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薬は1日1種類指導することになっているため、次の日からも午後はコーラルの間で教えながら、薬を作り続けていた。
シャンツァイたちが来たのは初日だけで、進捗に関しては夕食時に話している。
キャラウェイがやってみたいとのことで「1日体験入学」を計画してみたり、騎士やメイドが覗きに来たりして、講義期間も楽しく過ごすことができた。
アユカが一通り教え終わると、8人からお礼にとカチューシャをもらい、加えて片腕の元騎士の子供から折り紙のお花をもらった。
喜んだアユカは毎日カチューシャを着けるようになり、折り紙の花はミナーテの祭壇に飾っている。
アユカの授業がなくなった次の日から従業員の5人と宮廷医の3人は、薬作りに専念しはじめたそうだ。
5人は販売用の薬の作成をし、3人は王城用の薬と新しい薬の試作をしているらしい。
コーラルの間で作り続けているため、部屋の名前が調合の間に変わったと聞いている。
そんな話を小耳に挟みながらアユカは、浄化の旅に出かけていた。
もう薬草の採取も薬を作る必要もなくなり、王宮で食す魔物は騎士団が狩ってきてくれている。
アユカの時間が大幅にできたことで、瘴気の浄化に重点を置くことになったのだ。
ただアユカが持ち歩く予備の薬や、まだ作っていない薬を作るための採取は、瘴気の浄化先で続けている。
今日浄化に向かう先は、その日に帰ってこれない距離の地域で、王城に住みはじめてから初めての外泊になる。
シャンツァイも一緒だが、1日獣馬に乗り続けるのは辛いだろうからと馬車での移動だ。
1泊するので、世話係のチコリとクレソンも同乗している。
「なぁ、シャン」
「どうした?」
なんで腰もたれたままとかは聞かへんで。
からかいたそうな楽しそうな瞳で見られてるけど、うちはシャンのおかげでレベルアップしてるからな。
そんな初歩的なこと聞かへんで。
「新年のお祝いってせーへんの?」
「国民に向けて挨拶だけするぞ。アユにもしてもらう予定だ」
「ええ!? 待ってや! なんでもっと早く教えてくれへんかったん? 言葉考えられてないやん」
「まだ1ヶ月もあるだろ。今から考える必要あるか?」
「へ? 今日って12月30日やんな?」
「そうだな」
「明後日から新年やんな?」
「明後日からは13月だ。新年まで1ヶ月ある」
は? はぁ!? 13月ってなに!?
いや、まぁ、そうか。
異世界なんやから、うちが住んでた地球と同じ暦ちゃうわな。
「うちが住んでた世界は1年は12ヶ月やってん。やから、明後日新年やのに、今浄化に出かけるっておかしいと思っててんよな」
「そうか。そっちの世界では新年に何かするのか?」
「んー、お節食べて、お年玉もらうくらいかなぁ。大人はお酒飲んだりしてた」
「……お節とお年玉って、なんだ?」
「縁起のいい食べ物を詰め合わせたお弁当みたいなものがお節で、大人が子供にお金をあげるんがお年玉」
「縁起がいい食べ物を食べるのはなんとなく分かるが、どうしてお金をあげるんだ?」
「知らん。けど、そう決まってるねん」
「変な風習だな」
変ちゃうよ!
子供にとったらお年玉ほど嬉しいもんはないんやから。
「あ! デートしよ、シャン」
「いつ?」
「新年! 初詣デート!」
「……初詣とは、なんだ?」
「神様に1年よろしくお願いしますって挨拶すること」
「朝一緒にお祈りすればいいんだな」
ちゃう! いや、ちゃうくないけど、ちゃう!
ハムちゃんへのお祈りは大切やけど、うちが言うてる初詣デートとちゃう!
おみくじ引いてさ。
恋愛運のところでキャッキャッしたいねん。
どう説明しようか考えていたら頬を撫でられて、アユカの肩が上がった。
ゆっくりと赤くなるアユカを、シャンツァイが鼻で笑う。
「慣れねぇよな」
「そんなことあらへんよ。シャンの手は覚えたもん」
「そうか。でもな、アユ。覚えるのは俺の手だけでいいんだからな。他の手を覚えるなよ」
「わか分かってる」
「いい子だ。褒美にキスしてやろう」
キキキキスー!!??
高度すぎる! あれは高度やった!
だって舌がぐちゃぐちゃって……
あー!!! 思い出したら腰もたれてる手さえ、やらしく思えてきた!
「あかん! 2人っきりちゃう!」
「ククッ。今日は同じ部屋だからな。楽しみにしてろ」
耳元で囁いたらあかん!
真っ直ぐ座られへんなる!
「って、同じ部屋!? 嘘やろ?」
「嘘つく理由ないだろ」
「同じ部屋は結婚してからやから」
「城ではそうすればいい」
「そうですよ、アユカ様。外は何があるか分かりませんから、シャンツァイ様の側にいてください」
「え? でも、グレコマやエルダーがおるし、今回はアキレアもおるやん。危ないことないやろ?」
「念には念をですよ。というか、婚約者なんですから同室は普通です」
「そうなん? 結婚前の男女にそんなに寛容でいいん? 子供できたらどうすんの?」
「ククッ。俺との子供ができたら、結婚を早めたらいいだろ」
「はい。問題ありませんね」
え? 問題ないん?
うち学校通ってないし、結婚も早めたらいいのは分かるから、言われてみたらそうなんやけど……
問題ないんか?
破廉恥やと思ってる方が、おかしいんか?
チコリも何も言わへんもんな。
いずれは家族やから同室は普通なんか。そうか。
「分かった。シャンと同室な」
なんかシャンが肩を揺らして笑ってるねんな。
うち、丸め込まれたんか?
もう何が正解か分からん。
レベルアップしてるはずやのになぁ。
おかしいわ。




