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「うん、頑張ってこ。まずは、ドコンの実に魔力を入れるとこから。結構難しいんやけど、何回かやればできると思う。魔力を与えるんは、蝋燭の火を吹き消したり、スポイトの水を1滴落とすような一瞬に似てるかも」


樽から姿を現すほど山盛りに入れられているドコンの実を、親指と人差し指で挟むように持ち、みんなの方に突き出して魔力を込めた。

瞬きほどの時間で、ドコンの実はふっくらし艶やかに輝いている。


「一瞬で入れてしまうんですか?」


「一瞬やなくてもいいんやけど、込める魔力自体少ないから、ゆっくりと少しずつってのは難しいと思うねんな。まぁ、うちには無理ってだけで、ゆっくりと少しずつのほうがいいって人もいるかもやしな。魔力を込められるんやったら、やり方は何でもいいよ」


それぞれが納得したように頷き、ドコンの実を手に取っている。

そして、見事に全員実を消失させている。


シャンツァイたちも面白半分で試してるが、誰1人成功していない。


「アユカも何回も失敗してたっすもんね」


「ああ、俺たちが失敗してもおかしくないよな」


「うちが失敗してたことバラさんでいいやんか」


アユカが何回も失敗していたことを聞いて、みんなの肩の力が抜けたことが分かった。

めげずに次から次へと挑戦している。


「アユは、何回目でできるようになったんだ?」


「5回失敗したから6回目」


「そうか」


ほくそ笑んだシャンツァイが、アユカに見せるように握っていた手をゆるゆると開いた。

手のひらには、丸々と太って艶かしいドコンの実がある。


「ええ!? 2個目やんな? シャン、凄すぎる!」


「そうだろ」


「うん、めっちゃ凄い!」


凄いんは凄いんやけど、なんでエロく見えるんやろ?

さくらんぼみたいな実やから、美味しそうに見えてもエロく見えるとかないはずやねんけどな。


それやのに、実がエロく見えるってさ。

シャンの魔力はエロスでできてるってことちゃうの?


アユカがシャンツァイを褒めてイチャついている間に、みんなはドコンの実に魔力を入れることに成功していた。


みんなが成功したドコンの実で水を作っていたら時間がかかるので、アユカが午前中に用意した水を使って調合を進めていく。


煮たり混ぜたりする工程で、失敗する人はいなかった。


でも、やっぱりアユカが躓いた仕上げに魔力を込めるところで、みんなも失敗の連続だった。


「完成しました……」


魔力も精神力も底をついていそうなみんなに労いの言葉をかけながら、アユカは出来上がった薬を見て回る。


んー……うん、念のために鑑定しただけやけど、きちんとうちと同じ薬が完成してる。


「めちゃくちゃいいことなんやけどさー」


「いいことならいいじゃないっすか? 何を不満そうにしてるんすか?」


「だって、うちと同じ薬ができてんねんで。こういうのって、聖女補正でうちのだけ効能いいとかちゃうの?」


「こいつ、何言ってんだ」って目をするならツッコんで。

ツッコんでもらうために、わざと言ってるんやから。


「アユがいたから薬が作れたんだろ。こんなに愛らしくて優しい聖女は他にいないぞ」


シャンツァイに優しく頭を撫でられた後、おでこにキスをされた。

しかも、可愛い音付きだった。


ななななななななな!

あっかーん! そんな甘いことしたらあかん!


恥ずかしくて反対側を向いて顔を隠そうとした手を、シャンツァイに片手ずつ掴まれた。

後ろから覆い被されるように掴まれたので、抱きしめられているような形になる。


おおおおおおおおお!

この上級者、みんなの前で何してくれてんだ!

うち、羞恥で死んでまう!!!


アユカがどんなに悶えていようとも、周りは通常運転で進んでいく。

モナルダが、薬を1つ手に取って尋ねてきた。


「成功した薬は、問題なく使用できるんですか?」


この状態を、何とも思わんの?

ツッコミどころ満載ちゃうの?

婚約者やと普通なんか?

イチャついてなんぼなんか?


やったら、出来る女っぽく平静にならなあかんよな。


「大丈夫。めっちゃ効くとか、効きにくいとかはあらへんよ。誰でも作れるってことが証明できたから、大量生産可能になったな。これで、みんなに行き届くようになればいいよな。そのためにシャンたちはお店始めるんやもんな」


今、後頭部からリップ音聞こえたんやけどー!

あああああ、息の根を止めにこられてる!

恥ずかしくて呼吸困難になるー!


「そうですね。これで苦しむ者が減ればいいですよね」


全員が作れたという達成感もあり、人に優しい仕事ができるということもあって、温かく穏やかな空気が流れた。


薬を入れる瓶は他の薬店と変わりがないように発注することになり、薬草は冒険者ギルドに依頼することになっている。


アユカが薬瓶を作り、アユカや騎士団が採取をしてもよかったが、市場を潤すことも国には必要なので外注することにしたのだ。


それでも当初予定していた薬の価格よりも安く設定できるらしく、良くも悪くも大反響するだろうとのこと。


魔物の肉は、数日後から市井に出回るようになっているらしい。

魔物の肉に関しては強い反発もあったそうだが、反発していた人たちはほぼ反逆に加担していた人たちだったので、今は誰も異議を唱えないそうだ。


明るい未来に向かって大きく国が動く年だと、アユカが薬を試作している時に、グレコマとエルダーがアユカに聞こえるように話していた。


「薬のこともあるっすから、他の国から介入がありそうっすね」「ありえるな。シャンツァイ様は断るだろうけどな」などという言葉も聞こえてきていた。


「シャンが決めることに、うちは反対せーへんって」と思いながら、アユカは何も言わずにいたのだった。




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