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5

窓から差し込んでくる光が暖かくて、ぼんやりと目が覚めた。


んー……何時……


携帯を探そうとしたが、いつもと異なる肌触りに頭が覚醒していく。


そうや、異世界に来たんやったわ。


寝転んだ状態で窓の外に青空が見え、気持ちいい朝だからこそ2度寝したくなった。

惰眠を貪りたくなったのだ。

でも、覚醒した頭が「起きた方がいいんじゃないか」と言ってくる。


葛藤の末、ため息を吐きながら起き上がり、腕を伸ばした。


シャワー浴びたいなぁ。


シャワーを浴びるためには許可が必要だろうし、どこにあるのか場所が分からない。


悩んでる時間勿体ないし、素直に聞くべきやな。


2度ほど頷いてベッド周りを確認したが、メイドを呼ぶだろうベルや引っ張ってよさそうな紐はなく、呼び出しボタンや電話も見当たらない。


うーん、あれやね、これは魔法使ってみたらいいんちゃんってことやね。

何事も経験って言うもんな。

使ってみよ。


ベッドから降り、何となく目を閉じてみた。

自分に魔法をかけるとなると、目を閉じた方が様になる気がしたからだ。

『クレネス』と唱えると、右手の甲の紋様が淡く光った気がした。


おお! めっちゃ便利やん!

シャワー浴びた後みたいなスッキリ感あるし、ほのかにフローラルな香りがする。

しかも、髪の毛ドライヤーせんでいいなんて楽すぎる。


初めての魔法にテンションが上がりかけたけど、視界の端に黒色の着物が入り、顔を背けて見えないふりをした。


そんなことをしたところで、服は昨日綺麗に畳んだ着物しかない。

着たくないと思いながら、仕方なく着物を身に纏った。


部屋におった方がいいんかな?

でも、たくさん出会いを求めるなら出歩いた方がいいよな。

うち、自由に恋しにきたんやし。

ここでなら、1人の女の子として見てもらえるはずやしね。


探検するか! と気合いを入れた時、ドアのノック音が聞こえた。

返事をすると、昨日部屋に案内をしてくれた執事と、黒い髪をツーブロックにした黄色い瞳の青年が入ってきた。

青年は、浴衣のような着物のような服を着崩している。


うっわ! めちゃくちゃ男前!!

ガタイいいからアクション俳優みたい。

おばさまたちの人気を独り占めって感じ。


なのに、ときめかへんなぁ。


「すっげー!」


見定めるようにアユカを中心に2周回られた。


なにが?


「お前、この着物くれないか?」


咳払いが聞こえて、執事を見る。

笑顔なのに怖くて、「怒らせたらあかん人や」と顔が引き攣りそうになった。


「キアノティス陛下、まずは挨拶ではないでしょうか」


「そ、そうだったな。わ、わるかった」


キアノティスと呼ばれた青年が、申し訳なさそうな顔をしながらも姿勢を正している。

気まずさを消すために1度目を閉じただろう後のキアノティスの顔から、見惚れるほどの力強さを感じた。

視線を攫われてしまった気がする。


「俺はこの国の皇帝でキアノティスだ。名前は?」


「アユカです」


「アユカか。いい名前だ」


「ありがとうございます。で、キアノティス様って呼んでもよろしいですか?」


「ああ、構わない。それと、敬語はいらない」


「分かった」


右手を差し出されたので、握手だろうと思って右手を重ねた。

笑顔で、上下に大きく振られる。


「昨日は待たなくて悪かったな」


「気にせんとって。遅くなったんはうちやし」


「そう言ってくれると助かる。それで執事から、アユカが見事な着物を着てるって聞いてな。俺は東洋の文化に興味があって色々取り寄せているんだが……」


興味深そうに着物を真っ直ぐ見つめられる。


東洋?

ってことは、日本みたいな国があるってこと?


「ここまで見事な着物は見たことがない。素晴らしい」


「だから、欲しいんやね」


「ああ」


まぁ、この着物、目玉落ちるくらいお高いからな。


「あげてもいいよ」


「本当か!?」


「ただし、条件がある」


「なんだ?」


「洋服と下着を10日分、靴を数足。後は、半年働かんでも過ごせるお金と交換。どう?」


数回瞬きしたキアノティスが、お腹を抱えて笑い出した。


「アユカ、気に入った。分かりやすい女は好きだ」


「どうも」


キアノティスが執事に目配せすると、執事は頭を下げてから部屋を出て行く。


「うちの国の聖女をアユカにしたかったな」


「どういうこと?」


「どの聖女がいいか揉めないように、初めから決めてたんだよ」


だから、昨日キャラウェイ様たちだけが待ってくれてたんか。


「俺のとこはトップに現れた聖女で……まぁ、何というか……俺を怖がっててな。心配になるほど、ずっと怯えてんだよ」


「違う世界に来たんやし、それが普通やで。慣れたら変わるやろ」


「そうだといいんだが」


突如、何かに気づいたようなキアノティスが笑い出した。

何がそんなに面白いのか全く分からなくて、首を傾げるしかない。


「お前、自分が普通じゃないって言ったな。おかしな奴」


「あ! でも、うちだけじゃないはず。他の2人は? 怖がった?」


「怖がってはなかったけど、警戒心剥き出しではいたな」


ふーん。説明聞いて、納得して来てるはずなんやけどなぁ。

違うんかな?


「まぁ、誰が味方か分からんしね。その気持ちも分かる」


「おかしなことを言うんだな。俺らが勝手に喚び寄せたんだ。全力で味方するに決まってんだろ」


「おっとこまえー」


「だろ」


胸を張るキアノティスと、1拍置いてから笑い合う。


多くの組員と関わってきているので人見知りではないし、コミュニケーションが取れないわけじゃない。

ただ、友達がいなかっただけだ。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

恋がしたい少女の物語が始まりました。

これから先、アユカがどのように過ごしていくのか、見守っていただければ幸いです。

少しでも楽しいと感じてもらえてたら嬉しいです。


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