!」


「何をする日だ?」


「家族や友達とパーティーしたり、恋人はデートしたりするねん。んで、プレゼント交換するねん」


「……パーティーやデートをするための日が決まっているとは奇妙だな」


「イエス・キリストが死んだ日でな。あれ? 生まれた日? どっちか忘れたけど、そんな日やねん」


「……ますます理解できねぇな」


「ホンマになんでやろね。でも、クリスマスは大切な人たちと過ごす日やねん。やから、来年の12月24日はデートして、12月25日はプレゼント交換しよな」


今年は、うっかりしてたわ。

日にちなんて気にしてないし、寒くないから冬やと思わんかったしで、頭から抜け落ちてたんよね。


「12月30日から1泊で瘴気の浄化をお願いいたします」って一昨日言われて、ホンマにビックリした。

「クーリースーマースー」って叫んだら、伝えに来てくれたモナルダを怯えさせてもたねんな。


恋人たちの日やのに、ホンマになんで忘れてたんやろ。

前世があまりにも関係なさすぎたからやわ。


「……2日間あるのか? 謎ばかりだな」


「後はバレンタイン! 好きな人にチョコ贈る日!」


「……そうか」


「男の人からは花束やから」


「……いつだ?」


「2月14日」


「覚えておこう」


やった! 花束ってもらったことないねんな。嬉しい。

シャンは甘いもん食べへんから、うちは甘くないチョコ作ればいいんやんな。


日にちはまた分からんくなりそうやから、チコリに1週間毎くらいに教えてもらうように伝えとこ。

起こしてもらう時に言ってもらえれば大丈夫なはず。


「後はないか?」


「んー、たぶん」


お雛様や子供の日ってデートちゃうしな。

イースターやハロウィンも、なんか違う気がするしな。

お花見や花火は、普通にデートしよっと言えばいいだけやもんな。

イベントには縁遠かったけど忘れてはないはず!


「もしあるなら、思い出した時に教えてくれ」と頭を撫でてくるシャンツァイに、アユカは大きく頷いたのだった。



目的地のラッデイル山には、夕方ごろ到着した。

今日は、麓にある街の宿舎に泊まることになっている。


住民一同で歓迎してもらい、宿舎の部屋に通されたアユカは部屋の窓からラッデイル山を眺めた。


「暗すぎて、どんな山か分からんな」


「瘴気に覆われる前は、とても綺麗な山でしたよ」


「そうなんや。魔石が採れる鉱山なんやろ?」


「はい。山頂から山の中に入れるようになっているらしく、山の中はまるで大きなお屋敷のようらしいですよ」


荷物の片付けをしながら、チコリが答えてくれている。


シャンツァイは、クレソンを連れて区長や住民と会議をしているので、今はいない。


グレコマとエルダーは、部屋の外で待機している。


「重要な山なんやでな?」


「そうですね。ウルティーリ国で使用する魔石の3分の1を担っていた鉱山ですから」


「魔石足りひんとかなってないん?」


「大きな街はまだ大丈夫でしょうが、小さな村は暗い夜を過ごしているかもしれませんね」


「んじゃ、もっと早く浄化に来たらよかったな。悪いことしたわ」


「そんなことありませんよ。同時に全てを祓うことはできないでしょうし、浄化の順番はシャンツァイ様とモナルダ様が決められていることですから。お2方は魔石よりも、先に飢えをなくすことを選ばれたんです。飢えは何より辛いでしょうからね」


暗くても工夫したら過ごせるけど、食べるもんなかったら工夫しようもないもんな。


「アユカ様、お茶になさいますか?」


「んー、チコリのお茶は美味しいけど、街の名物を食べてみたい。名物あるんか知らんけど」


「ございますよ。焼き芋が美味しいと聞いたことがあります」


「いいな、焼き芋。みんなで食べに行こ」


「私もよろしいのですか?」


「当たり前やん。チコリおった方が楽しいもん」


「嬉しいです!」


早速出かけようとしたが、宿舎前に住民が押し寄せていて外に出ることは叶わなかった。

代わりに、今日の夜の宴会で出してもらえることになった。


本来なら瘴気の浄化の成功を祝う宴の予定だったが、浄化をした後に宴会をすると帰宅時間が夜中を超えてしまうため、前祝いをすることになっている。


シャンツァイたちが会議から戻ってくると、街の広場での宴会が始まった。

音楽に合わせて飲めや歌えやと、みんな楽しそうにしている。

アユカはこの地域特産のさつまいもを食べて育ったというドントン豚のステーキを一心不乱に食べ、シャンツァイは雰囲気を楽しむようにお酒を嗜んでいる。


「聖女様。明日はよろしくお願いいたします」


「うん、任せて」


挨拶に来てくれた数名の住民に頭を下げられたので、ドントン豚を頬張りながらもピースをして応えた。

戸惑いながらもピースを返してくれる。


「ずっと気になっていたんだが」


「うん?」


「なぜ、いつもチョキを出すんだ?」


「チョキちゃうよ。ピースやん」


「……チョキだろ」


「ちゃうよ! ピース!」


シャンツァイに向けて両手でピースをした。

シャンツァイの瞳が、アユカの左手右手を見るように左右に動いている。




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