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アユカが食堂でキャラウェイを待っていると、先にシャンツァイがやってきたので部屋の説明をした。


優しい顔になったシャンツァイに頭を撫でられた後、柔らかく叩かれる。


「頭ポンポンやー」と悶えそうになった時に、キャラウェイがやってきた。


驚きで口を半開きにしたまま、入り口から部屋を見渡しているキャラウェイに、シャンツァイと近づく。


「「キャラウェイ(様)、誕生日おめでとう」」


「これ、僕のため?」


「もちろんやん。今日の主役はキャラウェイ様やん」


唇を引き締めながら泣き出してしまったキャラウェイに座るように促し、夕食は始まった。


いつもより豪華だと聞いていた通り、いつもの倍はあるだろう品数にアユカは目移りばかりしている。


そんなアユカを見て笑いながら、キャラウェイは「僕、この料理好きなんだ。あ、こっちも好きだよ。美味しいんだよ」と楽しそうに食べている。


数日ぶりに見るキャラウェイの笑顔に、誰もが心を和ませていた。


いよいよ誕生日ケーキが運ばれてきて、キャラウェイの目の前に置かれた。


2段重ねのフルーツケーキの真ん中には『おめでとう』と書かれたチョコレートでできた楕円形のプレートが乗っている。


キャラウェイは、ケーキとアユカとシャンツァイを戸惑うように交互に見ている。


全てが初めてすぎて、感情が追いつかないのだろう。

喜悦しようとする心を、上手く処理できないのだろう。


「部屋もケーキも発案者はアユだ」


「ケーキ作ってくれたんは料理人たちで、飾り付けはみんなでやったんよ」


今にも涙が溢れ落ちそうな顔で周りを見渡したキャラウェイは、小さく頭を下げた。


「兄上もアユカ様もありがとうございます。みんなもありがとう。僕は未熟者だけど、みんなを守れるような大人に頑張ってなるからね。もし、みんなが誤った道に進みそうな時は、気づいて止めるからね。兄上やアユカ様みたいにカッコいい大人になるからね。本当にありがとうございます」


もう1度頭を下げるキャラウェイに、全員で拍手をした。


顔を上げたキャラウェイに、シャンツァイからアユカと合同で用意したプレゼントを渡してもらう。


「よろしいんですか?」


「ああ。誕生日おめでとう、キャラウェイ」


「ありがとうございますっ。僕、幸せですっ」


堰き止めていた涙が溢れ出てしまったのだろう。

大粒の雫を落とすキャラウェイが落ち着くのを待ってから、ケーキを食べた。


キャラウェイとニゲラの「チョコレートプレートを部屋に飾りたい」「いえ、食べてください」というやり取りを、大人たちは微笑ましく見守っている。


結局、クレソンがニゲラを援護して、チョコレートプレートはキャラウェイのお腹の中に収まったのだった。


「今日のことは忘れません」と、幸せを滲ませながらプレゼントを抱きしめて部屋から出ていくキャラウェイを見送ってほっこりしたことは、全員同意見だろう。


やっぱり、誕生日は祝ってもらってなんぼやわ。

即席やけど、それっぽくなってよかったわー。


「アユ、ありがとな」


「ええよ。やりたくてやってることやから」


シャンツァイは柔らかくアユカを見た後、クレソンに視線を投げかけた。

クレソンは一礼をし、メイドたちを退出させた。


部屋にはアユカとシャンツァイ、グレコマとエルダーとクレソンだけが残っている。


「キャラウェイは、俺を殺して王になるよう育てられていたらしくてな。言葉にするのを憚れるほどのおぞましい教育内容だったそうだ。


その頃の俺は、どうすれば父親から王位を奪えるかばかりで、弟に一切興味なかったんだよ。腐っていく国をどうにか建て直したくて、それ以外どうでもよかった。


だから、母親が死んで初めて会った時も、俺はあいつを見て『すぐ死にそうだな』としか思わなくてな。害にもならないだろうって放っておいたんだ。


そしたら、あいつは何を思ったのか、俺の力になりたいと勉強を始めたとタンジーがわざわざ言ってきてな。おかしなことを起こさせないために監視役としてニゲラを付けたんだ」


アユカは相槌さえ打たずに、シャンツァイの話を聞いている。

相槌さえ邪魔になると思ったのだ。


「ニゲラの報告から、キャラウェイの過去の悲惨さを知ったんだ。そして、たった1人の家族になってしまった俺に認められたくて頑張っているということも。まともに話したことない兄を、よく慕えるものだと驚いたもんだよ」


何を思い出したのか鼻で笑ったシャンツァイが、アユカを真っ直ぐに見てきた。


「俺とキャラウェイがきちんと話したのな、アユが俺を治した日が初めてなんだよ」


「そうなん? 前から仲良いんやと思ってたわ」


「いいや、ずっと『いる』という感覚だけだったな。どうでもいい存在だと思っていたが、俺は意外にも弟を好きだったようだ。あの日、俺の姿を見て泣き出したキャラウェイが可愛く見えて目を疑ったよ」


「会えるうちに好きって気づいてよかったやん」


「ああ、そう思ってる。俺は子供らしく育たなかったから、まだ子供のキャラウェイの甘やかし方が分からなくてな。アユが動いてくれて本当に助かっている」


「甘やかし方ってのは、うちもよく分からんけど、頭撫でてあげたらいいと思うで」


「なんか意味あるのか?」


「1つのコミュニケーションやし、撫でられると単純に嬉しいやん」


「そういうもんか?」


「そういうもんやと思うよ。それに、シャンはよくうちの頭を撫でてくれるやん。やから、撫でるん好きなんやと思ってたわ」


「俺のは、ただアユに触りたい欲求を撫でて満たしてるだけで、頭以外を触っていいなら頭以外がいいんだけどな」


「な? ななななななな何を言い出してんの!?」


「別におかしなことは言ってないだろ。で、頭以外でもいいのか?」


「あああああかん!」


「残念」


全然、残念そうな声ちゃうやん。

うちの反応を見て楽しんでるやん。


ああ、あれやわ。

うちは、きっと癒し系なんやわ。


だって、多忙で中々笑わへんていうシャンを笑わせてんねんで。

それって癒してるってことやろ?


アユカは、頭以外どこを触りたいのか考えたくなくて、現実逃避中なのだ。

考えてしまったら、確実にこの場から逃げ出してしまうからだ。


要するに、うちは極上の癒し系ってことやんな。

うちから醸し出される癒し成分を求めて、からかってしまうってことやろうからな。


しゃーないな。

ここはうちが大人になって、からかわれてあげよう。

存分に癒されておくれ。


「なんかあの顔ムカつくっすね」「見なきゃいいんだよ、見なきゃ」というお約束の声は聞こえないふりをした。




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